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白銀皇女の覇道譚 ~侵略国家の皇女は覇道を歩む~  作者: YUU
第一章 幼少編

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5 目覚め

「ん、んんっ……。あら、ここは……。どこかしら……?」


 アルメリアが目を覚ますと、そこは見覚えのない天井があった。ここは何処かと、朦朧とした頭で今迄の記憶を掘り返していく。

 そして、意識が次第に目覚めるにつれ、彼女は今までの事を思い出していた。


「思い出しましたわ。確か、わたくしはお姉様の膝の上で……」


 そこまで思い出したアルメリアはマリアーナの姿を探すがその姿は見当たらなかった。


「お姉様、お姉様は何処かしら?」


 そして、アルメリアは起き上がりテント内を見渡すが、彼女の姿はテント内の何処にも見当たらない。すると、アルメリアはベッドから出て、そのままテントの外へと出ていく。

 何時の間にか時刻は夜になっていたようで空は暗く染まっているが、駐留地には照明となる松明がいくつも設置されており、そこまで暗くない。


 そして、アルメリアは外へと出た後、護衛としてテントの外で見張りをしていた近衛騎士に声を掛けた。


「ねぇ、あなた」

「はい、どういたしましたか?」

「お姉様は何処にいらっしゃいますの?」

「マリアーナ殿下はあちらのテントにて慰問を行っております」


 そう言いながら近衛騎士は少し離れた位置にあるテントの方を指差した。すると、それを見たアルメリアは笑顔を浮かべる。


「まぁ、そうですのね。分かりましたわ!!」


 そして、アルメリアは最愛の姉に会うべく、近衛騎士に教えてもらったテントへと駆け出した。


「あっ、殿下!! 一人では危険です、お待ちください!!」


 その近衛騎士もアルメリアを追いかけようと慌てて駆け出そうとするが、その直後アルメリアの傍にあるテントの陰に黒いローブを身に纏った明らかに不審な人影が見えたのだ。

 黒いローブと夜闇のせいでその人物の顔は見えない。だが、明らかにこの駐屯地の者ではない事は分かった。また、その両手にはそれぞれ短剣が握られている。


「っ、まずいっ!!」


 黒いローブの人物を見た瞬間、長年の経験からか近衛騎士はその者がアルメリアを狙っている刺客だと悟った。


「姫様っ、刺客です!! すぐにそこからお逃げください!!」


 だが、近衛騎士の全力の叫びにアルメリアは思わずその言葉を発した近衛騎士の方を向いてしまう。

 それを見た黒いローブの刺客は思わず口元を歪め、勢いよくアルメリア目掛けて走り出した。


 その直後に近衛騎士の放った言葉の意味を理解したアルメリアは慌てて刺客がいる方向へと視線を戻した。

 また、近衛騎士も必死にアルメリアを守ろうと、全力で駆け出すが、決して軽くはない装備を着た近衛騎士と軽装備の刺客では足の速さが違った。


「ヴァレリア帝国第五皇女アルメリア・フォン・ヴァレリア。その命、貰い受ける」


 このままでは護衛は間に合わない、そう判断したアルメリアは本能的に護身用として持たされていた短剣を懐から取り出し、そのまま鞘から引き抜いた。

 しかし、刺客はそんな彼女の姿を見て口元に笑みを浮かべる。今まで何人もの人間の暗殺に成功してきた彼にすれば、温室育ちの姫君が護身用の短剣を持ったからといっても何の脅威もなりえないからだ。


「これで、終わりだ」


 そして、刺客は手に持った短剣をアルメリアの心臓に目掛けて突き出した。


「姫様っ!!」


 取った、そう思った刺客は口元に笑みを浮かべた。


「……っ!!」


 しかし、その先に訪れた未来は刺客が思い描いた未来とはほんの少しだけ違っていた。

 それは彼女の生物としての本能か、あるいは覇王と呼ばれた父から受け継いだ才覚か。彼女は刺客の持つ短剣が自身の心臓に命中する直前、体を捻り心臓への直撃を避けたのだ。


「ちぃっ!!」


 刺客はその手応えから自身の初撃が失敗したことを悟り、アルメリアの体に刺さった短剣を引き抜こうとする。

 だが、その瞬間だった。刺客は暗殺対象である筈のアルメリアの表情が見えた。しかし、そこにあったのはこの状況に似つかわしくないような表情であった。


「ふふっ、ふふふふっ……」


 そう、アルメリアは嗤い顔を浮かべていた。その表情はこの状況が楽しいといわんばかりだったのだ。

 死が目前に迫った人間が浮かべるとは到底思えないその表情に刺客は一瞬だけ気を取られてしまった。

 そして、その一瞬はこの状況においては致命的であった。彼女が反撃として振るった短剣は的確に刺客の首元を切り裂いていた。


「ばか、な……」


 そして、刺客は首元から大量の血を吹き出しながら地面に倒れ、命を落とすのだった。




「ん、んんっ……。あら、わたくしは一体……?」


 目を覚ますと、そこには涙を浮かべながら手をそっと握るマリアーナの姿があった。


「アルメリアっ!! よかった、目を覚ましたのね……」

「あら、お姉様、わたくしは一体……?」

「アルメリア、あなたはどこまで覚えているかしら?」


 マリアーナのその言葉にアルメリアは先程までの事を思い出した。

 そして、彼女が覚えている最後の記憶は持っていた短剣で黒ローブの男の首元を切り裂いた所で止まっていた。


「ああ、そういえばわたくしは……」

「思い出したかしら?」

「……ええ、思い出しましたわ」


 その瞬間、アルメリアは胸の辺りに痛みを感じた。彼女は痛みから苦悶の表情を浮かべるが、それを見たマリアーナは悲壮な顔を浮かべる。


「アルメリア、大丈夫!?」

「え、ええ、大丈夫ですわ」

「そう、よかった。目覚めてくれて……。怖かったでしょう。ごめんなさい、大切な妹を守れなくて……」


 そう言いながら、マリアーナはそっとアルメリアを抱きしめる。しかし、その一方でアルメリアはマリアーナの胸の中である一つの思いを抱いていた。


(ふふっ、ふふふふっ……)


 アルメリアが思い出すのは意識を失うあの直前のまでの事だ。

 あの瞬間、彼女の心を埋め尽くした感情は今までに味わった事のない狂喜と甘美だった。あの時、あの瞬間、アルメリアの中にあった何かが確かに目覚めたのだ。


(ふふっ、ふふふふふふっ、命が奪われそうになるあの感覚。そして、他者の命を奪うあの感覚。ああっ、素晴らしいですわ。癖になってしまいそう。

 わたくし、もっとこの喜びを味わいたいですわ!!)


 そして、アルメリアはあの幸福な瞬間を思い出しながら、マリアーナの腕の中でそっと嗤うのだった。

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