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白銀皇女の覇道譚 ~侵略国家の皇女は覇道を歩む~  作者: YUU
第三章 婚約破棄騒動編

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48 婚約破棄という名の茶番

「ナターシャ・アクトレイテ、お前との婚約を破棄させてもらう!!」


 ウィリアムはその決定的な言葉を確かにそう告げた。

 しかし、その瞬間、辺りの場の空気が一気に凍りついた。


 だが、それも当然だろう。皇族であり、この学園の代表たる生徒会長でもあるウィリアムが、この様な公の場で突然、婚約の破棄を告げたのだから。


 一方、ウィリアムのその言葉を聞いたアルメリアはあの時、自分の脳裏に過ぎった嫌な予感の正体を理解した。

 それと同時にウィリアムの愚行に彼女は今までにない程の呆れの溜め息を零した。

 しかし、アルメリアのその内心を知る由もないウィリアムはナターシャの罪を次々と述べていく。


「アルメリア様、宜しいのですか?」


 そう声を掛けてくるのは側にいるアミィだった。


「……ええ、このまま見届けるしかありませんわ。この状況でわたくしが出来る事はありませんもの」


 今のアルメリアはヴァレリア帝国の皇女アルメリア・フォン・ヴァレリアではなく、アルメリアという一平民なのだ。

 ここで、ナターシャを庇おうとしても何の力にもなれないだろう。


 また、ここで彼女が皇族として名乗り出た場合、学園では極力身分を隠す様に、という父の命に反する事になってしまう。

 更に言うなら、名乗り出た所でこの事態が解決するとは思えない。寧ろ、場を更に混乱させてしまうだけだろう。


「この学園の生徒会長としてお前の様な悪女をこれ以上、この学園に置いておく事など許容できない。故にお前に退学処分を言い渡す!!」

「はぁ……」


 そして、ウィリアムのそんな言葉を聞いたアルメリアの呆れは頂点に達した。


「退学になった以上、お前はこの場には相応しくない。連れて行け!!」

「「「はい」」」

「いやっ、止めて下さいっ!!」

 

 そして、彼女を取り囲む男子学生の手によって、遂にナターシャは舞踏会場から追い出された。


「さぁ、これで悪女はいなくなった。折角の舞踏会だ、皆で存分に楽しもう!!」


 そして、この場に集まっていた者達は困惑しながらも舞踏会を再開する。


「……はぁ、仕方がありませんわね」


 その一方でアルメリアはそんな彼等を背に会場の入り口に向かおうとしていた。


「アルメリア様、何処に行かれるのですか?」

「お帰りになられるのでしたら、私たちも一緒に帰ります」


 そう言うのはアークスとアミィの二人だ。しかし、アルメリアはそんな彼等を手で制止する。


「あなた達はここに残りなさい。そして、この後に何かがあれば、わたくしに報告をなさい」

「畏まりました」


 そして、会場から出たアルメリアが向かったのは入り口に控えていたリリアの元だ。


「リリア、先程会場から追い出された令嬢の姿は見ていたかしら?」

「ええ」

「では、その令嬢は何処に向かったのかは知っているかしら?」

「はい、あちらです」


 そして、アルメリアはリリアと共に彼女の示した方向へと向かっていくのだった。


 


 舞踏会の会場に併設された庭園、そこでは一人の令嬢が膝を地面に着けてぐったりと項垂れながら座り込んでいた。

 そんな彼女の名前はナターシャ・アクトレイテ、先程婚約者から婚約破棄を突き付けられた侯爵令嬢だった。

 今の彼女は高位貴族の令嬢らしくない仕草をしているが、それも仕方がないだろう。


「どうして、どうして……」


 突然の婚約破棄でナターシャの頭は限界を超えていた。近頃、ウィリアムがアイリスという男爵令嬢に熱を上げていたのは知っている。

 それでもまさかこんな公の場で堂々と婚約破棄を告げられるとは思ってもいなかった。


「どうして、こんな事に……」


 もし、この婚約がなくなれば、彼女の今後すらどうなるか分からない。父からの酷い叱責だけで済めば良いが、運が悪ければ勘当処分すらありうるだろう。

 だが、それも当然だ。今のナターシャには皇族から婚約破棄をされたという汚名がついて回るのだから。そんな者を家に置いておける程、彼女の父が寛容であるかは娘であるナターシャでも分からなかった。


「私はこれから一体どうすれば……」


 すると、その時だった。彼女の後ろから足音が聞こえてきたのだ。


「やっと見つけましたわ」


 その声が聞こえてきた方を向くと、そこにはアルメリアとリリアの姿があった。そして、彼女達はナターシャの元まで歩みを進めていく。


「あなたは確か、アルメリアさん、でしたよね。どうしてここに……?」

「わたくしはあなたを助けにきましたのよ。さぁ、ナターシャさん、わたくしの手をお取りなさいな」


 そして、アルメリアはそう言いながらそっと手を差し出すのだった。

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