奥様とステラ 双子のシロとハクの思い出
奥様とステラ 双子のシロとハクの思い出
あの、奥様。ちょっとだけ、さわってもいいですか?
ぽんこつメイドロボットのステラと古いアンティークな双子の真っ白なロボットのシロとハクのお話
「ハクー。いるー」
とんとんとハクの部屋の古い扉をノックして、ステラは扉越しに(扉に口をくっつけるみたいにして)そんなことを言った。
「うん。いるよ」
とそんな小さな声が扉の向こう側から聞こえてくる。(いつもののんびりとしたハクの声だった)
それから古い扉の前で、少し待っていると、ゆっくりと古い扉が開いて、そこから寝ぼけた顔の(きっと起きたばかりの)ハクが顔を出した。
「おはよう。ステラ」
にっこりと笑って、寝起きのハクは言った。
「うん。おはよう! ハク!」
朝からとっても元気な声でステラは言った。
「なにかぼくにようなの?」
いつものように、のんびりとした声でハクは言う。
「ちょっとだけ、ハクに手伝ってもらいたいことがあるんだ」
と、笑顔のままでステラは言った。
「うん。わかった。ふくだけきがえるから、ちょっとだけまってて」
子犬の絵の描かれているパジャマ姿のハクはそう言って一度、古い扉を閉めた。
ステラが古い扉の前で、ハクが着替えをしている間にお屋敷の壁に寄りかかるようにして、ちょっとだけ目をつぶって待っていると、少ししてもう一度、古い扉が開く音がして、暗闇の中でその音を聞いて、ステラが目を開けると、そこには眩しい笑顔の黒い執事服を着ている神秘的な真っ白な顔と体をした、なんだかとってもきらきらと輝いて見えるかっこいいハクが立っていた。(思わず、ステラはちょっとだけ、どきどきしてしまった)
ハクにはシロという名前の双子のお姉ちゃんのロボットがいた。
二人の顔は双子(つまり同型の、しかもまったく同じ製造ナンバーをもつとっても珍しいロボットだった)というだけあってそっくりだった。
シロはとっても美人のメイドロボットのお姉さんで、弟の執事ロボットのハクも、とっても綺麗な顔をしていた。シロもハクもとても背が高くて、彫刻のような美しい形をしていた。
二人は人間の憧れる顔や体の形を目指して作られたロボットだった。
現在のロボットはそんな風には作られていなくて、みんな個性的で、独創的で、それぞれが別の、つまりオリジナルの顔や形をしている。(まるでお母さんから生まれてくる人間の赤ちゃんのように)
でもシロとハクはそうではなくて、お人形のように理想の形をしていた。
それはシロとハクがロボットが人間と一緒に暮らし始めた、はじめのころに作られた古いロボットだったからだった。
そのころのロボットは今とは違って、完璧な人間として、あるいは超人のような存在として、そこに『ある』ことを理想とされていたのだ。(神様が人間をお作りになり、人間がロボットを作り出した。でも、人間も、ロボットもどちらも完璧な存在ではなかった。完璧なのはまだ見たこともない神様だけで、人間もロボットも、いつも失敗ばかりをしていたのだ。空を飛ぶこともできないままで、歩いては倒れて、倒れては起き上がって、また歩くということを繰り返していたのだった)
それからシロとハクの特徴として、真っ白な髪と真っ白な体というものがあった。
それは人間と人間にそっくりなロボットを見分けるためのとってもわかりやすい目に見える特徴ということらしいのだけど、現在のロボットはそんなことはされていなくて、人間にそっくりなままだった。
そしてもう一つ。目に見えない特徴として、シロとハクはとっても『力持ち』だった。
ロボットとしての力が今のように人間と同じくらいに制御されていなくて、人間の何倍も力持ちのままだったのだ。(ステラも、シロとハクに出会ったばかりのころは、二人のなんでも動かせたり、持ち上げられたりする力のすごさにとっても驚いてばかりだった)
シロとハクは今ではとっても珍しいロボットで、アンティークと呼ばれて、ロボットが大好きな人たちからは、とっても貴重で高価なロボットとして有名だった。
「えっとね、あ、ほら、あそこ。ハク見える? あそこの木の枝の上に子猫がいるでしょ? とっても綺麗な真っ白な子猫」
木漏れ日の差し込む早朝のお屋敷の広いお庭の大きな森の中を歩いている途中で、ステラはハクの執事服を引っ張りながら小さな子供みたいにして、そう言った。
「うん。ほんとうだ。まっしろなこねこがいる」
とぼんやりとした顔のままで、木を見上げるようにして、のんびりとした声でハクは言った。
「あの子ね。奥様のところに遊びにきている奥様のご友人の子猫でユキっていうお名前なの。ユキは森の中で遊んでいて、木の枝の上に登ったのはいいけど、おりられなくなってしまったみたいなの。だから、ハク。お願い。いつもみたいに、ね」
とステラはにこにこしながら(ぎこちないウインクをして)言った。
「うん。わかったよ」
そう言って、木の根元のところでハクはかがむと、嬉しそうにして、ステラはハクの片方の肩の上にゆっくりとメイド服の長いスカートを折りたたむようにしながら、上品に座った。
ハクは片手でステラの体をしっかりと支えるとそのままひょいっとステラを肩の上に乗せたままで簡単に立ち上がった。(まるでステラがそこにいないみたいだった)
するとステラの手は木の枝の上にあるユキにまで、ちょうど届くようになった。
「ユキ。ほら。おいで。怖かったでしょ?」
と笑顔でステラはそう言った。
するとユキはとっても怖かったのか、ぷるぷると震えていた体を勇気を振り絞って動かして、まだ震えたままで、ステラの伸ばした手の中に勢いよく飛び込んできた。(ステラはそんなユキをしっかりと捕まえた)
ステラは「よしよし。もう怖くないね」と言いながら、ぎゅっとそんなユキを抱きしめた。
それからステラとハクはお互いの顔を見て、にっこりと笑った。
お屋敷の中庭まで行くと、そこには奥様とハクの双子のお姉ちゃんであるロボットメイドのシロがいた。(真っ白な長い髪を後ろでまとめている真っ白な体をしたシロはいつものようにとっても神秘的で、綺麗で、思わず見惚れてしまうほど美しかった)
奥様は中庭にある真っ白なテーブルのところで、ゆっくりとシロとお話をしながら、みかんやいちごなどの新鮮な焼きたての果物のクッキーのお菓子(シロが焼いたのだと思う)を食べながら、お気に入りの白い陶器のカップで、新鮮なミルクを飲んでいた。
そんな奥様のお腹はとっても大きく膨らんでいた。なんでそんなに大きく奥様のお腹が膨らんでいるのかというと、奥様のお腹の中には『女の子と男の子の双子の赤ちゃん』がいるからだった。
奥様とシロは森の中から歩いてきたステラとハクとステラは抱っこされている子猫のユキを見つけると、にっこりと笑って「みんな。こっちにいらしゃい!」と奥様が大きな声で言いながら、大きく手招きをした。
ステラとハクとユキはなんだかとっても嬉しくなって、少しだけ早足になって、奥様とシロのいるところまで歩いて行った。
そして、みんなでおしゃべりをしながら、森のほうから小鳥の鳴き声が聞こえる、朝の美しい日差しの中で、とっても楽しいお茶会をした。(とっても、とっても、なんだかまるで幸せな夢の続きを見ているみたいに、楽しかった)
なんだかとっても懐かしいな。みんな元気かな。……、私のこと。みんなまだ覚えていてくれるかな?
奥様とステラ シロとハクの思い出 終わり