【資料3】大事なのは作品だけではなく○○だ
若い女性のZINEといい、ジェイムのZINEといい、だいぶ個性的であることを実感した作家とアシスタントは、次の目当てのブースに向かった。その向かっている最中に、眼前に4人の女子中学生らしき集団が現れた。そのうちの短いボブヘアで背の低めの女の子が作家に向かって、
「柳沢先生!」
と笑顔で手を振った。
「君達もファンかね?」
作家が聞くと、その女の子は
「はい! 先生の作品が好きで読んでます!」
と、はきはきした笑顔で言った。
「先生の執筆された『赤い令嬢』大好きです!」
隣にいた、背の高めな茶色いショートヘアの鋭い目をした女の子も笑顔で嬉々として言った。
「つい最近も、みんなで『赤い令嬢』の話をしてまして……」
黒いボブヘアの女の子は嬉しそうに話し続けた。
「主人公の令嬢が、屋敷で起こった殺人事件について推理して真犯人を探し出す話だよね?」
背が4人の中で平均的な、ポニーテールの黒髪の女の子が割って入った。
「で、これは人間ではなく、屋敷に棲み付いたゾンビの仕業―—」
背が4人の中で最も高くて肩幅も大きく、綺麗なセミロング黒髪のおっとりとした女の子も言った。
「だって、あの残虐な殺され方は、どう考えても人間じゃないでしょ。首が無くなったり、体の一部が食べられてて内臓が剥き出しになってるんだよ」
ポニーテールの黒髪の女の子が恐ろしげに言った。いや、ここでネタバレされても――とツッコみたくなる作家だったが、そこは一先ず置いておくとした。
『赤い令嬢』―—それは、数か月前の、新作のテーマを決めた時に発案された小説である。約2か月の構想及び執筆期間を経て、今年9月に新作として漸く発売された。「推理」「女の子」「ホラー」の3テーマが盛り込まれた内容となっている。その後、売れ行きは順調な様相を呈し、作家やアシスタントにもそれなりの収入があったので、二人とも「成功だ!」と悦に耽るがあまり、出版社の担当編集者と三人で朝まで飲み明かしたくらいだ。
「そこまで読んでくれてる君らには感謝だな」
作家は、彼女らに微笑みながら言った。
「よければ、ここにサインをいただいても大丈夫でしょうか?」
黒いボブヘアの女の子が、購入したZINEの1冊を出し、裏表紙を指差し、サインをするように求めた。サインを要求されたのは何年ぶりだ? ―—そう考えた作家であった。
「したいのは山々なんだが、生憎ペンが無いんだ」
作家もアシスタントも筆記用具を持参していない。
「貸してあげるよ」
大柄の女の子がそう言って、鞄からサインペンを取り出し、黒いボブヘアの女の子に渡した。
「お願いします!」
黒いボブヘアの女の子は、ペンを差し出し改めて要求した。
作家は、そのペンを持ち、数年ぶりの慣れない手付きで、女の子の指定した所にサインを書いた。そして、ペンとサインの入ったZINEを返却した。
「ありがとうございます、嬉しいです!」
黒いボブヘアの女の子は、感無量と言わんばかりの表情で礼を言った。その他3人の女の子も皆「ありがとうございました!」と一斉に言った。
「今後も私の作品を読んでくれると嬉しいな」
作家が言うと、4人は「はい!」と一斉に元気旺盛な反応を示した。そして、4人は最後に軽く会釈をして、作家達と別れた。
「山田君」
「はい?」
作家の唐突な言葉に戸惑うアシスタント。
「物書きにおいて、大事なのは作品だけではなく、何か分かるか?」
「うーん、才能とかセンスですかね?」
「違うね」
アシスタントの答えを作家は小馬鹿にした上で否定した。
「勿論、それらも大事なんだけど、作品と同等に最も重要なのは――人間だよ」
「……」
アシスタントは一瞬押し黙った。そして、
「その根拠とソースは何処に?」
作家は顎に二本指をやりながら、格調付けてこう言った。
「私の持論だ」
「そうですかっ」
アシスタントは小馬鹿にされた感じを返すように意識して言った。
その後、階上及び階下の会場において、目的のブースや気になったブースを回って、諸々のZINEを購入し終わった後、アンケートを記入し回収ボックスに入れた上で、会場を退出した。




