8 魔力判定式の日
アルメリアの誕生パーティーから数日後の事。今日はアルメリアの魔力判定式の日だった。
普段は皇帝の命によって侍女しか入る事が許されていない離宮もこの日は特別に聖光教会の関係者だけは出入りする事を許されていた。
また、この場には皇帝直属の近衛騎士の姿もある。アルメリアの護衛の為にこうして派遣されてきたのだろ。
「殿下、今日は何があろうと私の命を掛けてでも殿下をお守りいたしますのでご安心ください」
「ふふっ、感謝いたしますわ」
「そう言っていただけると幸いです」
すると、近衛騎士は懐から小さな木箱を取り出し、それをアルメリアへと差し出した。
「殿下、こちらは陛下からの贈り物でございます。どうぞ、お受け取り下さい」
近衛騎士から差し出された木箱を受け取ったアルメリアは木箱の蓋を開ける。その中に入っていたのは一つの小さな指輪であった。
その指輪で一番、目を引くのは着けられた白く輝く大きな宝石だろう。
「この指輪は?」
「錬金術師たちに作らせた指輪でございます。殿下の魔力判定式に際し、皇帝陛下よりご下命を預かっております。陛下はこちらの指輪を身に着けて魔力判定式に臨む事をお望みでした」
「分かりましたわ」
そうして、アルメリアは自身の右手の人差し指に指輪を嵌める。その指輪はまるでアルメリアのために作られたかのように彼女の指にピッタリのサイズだった。
そして、アルメリアがその指輪を嵌めてから少しした後、一人の侍女が部屋へと入ってきた。
「姫様、失礼いたします。教会より司祭様がいらっしゃっております」
「分かりましたわ。入ってもらいなさいな」
「畏まりました」
アルメリアがそう告げると、その侍女は部屋から出ていく。そして、少しするとその侍女が法衣を着た男性を伴いながら再び部屋へと入ってきた。
「姫様、司祭様をお連れいたしました」
「初めまして、アルメリア皇女殿下。私は此度の魔力判定式を執り行いますクリスと申します。教会にて司祭の位を授かっております」
クリスと名乗った男性は恭しく一礼をした後、アルメリアに向かい合うようにソファーへと腰かけた。
「では、これよりアルメリア殿下の魔力判定式を執り行います」
そして、彼はカバンの中から大きな水晶玉を取り出した。
「これは一体何なのですか?」
「これは、魔力判定水晶という特殊な聖遺物です。この水晶にて魔力の兆候の確認を行います」
そう言うと彼は水晶玉に手を触れながら、何らかの言葉を唱え始める。アルメリアには聞き覚えのない言葉だったが、彼が言葉を唱え終えるとその水晶玉は鈍い光を放ち始めた。
「アルメリア殿下、こちらの水晶に手をお触れください」
「ええ」
そして、アルメリアは机の上に置かれた水晶玉に手を触れる。すると、水晶玉が淡い光を放ち始めた。だが、それは数秒の事でその光はすぐに消えていた。
「おめでとうございます。あなたからは魔力の兆候は確認されませんでした」
司祭は微笑みを浮かべながらそう告げる。
「そうですのね。安心しましたわ」
「では、これにてアルメリア殿下の魔力判定式は終了となります。私めは次の予定があります故、これで失礼いたします」
そして、彼は机の上の水晶玉をカバンの中へと直すと、ここまで彼を案内していた侍女に先導されながら離宮から去っていった。
「ふぅ、何事も無くて何よりでしたわね」
去っていった司祭を見送ったアルメリアは思わずそう呟く。すると、先程まで後ろで控えていた近衛騎士がアルメリアの傍まで近づいてきた。
「殿下、失礼ですが先ほどお渡ししました指輪の方をお返ししていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、分かりましたわ」
そして、アルメリアは指輪を外そうとする。
だが、その時、彼女の目に先程自らの指に嵌めた指輪の宝石部分が目に入った。不思議な事にそこが先ほどの白色とは打って変わって、まるで闇と見紛うような黒色に染まっていたのだ。
「……あら?」
「どうかなさいましたか?」
「この指輪の宝石部分、先程まで白かったはずのここが黒くなっていますの」
アルメリアはそう言いながら指輪を外し、そのまま近衛騎士へと手渡す。指輪を受け取った近衛騎士は宝石部分を確認し、思わず息を飲んだ。
「間違いない、やはりアルメリア殿下こそが……」
「どうかしましたの?」
「殿下、突然で申し訳ありませんが、急用が出来ました。ですので、これにて失礼いたします」
そして、近衛騎士は指輪を懐にしまうと、アルメリアの返事を聞く事なく、慌てて部屋から退出していく。
「……一体、何だったのかしら……?」
部屋に残ったアルメリアは侍女と顔を見合わせると、呆然とそう呟くのだった。
その一方、アルメリアの離宮から去っていった近衛騎士は皇帝からの密命を果たすべく、自らの主の元へと急いでいた。
「……この事実を一刻も早く陛下にお伝えしなくては」
彼はそう呟きながら離宮の道を駆け足で進み、自らの主の元へと急ぐのであった。




