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2 お茶会


 お茶会が開かれる庭園に着いたアルメリアは先に到着していた少女に促されるまま、彼女と向かい合うように用意されていた席に腰かけた。


「改めて自己紹介をしましょうか。私はマリアーナ・フォン・ヴァレリアよ。第四皇女、つまりはあなたのお姉さんね」

「初めまして。わたくしはアルメリア・フォン・ヴァレリア第五皇女ですわ。お姉様、よろしくお願いいたしますわ」


 そうして、アルメリアは姉に向かって礼儀良く挨拶をするが、そんな彼女の様子にマリアーナはクスクスを笑みを浮かべる。


「ふふっ、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。さ、楽しいお茶会を始めましょう」


 そして、二人のお茶会は始まった。


「お姉様、聞いてください。実は少し前にこんな事がありましたの」

「まあ、そうなのね」

「ええ、そうなのですわ」


 初めて会う相手という事もあり最初の方は緊張していたアルメリアだったが、マリアーナの優しさと纏う柔らかな雰囲気に彼女の緊張も解れていった。

 そして、数十分もする頃にはアルメリアは完全にマリアーナに心を許し、こんな風に色々な話を彼女にしていた。

 また、マリアーナもアルメリアの事を気に入り、彼女に色々な事を教えてくれた。


「まぁ、ではわたくしとお姉様ではお母さまが違うのですね」

「ええ、そうなの。だから、わたしたちは正確には半分だけ血が繋がっているのよ」


 幼いアルメリアにはマリアーナの言葉に含まれる意味を正確には理解出来なかったが、それでも


「わたくしのお母様はアルティエル王国という国の王女だったそうですわ」

「あら、そうなのね。わたしと一緒ね。わたしのお母様もシクライア公国という国の王族の生まれだったそうよ」

「まぁ、そうなのですね!!」


 マリアーナとの小さな共通点を見つけたアルメリアは嬉しそうに微笑んだ。


「ねぇ、あなたのお母様はどのような方なのかしら?」

「分かりませんわ。わたくし、お母様と一度もお会いした事がありませんもの」

「……え?」


 アルメリアの言葉が予想外だったのか、マリアーナは一瞬だけ呆けたような表情を浮かべる。しかし、アルメリアはマリアーナの表情の変化に気が付かず、話を続けていた。


「わたくしのお母様はわたくしを産んだ時にお亡くなりになられたそうですわ。だから、わたくしはお母様のお顔も知りませんの」

「……っ、そうなのね。ごめんなさい、辛い事を思い出させてしまったかしら」

「大丈夫ですわ。わたくしには最初からお母様がいらっしゃらなかったから、辛くはありませんもの。それに、わたくしにはお母様はいらっしゃらなくてもこうして血の繋がったお姉様がいますわ」

「……ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ。少し湿っぽい話になってしまったわね。別のお話をしましょうか」

「ええ!!」


 そして、二人はお話を再開する。その時、アルメリアはふと姉に聞きたいと思っていた事があったのを思い出した。


「ねぇ、お姉様」

「あら、どうしたのかしら?」

「わたくし、お姉様とお会いしたらお聞きしたいと思っていた事がありましたの」

「なにかしら?」

「わたくしたちのお父様ってどのような方なのですか?」

「……っ」


 アルメリアのその言葉にマリアーナは一瞬だけその顔を顰める。しかし、アルメリアはマリアーナのそんな表情には気が付かず、言葉を続ける。


「侍女たちにお父様の事を聞いても、誰も何も教えてくれませんの。先程のお話でもお父様のお話は殆ど出てきませんでしたわ」

「やっぱり、知りたいわよね……」


 マリアーナも可愛い妹の小さなお願いを叶えてあげたかった。

 しかし、覇王と呼ばれ周辺諸国から恐れられている父の恐ろしさをマリアーナは知っていた。

 だからこそ、温室育ちでまだ純粋無垢なアルメリアにあの恐ろしい父の事をどうしても教える事が出来なかったのだ。


「お姉様、お父様は今どこにいらっしゃるのですか?」

「ごめんなさい。私にも分からないの」

「……そうなのですね、残念ですわ。わたくし、お父様にもお会いしてみたいですわ」

「そんなに焦らなくても大丈夫よ。時が来たら、お父様にお会いできるわ。わたしもそうだったもの」

「そうなのですね。では、その時まで我慢いたしますわ」


 そして、マリアーナは自らの父である皇帝の事を思い出し、思わず心を痛める。それは他国への侵略を止める事のない父の蛮行を知っているが故であった。


「……お父様にはあんな悲しい事はもう止めて欲しいわ」

「お姉様、どうかなさったのですか?」

「……いいえ、なんでもないわ。お父様の事を教えられなくてごめんなさいね。次はもっと楽しいお話をしましょうか」

「ええ、わたくしももっとお姉様とお話がしたいですわ」


 そして、二人はこの初めてのお茶会を楽しむのだった。

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