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白銀皇女の覇道譚 ~侵略国家の皇女は覇道を歩む~  作者: YUU
第二章 学園編

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42 彼女を従えた後

 アイシャに自身の正体を明かしたアルメリアは彼女と共に昼にも利用した学園の談話室に再び招かれていた。ここにある魔道具を使えば秘密の会話も難しくないからだ。

 また、本来はこの時間に学園の施設を利用する事は出来ない筈だが、ここにいるのは学園の教師であるアイシャだ。その為、時間外であっても学園の施設を利用する事も容易かった。


「さて、と。折角ですし、改めてわたくしの事をあなたにも明かすとしましょうか。わたくしの本当の名はアルメリア・フォン・ヴァレリア。このヴァレリア帝国の第五皇女ですわ。改めてお見知りおきくださいな」

「アルメリア様がヴァレリア帝国の皇女……」


 にっこりと微笑みながら自身の正体を明かすアルメリアにアイシャは一瞬だけ驚くが、次の瞬間には何か納得したかのような表情を浮かべた。


「ああ、そういう事だったのね。だから、あの男はあんな物を要求してきたのね。納得したわ」

「……なるほど。あなたがお父様の協力者ですのね」


 アルメリアの魔力隠匿の指輪は父である皇帝ガイウスからの贈り物だ。そして、この指輪は魔の錬金術で出来ている。その為、アルメリアはガイウスには魔族の協力者がいると推測していた。

 そして、アイシャの言葉から推測するに彼女こそがこの指輪の制作者にして皇帝の協力者の魔族なのだろう。


「それにしても、あの皇帝、まさか成功するとは思わなかったわね」

「あら、それはどういう事ですの?」

「昔、このヴァレリア帝国に協力する事になった時、皇帝にある魔道具を渡した事がありまして……」


 そして、アイシャはこれまでの経緯を簡潔に話し始めた。

 かつて、魔王が討たれた後、アイシャは自らの新たな主となる魔王の後継者を生み出そうと様々な研究を重ねていた。

 最初に彼女は自分達魔族と魔王の違いを考えた。

 アイシャ達魔族と魔王の違い、それは人間を魔族へと変える事が出来るか否かである。


 そして、アイシャは一つの仮説を立てた。魔族が人間を魔族化できない原因、それは魔族が魔王によって魔力を後天的に『与えられた者』であるから。ならば、先天的に膨大な魔力をその身に宿して生まれてくる『与える者』であれば、それは魔王の後継者足りうるのではないか。


 その後、アイシャは自身のその仮説を基に専門分野である魔獣の創造技術を応用して一つの魔道具を作り出した。

 それは母体となる人間に埋め込む事で胎児を魔力で染め上げる事で先天的に魔力を宿した赤子を人工的に生み出す事が出来るというものだった。


 そして、彼女はその魔道具の性能を確かめるべく、娼婦や浮浪者を使った実験を行った。しかし、結果は散々なもので、母体が魔道具の膨大な魔力に耐えきれず死に至るか、或いは子を産んだとしても魔王となるような素質は一切見られない平凡としか言えないような子供が生まれるか、或いは死産するか、そのどれかでしかなかった。

 そして、その後の数十回の実験の結果でも結果は変わらず、アイシャはその魔道具を失敗作と判断。魔王の後継者となる存在を生み出す研究については一時保留とし、彼女は別の研究に移行する事にした。


 その後、アイシャがガイウスの協力者となってから暫くの時間が経過したある日、彼女は突然ガイウスから魔王を生み出す事が出来る様な魔道具を要求される事になった。その際、彼女はその失敗作を皇帝に渡す事にしたのだ。


 余談ではあるが、その際にアイシャはキレながら、「そんなものが本当にあるのなら、とっくに自分が使ってるわ!!」と叫びながら、倉庫の片隅に眠っていた魔道具を探し出したりしていた。


 そういった経緯もあり、まさか皇帝が魔王の後継者たる存在を生み出す事に成功していた事に彼女は驚きを隠せなかったのだ。


(わたくしの生まれにそのような秘密があったとは思ってもみませんでしたわね……)


 一方でアルメリアは自身の生まれに隠された秘密を知り、驚きはするがそれ以上の感情は抱かなかった。それにアルメリアが持つ魔力もこの秘密があったからこそ得られたものだ。そこに感謝こそすれど、非難するつもりは今のアルメリアには全く無かった。


「そういえば、貴女は先程魔獣の創造が専門分野と仰っていましたわよね」

「ええ、その通りです」


 アイシャは嘗て魔王の元で魔獣の研究と生産を担っていた。魔王が討たれた後、世界の陰に潜んでいてもそれは変わらない。

 彼女は今日に至るまでずっと魔獣の研究を続けていた。


「でしたら、あなたに一つお願いがありますの。わたくしの僕となる魔獣を作って下さらないかしら?」

「アルメリア様の、ですか?」

「ええ、あの工房で見た魔獣を見て、わたくしも欲しくなってしまいましたの」

「……畏まりました。ですが、アルメリア様に献上する魔獣ともなれば生半可な物を用意するわけには参りません。ですので、多少お時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「ええ、問題ありませんわ。特に急いでもいませんもの」

「ありがとうございます」


 アルメリアからの依頼にアイシャは奮起する。魔獣を作る事においては自分の右に出る者はいないと自負している。

 そんな彼女にとって新たな自らの主に献上するための魔獣を作れる事は彼女にとってこの上ない喜びだった。


「そういえば、アルメリア様は自身の眷属をお持ちではないのですか?」


 アイシャの言う眷属とはおそらく魔族の事だろう。伝承では魔王の元には数多の魔族が仕えていたという。しかし、アルメリアの周りにはそういった魔族の姿は一切見られなかった。

 アルメリアの傍に控えているあのリリアという侍女も魔族ではないだろう。


「ああ、その事ですのね」


 一方、アルメリアの方にも魔族化を行っていない理由があった。

 彼女が何故、眷属たる魔族を持っていないのか。その理由は単純である。今のアルメリアには魔族化の方法が分からなかったからだ。

 伝承で伝え聞く限りでは自身の魔力を相手に分け与えるという事だけは理解できる。しかし、それは言葉だけだ。今のアルメリアは魔族化というものを感覚として理解できていなかった。

 そして、今の理解不足の状態で普通の人間に対して魔族化を行えば、間違いなく失敗するという予感があった。

 失敗すると分かっていてそのような無謀な事をする程、彼女は愚かではない。


 アルメリアはそう説明すると、アイシャは何かを思いついたかのような表情を浮かべた。


「では、私を実験台にして魔族化の儀式を行ってみては如何でしょうか?」

「あなたを実験台に? ですが、あなたは既に魔族なのではなくて?」

「ええ。ですが、私には既に主はおりません。ですので、アルメリア様の眷属になる事が可能です。

 また、今の私は既に魔族です。その為、人間を魔族へと変化させるよりは容易なはずです」


 その言葉にアルメリアは納得する。もし、今のアルメリアが無理に魔力を送ってしまったとしても魔族であるアイシャならばある程度耐えられるはずだ。実験台にするにはちょう良いだろう。

 そこまで考えたアルメリアはアイシャのその提案を受け入れる事にした。


「では、魔族化の儀式を始めますわね」

「はい、よろしくお願いいたします」


 そして、アルメリアは魔力封じの指輪を外してアイシャの額にそっと手を置いた。そのまま、アルメリアは魔力をアイシャへと流し込んでいく。


(そう、そういう事ですのね)


 その瞬間、アルメリアは魔族化の本質を理解できた。自分の持つ魔力で相手を染め上げる。だが、それだけではない。

 それこそ、魂とでも呼ぶべき部分で相手と自分が繋がっているのがはっきりとわかるのだ。


(なるほど、だからアイシャはこのような提案をしたのですわね。理解出来ましたわ)


 今回の事でその感覚を理解したアルメリアは今後は普通の人間を魔族化出来るだろうという確信を得られた。


「あ、ああ……」


 その一方でアイシャはその余りの懐かしさに涙を流してしまいそうになっていた。かつて失った主との繋がり。もう一度取り戻したいとずっと願っていたその繋がりを取り戻す事が出来たのだ。

 そして、アイシャの瞳から一筋の涙が零れた。


「アルメリア様、ありがとうございます」

「こちらこそ、あなたの献身に感謝いたしますわ」


 そして、今日の用事を一通り終えたアルメリアはふと何かを思い出したかのように顔を上げた。


「流石にそろそろ帰らないとあの子を心配させてしまいますわね」


 一応、リリアには事情を説明して寮から抜け出してきたが、時間が経ち過ぎている。流石に帰るべきだろう。


「あ、そうそう。あなたも知っての通り、今の学院でのわたくしの身分はあなたの主や皇族ではなく、ただの一商会のご令嬢。今後の学院内ではその事を念頭においで接してくださいな」

「……畏まりました」

「では、わたくしはそろそろ帰りますわ。今後ともよろしくお願いいたしますわね、アイシャ先生」


 アルメリアはそう言いながら笑顔を浮かべると、ゆったりとした足取りで談話室から出ていくのだった。




 翌日、学園の朝礼時。普段なら担任の教師が来るはずなのだが、その教師は現れず、代わりに現れたのは一人の女性教師だった。


「みなさん、本日よりこのクラスの担任となりましたアイシャです」


 流石に突然の変更に教室にいる生徒たちからは戸惑いの声が上がるが、アイシャはそれも予想していたようで生徒たちの疑問の声に答え始めた。


「前の担任であった先生は家族が危篤との事で急遽、学院を辞めて実家に帰る事になったそうです」


 彼女のその言葉に生徒たちは各々が納得したような表情を浮かべるが、唯一事情を把握しているアルメリアは呆れた様にため息を漏らした。


(……はぁ、これは間違いなく嘘ですわね)


 昨日の出来事から、一日も経っていない。だというのに、ここまで迅速に事を起こす事は不可能だろう。

 しかし、アイシャは魔族だ。ならば、何らかの魔道具でも使用すれば不可能ではないかもしれない。


「ですので、皆さん今後ともよろしくお願いいたしますね」


 そんなアルメリアの内心を知ってか知らずか、アイシャはその表情に微笑みを浮かべているが、その視線は明らかにアルメリアの方へと向いていた。

 流石のアルメリアもこの状況には動揺を隠せず、アイシャには苦笑いを返す事しかできなかったのだった。

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