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白銀皇女の覇道譚 ~侵略国家の皇女は覇道を歩む~  作者: YUU
第三章 婚約破棄騒動編

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53 決闘

今日は二話投稿しております。

前話を未読の方は先にそちらからどうぞ。

 そして、一週間後、早くもウィリアムとナターシャの決闘の日が訪れていた。


 彼女達が向かっているのは学園の施設である決闘場だった。普段は軍部志望の学生の訓練等で使用される施設だが、今日は普段とは違い、ウィリアムとナターシャの決闘で使用される事になっている。


「では、行きますわよ」

「はい」


 そして、二人が決闘場に入るとそこには既に笑みを浮かべているウィリアムの姿があった。

 また、この場には他の観客達の姿もある。恐らくは、学園でも珍しい決闘という事で観客が集まったのだろう。


「よく、逃げずにきたな。そこだけは褒めてやる」

「はぁ、そうですか……」


 ウィリアムは開口一番にそんな事を言うが、今のナターシャには彼から褒められても何の感情も湧かなかった。


「それで、お前の代理人の姿が見えない様だが、何処にいるのだ?」

「ここにいますわよ」


 すると、そう言いながらアルメリアはナターシャの後ろから歩み出てきた。

 しかし、彼女の姿を見たウィリアムはその何処か見た覚えのある顔に一瞬だけ驚くが、直後にはその表情に侮りの色が見受けられた。


「こんな新入生がお前の代理人だと? 何かの冗談のつもりか?」

「いえ、わたしは本気です。この方がわたしの代理人です」

「ええ、間違いなくわたくしが彼女の代理人ですわ」


 そう言いながら、アルメリアはすっと手を挙げる。そして、彼女は次にウィリアムの後方にいる二つの剣を腰に帯剣している身なりの整った男性に目を向けた。


「それで、そこにいる方があなたの代理人ですの?」

「そうだ。出番だぞ」


 すると、ウィリアムの後ろにいたその男が前に出てきた。


「初めまして、今回の決闘の代理人をさせていただきます、ギルベルトと申します」


 その男の態度は紳士的であるが、何処か武人の威圧感の様な物が体から放たれていた。

 貴族の中にはこの様な決闘の際に備えて、優秀な者を予め囲っていると聞いた事がある。恐らく、目の前にいるこのギルベルトという男もそういった類の人物なのだろう。 


「では、アルメリア様、お願いいたします」

「ええ」


 ナターシャが小声でそう言うと、アルメリアはそう言いながら首を縦に振る。その一方でウィリアムは自身の代理人であるギルベルトに視線を向けた。


「分かっているな。お前にはアレも渡しているんだ。負ける事は決して許されんぞ」

「はい、分かっています」


 そして、アルメリアとギルベルトは揃って前へと歩み出てきた。


「準備はよろしいかしら?」

「ええ、何時でも大丈夫ですよ」


 確認を終えた二人は決闘場の中央へと歩みを進めていく。その後、何処からか一人の男性が現れた。彼はどうやらこの決闘の審判役らしい。


「それでは、これから今回の決闘のルール説明を行います」


 そして、審判は今回の決闘のルールの説明を始めた。

 この決闘は三本先取だった。審判が有効と認める攻撃が決まるか、使用している武器が使えなくなるか、そのどちらかで一本を取る事が出来る。

 また、一本が決まる度、互いに武器を降ろして元の位置に戻る。過度に相手を痛めつける行為や相手の命を奪おうとする行為は禁止であり、それが行われた時点で対象者は失格となる。


 そして、それらの説明を終えた審判は二人の間に立った。


「では、これよりウィリアム・フォン・ヴァレリア第六皇子並びにナターシャ・アクトレイテ侯爵令嬢、両名による決闘を始めます!!」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いいたしますわ」


 ギルベルトは決闘の挨拶として恭しく一礼をする。また、アルメリアは淑女らしく、スカートの裾をそっと持ち上げた。

 そして、互いに剣を構える。


「では、始め!!」


 そして、審判が開始の宣言をする。遂に決闘が始まった。

 しかし、決闘が始まったというのに双方に動きは全く見られなかった。


「あら、来ないのかしら?」

「先手は譲ってあげますよ」


 その言動は丁寧だが、それに反し彼の態度は明らかにアルメリアを侮っている様子が見られる。


「ふふっ、では遠慮なく」


 そして、アルメリアは一気に距離を詰め、そのまま剣を振るう。すると、その直後、ギルベルトの剣が勢い良く上空に弾き飛ばされた。


「なっ……」


 そして、アルメリアは無防備で呆然となっているギルベルトの首元に剣の切っ先を突き付ける。


「ふふっ、これでまずは一本ですわね」


 ギルベルトは相手がただの小娘だと完全に油断していたのだろう。その為、アルメリアの攻撃に反応できず、そのまま最初の勝負を決められてしまったのだ。


 そして、アルメリアは剣を下ろし、元の位置に戻って行く。

 しかし、ギルベルトは状況が完全に飲み込めず、呆然としていた。


「剣を拾いには行かれませんの?」

「っ、分かっていますよっ」


 そして、アルメリアの言葉で正気を取り戻したギルベルトは床に落ちたままの自らの剣を拾うと、再びアルメリアと相対した。


「先程までは相手が学生だと油断していました。しかし、今度は油断しません」

「あら、油断しない程度でわたくしに勝てると思っていますの?」


 その時、審判が二本目の開始を告げた。

 すると、ギルベルトは先手必勝と言わんばかりに即座に距離を詰めてきた。


「ふふっ、その程度の事、わたくしに読めないと思いまして?」


 だが、案の定、その攻撃はアルメリアに呆気なく防がれた。先程とは違い、すぐに決着とはならなかった。

 そして、そのままギルベルトとアルメリアは互いに剣を交えていく。そんな中で彼はアルメリアの剣の技量を嫌でも感じさせられ、その高さに驚きを禁じ得なかった。


「っ、強いっ……」


 先程は油断もあり、一瞬で勝負が決してしまった為に分からなかったが、アルメリアの技量はかなり高い。

 純粋な剣技では間違いなく負けている。

 彼が勝っているのは性差による腕力と体力ぐらいだろう。もし、アルメリアが彼と身体能力面の条件が同じならば既に決着が着いていてもおかしくなかった。


「ならばっ!!」


 そして、ギルベルトは力任せに大きく剣を振り上げ、そのまま振り下ろした。しかし、その行動はアルメリアに読まれていた。アルメリアはその一撃を防ごうと剣を構える。だが、それは彼も分かっていた。


「はぁ!!」


 彼が行った事、それは力任せの一撃だった。腕力ではこちらが優っているのだ。それを利用しない手はない。


「……っ」


 ギルベルトの全力を込めた一撃を防ぐ事が出来たが、その直後、彼女の剣はあらぬ方向に逸らされてしまう。


「もらったっ!!」


 そして、ギルベルトは彼女に出来たその隙を突き、再び勢い良く剣を振るう。


「ふふっ、甘いですわよ」


 だが、アルメリアはそれすらも読んでいたのか、逸らされた自身の剣とギルベルトが全力で振るう剣の勢いを逆に利用し、そのまま剣ごと腕を弾き上げた。


「なっ……」


 そして、そのままの勢いでアルメリアは剣の切っ先を今度はギルベルトの胸部へと突き付けた。


「これで、二本目ですわ」

「くっ……」


 二本を連続で取られた事でギルベルトの表情には明らかに焦りの色が浮かんでいる。

 アルメリアの様な学生に決闘で負けたとなればとんでもない恥を晒す事になるだろう。今後、決闘の代理人に選ばれる事すらなくなってしまうかもしれない。


「くそっ、こうなったら!!」


 すると、男は持っていた剣を放り投げ、帯剣していたもう一つの剣を抜き放った。その剣は明らかに今まで使っていた剣とは格が違っていた。

 また、その剣に似た物をアルメリアは知っていた。彼が持っていたのは間違いなく魔剣だった。


「そんなっ、決闘で魔剣を使うなんてっ!!」


 そして、それを見たナターシャはそう叫ぶ。だが、彼女の言葉に反論するのは対戦相手であるウィリアムだ。


「決闘で魔剣を使う事はルールでは禁じられていない」


 そう、彼の言う通り、決闘のルールで魔剣を使う事は禁止されていない。

 しかし、決闘では魔剣の様な特殊な武器の使用は慎むべきという暗黙の了解があったのも事実だ。

 だが、ウィリアムはそんな暗黙の了解を破ってまで、今回の決闘に勝利する事に拘っていたのである。


 しかし、そんな相手と相対するアルメリアは寧ろこの展開を待っていたと言わんばかりの表情だ。


「なるほど、そうきましたのね。なら、わたくしもあなたと同じく魔剣を使わせて頂きますわね」


 そして、アルメリアは先程まで使っていた剣を遠くへと放り投げた。

 その直後、影が不自然な動きをしながら、前方へと広がる。そして、その影の中から一本の剣が浮かび上がってきた。

 それはアルメリアの為の魔剣である女帝の裁剣だ。


 彼女の魔剣から放たれるその威圧感にギルベルトは思わず息を呑む。


「まさか、それも魔剣、なのか……?」

「ふふっ、あなたも魔剣を使うのですから、わたくしが使っても何の問題もないでしょう?」


 そして、アルメリアは魔剣を手に取り、そのまま優雅に構えた。


「さぁ、始めましょうか」

「くそっ!!」


 こちらも魔剣を抜いた以上、引き下がる訳にはいかない。


「では、三本目の決闘を始めます」


 そして、審判の宣言で三回目の決闘が始まった。

 すると、その直後、先程まで離れた位置にいた筈のギルベルトの姿がいつの間にか彼女の目の前にあった。

 ギルベルトの姿を目にしたアルメリアは彼の攻撃を咄嗟に防ぐ。


「っ、速いですわね。先程とは大違いですわ。その魔剣の能力ですの?」

「そうだ、この魔剣の能力は身体能力の向上だ。その魔剣の能力が発揮される前にお前を倒してやる!!」


 そして、向上した身体能力を武器にギルベルトはアルメリアと相対していく。


「なるほど、その魔剣の能力、厄介ですわね」


 一方のアルメリアはギルベルトが使う魔剣の能力に手を焼いていた。

 今のギルベルトは身体能力だけで言えばそれこそ、力を解放したアルメリアに準ずるかもしれない。

 だが、この魔剣の身体能力向上効果にはデメリットもあった。


「ですが、慣れていませんわね。先程よりも動きが単調ですわよ」


 そう、ギルベルトの動きが先程までに比べて単調になっていたのだ。恐らく、今使っている魔剣は使い慣れたものではないのだろう。明らかに不慣れな様子が見て取れた。

 

「それがどうした、お前も防戦一方だろう!!」


 だが、ギルベルトの言葉通り、この戦いではアルメリアは防戦一方だった。

 元々の時点で今のアルメリアの身体能力は彼に劣っていた。その上、ギルベルトは身体能力を魔剣の力で更に向上させているのだ。防戦一方になるのも当然だろう。

 それでも彼女は卓越した剣技でギルベルトと渡りあう。


「やはり、力を出し惜しみしていては厳しいですわね」


 そう言いながら、アルメリアは距離を取るために後方へと飛び退く。

 

「では、少しだけ本気を出させていただきますわね」


 そして、直後アルメリアは自身の魔剣の切っ先をギルベルトへと向けた。

 何かが来る、そう思い身構えたギルベルトだが、その直後に起きた出来事に驚きを隠せなくなる。

 なんと、アルメリアが魔剣から手を少しだけ離した直後、魔剣そのものがギルベルトに目掛けて一直線に動き出したのだ。


「なあっ!?」


 その予想外の光景に一瞬だけ呆気に取られる。

 この決闘では一度始まれば、他の場所から武器をとってくる事は出来ない。先程まで使っていた剣も遠くにある。

 だからこそ、彼はアルメリアが唯一の武器を手放すとは思ってもいなかったのだ。

 しかし、彼も流石と言うべきか、直後には即座に反応し、自身の魔剣を動かして、飛んでくる魔剣を弾き飛ばした。


(危なかった……。だが、これでっ!!)


 そして、次に正面を向いた時、ギルベルトは更なる驚きに見舞われた。


「いつの間にっ……」


 そう、離れた位置にいた筈のアルメリアがいつの間にか目前に迫っていたのだ。


(しかし、この女の手元には既に武器はない。先程まで使っていた剣も既に場外、この勝負は貰ったっ!!)


 しかし、どうにも違和感がある。何がおかしい。

 そんな違和感を抱いたギルベルトが改めてアルメリアの姿を見やると何故かその右手には先程何処かへと弾き飛ばされた筈の魔剣が握られてのだ。

 しかも、先程より魔剣から放たれている威圧感が遥かに増している。


 ーーーあれを受ければ死ぬっ!!


 そう直感したギルベルトは思わずアルメリアの攻撃を魔剣で受け止める。

 だが、その直後だった。アルメリアの一撃を受けた彼の持つ魔剣の刀身は一瞬にして粉々に砕け散ったのだ。


「なっ……」


 何処かに弾き飛ばされた筈の魔剣がアルメリアの手元に戻ってきていたのか、それは簡単な話だ。

 アルメリアと女帝の裁剣は魔力的に繋がっている。故に、魔剣がアルメリアの手元から離れたとしても彼女が望めばいつでも手元に呼び戻す事が出来るのだ。

 

 そして、彼が使っていた魔剣が壊れた理由も難しい話ではない。

 彼の使っていた魔剣は総合的に見てかなりの高級品なのだろう。しかし、アルメリアの持つ魔剣、女帝の裁剣は魔族であるアイシャが主であるアルメリアの為に作り上げたものだ。

 まさに格が違うのである。故に全力を出せば破壊するのも難しくはなかった。

 そして、アルメリアは審判の方へと顔を向けた。


「これは、三本目でよろしいのかしら」

「っ、使用武器の喪失により決闘継続を不可と認定します。これにより、この決闘はナターシャ・アクトレイテ侯爵令嬢の勝利となります!!」


 審判がそう宣言するとアルメリアは魔剣を影へと仕舞い、決闘場から降りてナターシャ達の元へと向かっていった。


「アルメリア様、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました」

「いえ、この程度の事、苦労の内に入りませんわ。では、ナターシャ、行きますわよ」

「ええ」


 そして、彼女達はこの決闘の精算を行うべく、相手であるウィリアムの元まで向かっていく。




 その一方、ウィリアムは自身の代理人であるギルベルトへと詰め寄っていた。


「一体、何をしているのだ!! この決闘の準備の為に一体どれ程の労力を費やしたと思っている!!」


 ウィリアムは今回の決闘に際し、彼は自身の持てる全ての伝手を使い最高の人材を用意した。その上で万が一にも負ける事がない様にと高級な魔剣まで貸し与えたのだ。

 しかも、相手の代理人は学園に通う小娘だ。決闘が始まるまでは彼は自身の勝利を確信していた。

 しかし、蓋を開けてみれば勝利する所か、なす術もなく呆気なく敗北してしまったのだ。

 彼が怒り狂うのも当然だろう。


「女学生一人にあんな呆気なく敗北するとは、恥晒しも良いところだ!!」

「も、申し訳ありません……」

「謝って済む問題ではない!! くそっ、くそっ!!」


 決闘に敗北したという現実から逃れる為か、彼は自身の代理人の不甲斐無さをひたすら責め立てる。

 すると、そんな時だった。彼の背に二人の人影が近づいてきた。


「ウィリアム皇子殿下」


 その声にウィリアムが後ろを向くと、そこにはアルメリアとナターシャの姿があった。


「決闘で私が勝利した際の約束、お忘れではないですよね」

「くぅぅぅぅ!!」

「お忘れならもう一度言わせて頂きます。婚約破棄の事、あの日の無礼な言葉、その全てを謝罪して下さい」


 ナターシャがそう告げるとウィリアムは苦虫を何匹も噛み潰したかの様な激しく苦い表情を浮かべる。


「い、今までの事、も、申し訳なかった……」


 そして、ウィリアムはそう言いながら頭を数秒だけ下げたが、その直後には頭を上げる。

 その後、彼はそのまま慌てて自分の決闘の代理人や取り巻き達と共に決闘場から去っていった。

 これで、今回の騒動も一応は解決だ。


「では、わたくし達も帰りましょうか」

「はい」


 そして、彼女達はこの決闘場から去るのだった。

ここ三話ほど長文が続き、書き溜めも少なくなった為、ほんの少しの間、お休みを頂きます。

次回投稿は木曜日です。

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