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【資料1】小説セット

 会場は多くの人で込み合っていた。

 開場と同時に、長蛇の列は順調に進み、作家やアシスタントも文学フリマの会場に入った。前売り券を事前に購入していたので、会場で当日券を購入する必要は無く、そのまま入場ゲートを通過できた。まずは階上のエリアから攻めていくことにした。

 階上のエリアは、ひらがなブースになっていて、「あ~ね」のひらがなと数字でブース番号が割り振られている。

 階下のエリアは、アルファベットブースになっていて、「A~X」のアルファベットと数字でブース番号が割り振られている。

 行きたいサークルは、2日前の作家とアシスタントによる会議で目星を付けていたので、そこから順々に回ることにした。しかしながら、作家は回っている最中に、あるブースに目を引かれたので立ち寄った。

「えっ?」

 アシスタントも予定外のブースに寄る作家に対して当惑する。

「こんにちはー」

 出店者の若い女性が笑顔で対応した。年齢20代くらいの雰囲気である。

「こんにちは。こちら少し見せてもらってもいいかい?」

と、作家。女性が頷くと、作家は早速展示されているサンプルのZINEをパラパラと立ち読みし始めた。厚さ20ページくらいの冊子で、短編小説である。

「先生……」

 アシスタントが言いたいことを言おうとしたが、その時、作家は出店者の女性に質問した。

「これは執筆から製本まで、全部自分でやったのかい?」

「はい、コピー本として全部自分でやりました」

 女性ははきはきとした笑顔で答えた。

「なるほど」

「先生、その『なるほど』とは何に対して?」

 アシスタントは遂に口を挟んだ。

「この女の子の作品作りに対する労力に対してだよ。盛大なエールを称えたいと思ってな」

「相変わらず上から目線ですね」

「いえいえ、全然そんなこと――お言葉ありがとうございます」

 アシスタントのツッコミに、女性は少し引き攣った笑顔で対処した。

「ところで、これは何だい?」

 作家は、コピー本の集まりのすぐ横にある白い封筒の並びを見て質問した。

「小説セットです。1パッケージ500円で、中に3冊のコピー本が入ってます」

「なるほどね。ここから見る限り中身は分からない?」

 パッケージと称される白い封筒には「A」だの「B」だの記号だけ手書きで大きく書いてあるのみで、後の情報はない。封は糊とテープで固く閉じられている。

「中は開けてみてからのお楽しみです」

 女性は笑顔で言った。その笑顔には、悪魔のような意地悪さが少し滲み出ていた。

「山田君、これはいわゆる『ガチャ』ってやつだね。資料として当たりが出るかもしれないし、外れが出るかもしれない」

「早く選んでください。深く考える必要はないはず」

「待ってくれ。少しでも当たりを引くためには策がある。それは経験と直感に頼ること」

 パッケージはA~Hまである。この中で「当たり」がどれくらい入っているかは分からない。会場内の電気に透かしてみると、僅かに中身のコピー本のタイトルが透けて見える。

「まさか、先生……」

「お客様、すみませんがそれは……」

 アシスタントも女性も、その行動に抗議の姿勢を見せる。

「しゃーないな。それじゃ、直感でDだ」

「Dセットですね。ありがとうございます」

「先生、それはどういう……」

 アシスタントは聞いた。

「小説セットの存在に気付いた時、既に封筒が少し透けて見えていた。その時、セットDの中身のコピー本のタイトルに目を引いたんだ。はっきりとは見えなかったが、文字の形から作家の勘がウズウズ動いたのだよ」

「なるほど、その時から既に透視をしていたと」

 とアシスタント。

「これは別に違反じゃないよね?」

 作家は女性の目を見て言った。

「勿論です。既に透視の能力をお持ちとのことなので――私の負けです」

「私は封筒の状態から推測して選んだまでだ。後、何が負けなのか分からん」

 作家は軽蔑したように言った。その態度にアシスタントは作家を睨み付ける。

 そして作家は代金500円を払い、セットDを購入した。

「楽しんでくださって何よりです。また、よろしくお願いします」

 女性は最後、満面の笑顔で二人を見送ってくれたのだった。


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