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7 二年後

「はぁ、つまらないですわね」

「陛下の命です。ご辛抱ください」

「分かっていますわ。ですが、もう二年もここに閉じ込められていては流石に飽きてきますわ」


 アルメリアの暗殺未遂騒動から二年が経過していた。

 あの事件以降、皇帝の命によってアルメリアはこの離宮を出る事を禁じられており、この二年の間、彼女はこの離宮で毎日を過ごしていた。


「陛下も姫様の御身をご心配なされているのです。ご理解ください」

「お父様のお気持ちも理解していますわ」


 侍女の言葉にアルメリアはそう返すが、あの場所にて自分の中にあった何かが目覚めた彼女にとって離宮に閉じ込められてきたこの二年は本当につまらない毎日でしかなかった。

 また、この二年でアルメリアには淑女としての嗜みや礼儀作法といったものの教育が行われており、それが彼女にとってのいい退屈しのぎになっていた。

 しかし、最近ではそれも終了してしまった為、退屈な日々に逆戻りしていた。


「お姉様も前に戦地への慰問に向かってしまわれてから、唯一の楽しみだったお姉様とのお茶会も全く出来ていませんもの」

「姫様……」

「お姉様、早く帰ってきて欲しいですわ。今日はわたくしのお誕生日ですのよ。お姉様も一緒にお祝いしてくださると約束しましたのに……」


 すると、コンコンと部屋の扉がノックされた。アルメリアが許可を出すと一人の侍女が部屋に入ってくる。

 その侍女の顔を見たアルメリアは一瞬にして体を起き上がらせた。その侍女は前に見たマリアーナ付きの侍女だったからだ。


「アルメリア様、失礼いたします。マリアーナ様の指示によりアルメリア様をお迎えに参りました」

「お姉様が戻られましたの!?」

「ええ、既にアルメリア様の誕生日パーティーの準備も整っております」


 侍女のその言葉にアルメリアは興奮を隠せない。


「では、早速案内をお願いいたしますわ!!」

「畏まりました」


 そして、アルメリアは侍女に案内されるままマリアーナの元まで向かう。そこには既にマリアーナがおり、彼女の目の前には


「アルメリア、久しぶりね」

「お久しぶりです。お姉様、お会いしたかったですわ!!」


 数か月間も会えなかったアルメリアはマリアーナの元まで駆け寄ると、そのまま彼女に抱き着いた。マリアーナもアルメリアを優しく受け止めた。

 久しぶりの再開に二人は心躍らせる。


「お姉様、わたくしお姉様にお会いできなくて本当に寂しかったですわ」

「ふふっ、仕方がない子ね。さて、あなたのお誕生パーティーを始めましょうか」

「はい、お姉様」


 そして、彼女たちは二人だけの誕生パーティーを始めるのだった。



 アルメリアとマリアーナは二人だけの誕生日パーティーを始めた。しかし、その雰囲気は彼女たちが今迄行っていたお茶会と殆ど変わらなかった。

 そんな中、マリアーナは出会ったあの頃よりも成長したアルメリアを見ながら、優しく微笑む。


「それにしても、あの小さかったアルメリアももう十二歳なのね」

「はい、そうですわ」


 すると、アルメリアの年齢を聞いたマリアーナはふと何かを思い出したような表情を浮かべた。


「そういえば、十二歳という事はあなたも魔力判定式を受けることになるのね」

「……魔力、判定式?」


 しかし、マリアーナの口から出たその単語にアルメリアは聞き覚えがなかった。


「お姉様、魔力判定式とは一体何なのですか?」

「あら、アルメリアは魔力判定式の事を知らないのね」

「ええ」

「という事は聖光教会や魔王の昔話の事は知っているかしら?」

「……聞いた事がありませんわ」

「じゃあ、そこから教えてあげるわね。これは千年以上前に実際に起きたと伝わっているお話よ」


 そうして、マリアーナは昔話をし始めた。


 それは千年以上も昔の出来事だった。

 今と同じように大陸中に多数の国家があったその時代にある時、突如として自らを魔王と名乗る『魔力』という強大な力を持った存在が現れた。

 そして、魔王はその力を以て、一国を乗っ取るとそのまま世界中の国々に対して、こう告げた。


『我に従属せよ。従うのであれば我が力を分け与えよう。だが我に従わぬ者達は民の一人に至るまで皆殺しにする』


 だが、そんな魔王の突然の宣言に対して人々は当然従う筈も無い。すると、魔王は自らの言葉通り、自らに従わぬ者達を次々と殺していった。

 そんな魔王の脅威に人々は抵抗を行ったが、魔王の持つ魔力の前には誰も敵わず、抵抗した者たちは次々と殺されていった。

 更に魔王は自らに下った者達に自身の魔力を分け与え、魔族と呼ばれる存在へと変えていく。魔族の力は驚異的であり、まさに人間の上位種とでも呼べるほどの力を持った存在だった。更に魔族は自らの下僕となる魔獣という存在を生み出し使役していた。

 魔王、魔族、魔獣、そのどれもが当時の人類にとっては底知れぬ脅威であった。そして、魔王に従う事を良しとしなかった国々は連合を組み、魔王への抵抗を続けたが、それら三つの存在によって彼ら少しずつ数を減らしていき、次第に劣勢を強いられていく。


 だが、追い詰められた人類に一人の救世主が現れた。それこそが魔王の持つ魔力に唯一対抗できる『聖気』と呼ばれる力の持ち主、後世に勇者と語られる者であった。

 勇者は自らの力を分け与えた仲間や魔王に抵抗する国々の協力の元、魔王が率いる軍勢と激しい戦いを繰り広げていく。そして、彼等はその果てに彼等は魔王の元へと乗り込み、魔王やその配下たちと三日三晩の間、激しい戦いを繰り広げ、その果てに勇者は遂に魔王を討ち果たした。


 そして、魔王を討ち果たした勇者は生き残った人類と共に魔王達によってボロボロになった世界を再興していくことになる。

 そんな勇者の偉業を称え、勇者が築いた平和を守るべく後の時代に作られた世界最大の宗教組織、その名を聖光教会といった。


「ですが、先程のお話に出てきたその聖光教会と魔力判定式はどう関係がありますの?」

「それはね、魔王の正体に関係があるのよ」


 魔王の正体に関してはほとんど現代には伝わっていない。唯一伝わっているのは生まれながらにしてその身に魔力を宿した人間だったという事だけだった。

 それ故、聖光教会は生まれてきた子供全員に魔力判定式を行うことで将来の魔王となりうる可能性のある魔力の持ち主を見つけ出す事に尽力しているのだという。

 それこそがかつて魔王を討ち果たした勇者を振興する自分たちが負うべき使命なのだと聖光教会の信徒たちは信じていた。


「だからこそ、この魔力判定式は聖光教会にとっては大切な儀式なのよ」


 また、彼女たちは知らない事だが、魔力判定式は平民、貴族、王族といった身分に関係なく、全員が受けることを義務付けられている。そして、これを拒絶するという事は聖光教会への明確な反逆行為とすらみなされる。

 そして、聖光教会は世界各国の国々に多大な影響力を持っている。もし、教会への反逆行為を行えば、

 いくら強大な軍事力を持っているとはいえ、ヴァレリア帝国だけで世界中の国々を同時に相手に戦えるはずもない。


「もし、その魔力とやらを持っている事が分かったらどうなってしまいますの?」

「ごめんなさい、そこまでは分からないわ。教会に捕らえられて、隔離施設で一生を暮らす事になるという話は聞いたことがあるのだけど、その位しか分からないわ」

「お姉様、わたくし不安ですわ。もしわたくしがその魔力を持っていたら……」


 だが、マリアーナは不安げな表情を浮かべるアルメリアの頭を優しく撫でた。


「ふふっ、アルメリアなら大丈夫よ。心優しいあなたが話に出てくる魔王と同じ魔力を持っている筈がないわ」

「お姉様がそう仰るのなら大丈夫ですわね」

「ええ、大丈夫よ」


 そうして、二人は微笑みあう。


(大丈夫、大丈夫よ。こんな可愛らしいアルメリアがかの魔王と同じ魔力を持っている筈がないわ)


 マリアーナは心の中でそう何度も呟くが、どうしてかその度に心の中には一抹の不安が過った。彼女はその不安を消し去るように首を横に振る。


「……折角のお誕生パーティーというのに暗い話になってしまったわね。次はもう少し楽しいお話をしようかしら」

「ええ、分かりましたわ」


 そして、二人は誕生日パーティーを再開するのだった。

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