36 舞踏会の後で
入学記念の舞踏会も終わり、アルメリア達は自室に帰ってきていた。面倒事も多かった舞踏会だったが、あれ以降大きな騒動も起こる事は無く、彼女たちは無事に寮まで戻ってくる事が出来ていた。
「リリア、少しよろしいかしら?」
「はい、何でしょうか?」
「わたくしのお兄様であるウィリアム第六皇子の事は知っていますわよね?」
「ええ、勿論です」
今のリリアはアルメリアの侍女を務めているとはいえ元は暗部の人間だ。その手の情報収集は朝飯前である。
そして、アルメリアが学園に入学する事が決まった時からある程度の情報は既に集めていた。
「では、ウィリアムお兄様の事、教えてくださらないかしら?」
「畏まりました。ウィリアム・フォン・ヴァレリア第六皇子、アルベルト第三皇子が亡くなられた現在は皇位継承権第三位です。また、この学院の今の生徒会にて会長を務めています」
この学院では生徒たちの自治権がかなり大きくなっている。そして、生徒会に関しては特に大きな権限を与えられているようで、学園の運営にも関与できるほどだった。
そして、そんな生徒会のトップである生徒会長は言うなればこの学院の皇帝とも呼べる。
また、皇族が学院に入学し、最高学年になった際には生徒会長を務める事が慣例になっている。
ウィリアムもその慣例に従って生徒会長に選ばれたようだ。
「なるほど、そうでしたのね……」
そして、リリアはその後も続けてウィリアムについて調べた情報を話していく。
生まれはアルベルトと同じく国内妃であり、その実家は侯爵家だという事や侯爵家のご令嬢を婚約者に持つ事などだ。
「なるほど、分かりましたわ」
「ですが、なぜ今更になってウィリアム皇子の事をお聞きになられるのですか? 入学前にこのお話をした際には興味がないと言っておられましたが……」
「ああ、それは……」
そして、アルメリアは先程の舞踏会であった出来事の話をした。
「……それはおかしな話ですね」
アルメリアの言葉を聞いたリリアは思わず疑問を抱いていた。
今のアルメリアの身分は皇族ではなく一平民にすぎない筈だ。幾ら、オルティア商会が皇家御用達の商会だと言っても皇族であるウィリアムからすれば、今のアルメリアはそれこそ塵芥に等しい存在だろう。
それに、ウィリアムがアルメリアの存在を知っているとは思えない。だからこそ、彼がアルメリアに声を掛けた理由が分からなかった。
流石の二人もまさかウィリアムがアルメリアに父の面影を見てしまったという事は分からなかったようだ。
「そういえば、ウィリアムお兄様の隣に藍色の髪色とピンクの髪色の令嬢がいたのだけれども知っているかしら?」
「藍色の髪色とピンクの髪色のご令嬢、ですか……」
そして、リリアは自身の頭にある彼の情報を思い出していくと、一つの情報に行き当たった。
「ああ、もしかしてそれはウィリアム殿下の婚約者であるナターシャ・アクトレイテ侯爵令嬢と彼のお気に入りだと噂されているアイリス・グラン男爵令嬢の事ではないでしょうか」
「ああ、やはり彼女はウィリアムお兄様の婚約者でしたのね」
「恐らくは間違い無いかと」
リリアはあの場には居なかった為、断言は出来なかったがそれでも話を聞く限りでは間違いないかと思われた。
「そのナターシャ嬢について、興味深いお話がございます。
実は、ウィリアム皇子とナターシャ嬢の婚約ですが、かなり政略色が強かったようです。
その為、ウィリアム皇子はその婚約が気に入らなかったようですね。婚約者の事をあまり好ましく思っていない様子が各所で見受けられました」
「あら、そうでしたのね」
そして、アルメリアは先程見たナターシャの姿を思い出していた。
「分かりましたわ。では、もう一人。アイリスという令嬢の事を教えてもらえるかしら?」
「アイリスはウィリアム皇子が最近かなり入れあげているという令嬢ですね。元は平民だったようですが、数年前に男爵家の養子になり、この学園に入学してきたようです」
「という事はウィリアムお兄様はアイリスさんを愛人にでもなさるおつもりなのかしら?」
「いえ、それが……」
そこまで言うと、リリアは一瞬だけ何かを言い淀んだ様子を見せた。
だが、アルメリアがその事を問う前に彼女は話を再開した。
「噂ではウィリアム皇子は今の婚約者であるナターシャとの婚約を破棄して、アイリスと婚約したいと周囲の者達には常に言っているのだとか」
その言葉に思わずアルメリアとリリアは互いの顔を見合わせた。
「流石にそれはあり得ませんわよね……」
「……ええ、流石にそれはないかと」
リリアは自分でその情報を集めておきながらも、流石に信じ切れていないようだった。
侯爵令嬢との婚約を破棄するとなれば、ウィリアムにとっては致命的なスキャンダルになるだろう。特に第六皇子は現在では皇位継承権第三位だ。次の皇位を目指せる立場にいる筈である。
もし、婚約を破棄するとなればナターシャの実家であるアクトレイテ侯爵家の恨みを買うだけでなく、皇位争いにおいても大きく後退するだろう。それほどのリスクを負ってまで婚約を破棄するメリットは一切ないはずだ。
「まぁ、ウィリアムお兄様に関してはある程度の事は分かりましたわ。今後もお兄様についての情報を集めておきなさいな」
「畏まりました」
そして、就寝の準備を終えたアルメリアは床に入り、そのまま眠るのだった。




