6 一方、帝都にて
アルメリア襲撃事件の翌日、彼女達は戦場を後にする事になっていた。
元々、彼女たちの戦場への慰問は三日間行われる予定だったが、初日にアルメリアが襲われた事件が発生。その為、慰問は急遽中断、彼女たちは急いで皇宮に戻ることになったのだ。
そして、アルメリア襲撃の一件は当然ヴァレリア帝国の皇帝であるガイウスにも伝えられた。
「成人すらしていない身で刺客の奇襲を乗り越えるどころか、逆に刺客の命を奪う、か。やはり、本当に惜しいな」
そう言いながら、ガイウスは報告書を机の上に置く。
「して、余の娘の命を狙った者の正体は掴めたのか?」
「ええ、どうやら奴はエクレイト王国ではかなり名の通った暗殺者だったようです。依頼主も既に掴んでおります」
そして、側近は懐から一枚の書状を取り出し、ガイウスへと手渡した。それはヴァレリア帝国の皇族を標的とした暗殺の依頼書であった。
依頼主の欄にはエクレイトの国王と宰相及び国王側近の大貴族たちの名が連名で記されている。
エクレイト王国はヴァレリア帝国が少し前に征服した国の名だ。
そして、これはそんなエクレイト王国の王城にあったものを押収した際に偶然見つけだしたものであった。
「先の侵攻戦でエクレイトの王城は既に陥落。残すは各地の反抗勢力のみ。ここにある依頼日を考えるに、陥落前に最後に一矢でも報いようと娘の暗殺を狙ったという所か」
「ええ、陛下のおっしゃる通りです。この依頼書を元に捕えているエクレイト王国の国王と宰相を尋問しました所、同じ証言を得ております。こちらは今回の襲撃計画の全容を纏めた報告書となります」
そして、ガイウスは手渡された報告書を読み始めた。
襲撃計画は、まず後方の駐留地に少数の部隊を接近させ、周囲の森に潜伏させる。皇族が乗る馬車が到着後、夜の闇に紛れて駐留地を奇襲し皇族の命を奪う。
もし、奇襲部隊で皇族を殺める事が出来なかった場合には皇族の護衛は手厚くなるかもしれないが、その時には予め依頼した暗殺者によって確実に皇族の命を奪う、というのが彼らの計画だった。
「ですが、途中の大雨による土砂災害が功を奏したようです。分断され、先行した馬車を見た奇襲部隊が馬車に皇族が乗っていると思い込み、奇襲をかけたようです」
「なるほどな。連中も運が無かったという事か」
「陛下、捕えた王族たちの処遇は如何なさいましょうか?」
「無論、一族郎党を刑に処せ。愚かにも我が帝国の皇族の命を狙ったのだ、この罪は奴らの死でしか贖えん」
「畏まりました」
「余の娘たちが慰問を行う事を知っていたのはそれほど多くない。内通者が何処かに潜んでいる可能性もある。徹底的に調査を行え」
「はっ!!」
そして、側近たちは揃って部屋から退出していった。
一方、執務室に残ったガイウスは先程の報告書を再び読んでいた。
「ククッ、しかしアルメリアは本当に面白いな。あの娘を産んだ者にも興味が出てきた。あの娘を産んだのは一体誰であったか」
そう言いながら彼は自身の昔の記憶を辿っていく。
大国であるヴァレリア帝国ともなれば、皇帝の妃や子供らも数多くいる。その為、自身の子であったとしても顔と名前を知っているだけの子らも多くいるのだ。
そして、目的の記憶にたどり着いたその時、彼の心中は今迄に無いほどに興奮で包まれた。
「クハハハハハッ、ハハハハハハ!! そうかそうか!! 思い出した、思い出したぞ!!
女児を産んだと聞き、すっかりと興味を無くし、完全に忘れていた!!
となると、アルメリアはあの力を持って生まれている可能性も十分にある。数年後を楽しみに待つとするか」
そして、彼は興奮冷めやらぬまま執務を再開するのだった。