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白銀皇女の覇道譚 ~侵略国家の皇女は覇道を歩む~  作者: YUU
第一章 幼少編

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17 リリアの過去

 リリアは元々孤児であった。

 物心ついた時には既に両親は蒸発しており、彼女は両親の名前どころか顔すらも知らない。知っているのは、両親がリリアをスラムに捨てたという事だけだった。

 そんな幼い彼女の生活の唯一の糧は盗みだった。

 普段は帝都のスラム街で生活し、時折スラム街から出て盗みを働き、その金で日々を過ごす。幼いリリアには毎日をそうやって生きる以外に道はなかったのだ。


 そして、スラムでの生活も数年が経過した頃の事、ある日の彼女は一人の女性を狙い、盗みを働こうとした。

 相手は見るからに普通そうな女性であり、鍛え上げた盗みの技術と逃げ足があれば女性から金銭を盗む事など楽勝だと当時のリリアは思っていた。

 しかし、そんな彼女の予想に反し、彼女はその女性にあっという間に取り押さえられてしまった。それもその筈、彼女は普通の女性ではなく、皇帝直属の暗部に所属する者だったのだ。そんな人物に窃盗などしようとすれば、どんな事になるのか等、火を見るよりも明らかだろう。呆気なく捕まってしまった彼女はそのまま投獄されてしまう。


 牢屋の中で死を覚悟したリリアだったが、不思議な事に何故か突然釈放される。それどころか、リリアはその女性の元まで連れていかれたのだ。

 曰く、女性は自分の後継を探していたらしく、リリアの事が気に入ったとの事だ。そして、彼女から自分の養女になり跡を継いでくれないか、と勧められたのだ。

 だが、その申し出にリリアも流石に躊躇った。あまりにも条件が良すぎたからだ。見ず知らずの少女を養女にしたいなど普通はあり得ない、上手い話には何か裏にある。その警戒心はスラムで育ってきたが故だった。

 しかし、リリアはスラムでの生活にもいずれ限界が来る事も悟っていた。もし、ここで誘いを断り、スラムでの盗み生活を続けたとしても、またいずれ今回の様に捕まってしまうかもしれない。そうなれば、今度こそ処刑されるだろう。

 そうなる位ならば、ここで彼女の誘いを受けるのも良いのかもしれない。もし、騙されて何処かに売られたとしても自分はそれまでなのだろう。


 そう考えたリリアは熟考の末、申し出を受け入れる事を選び、その女性の養女となったのだ。

 そして、養女となったリリアは義母となった女性の後継となるべく厳しい訓練に身を投じる事になった。


 義母の訓練は苛烈で厳しかったが、不思議とリリアはスラムでの生活では味わったことのない充実感と満足感を得ていた。

 暗器を使った暗殺術、貴族の邸宅に潜入する為の侍女としてのスキル、敵の拠点に侵入して敵軍の情報を盗み出す為の隠密術、といったような多岐に渡る技術を彼女は習得していく。


 そして、五年が経った頃にはリリアは侍女としても暗部の人間としても一流の人間へと成長していた。また、何時の頃からか、リリアは義母を本当の母として慕うようになっており、女性もリリアを本当の娘のように思う様になっていた。

 それから、義母の後継者として申し分ないだと判断されたリリアは、義母の推薦もあり彼女と同じ皇帝直属の暗部に所属する事になる。

 ある時は敵国の貴族の屋敷に侍女として潜入して情報を盗み出し、またある時は敵国の要人の暗殺を行う。彼女に与えられる任務は過酷だったが、義母との訓練で習得した技術を以てそれらをこなしていく。

 そして、任務の合間の母と慕える女性と暮らす毎日、それは実の両親の顔すら知らない彼女にとっては何よりの幸せな日々だった。


 だが、そんな彼女の幸せな日々も唐突に終わりの時が訪れた。

 数年前に義母が重い不治の病を患ってしまったのだ。リリアは彼女を治す為にあらゆる手段を用いて病の治療法を探したが、どれだけ探しても彼女は病の治療法を見つける事は出来なかった。

 そして、それを知った彼女の義母はリリアに向けてこう言った。


 ――――せめて、これからは安らかに暮らして、最期にあなたに看取られながら逝きたい。


 それがリリアの母が最期に望んだ願いだった。

 そして、義母の最期の願いを聞いたリリアは彼女の願いを叶えようと心に決めた。それが孤児であった自分を拾ってくれた母に出来る唯一の恩返しだと思ったからだ。


 その為、日々の任務に身を投じながら、その合間を縫って病床に就く母の介護をする。そんな毎日を送っていた。

 それも、全ては母の最期の願いを叶えたいというリリアの細やかな願いだったからだ。


 しかし、そんな願いは無残にも打ち砕かれた。

 ある日、リリアが任務を終えて帰宅すると、家には母の姿はなく一通の手紙だけが残されていたのだ。

 その手紙にはリリアの母を誘拐した事、彼女を解放したければこちらの指示に従い行動する事、その二つが記されていた。

 そして、その手紙の主がリリアに指示したのがアルメリアの暗殺であった。その後、リリアの母を誘拐した首謀者の手引きによって彼女はアルメリア付きの侍女となったのだ。

 リリアの侍女としてのスキルは数年に渡る訓練の成果もあり、それこそ皇宮仕えの侍女と比べても遜色がなかった。その為、他の侍女にも今迄怪しまれる事は無かったのである。


 そして、今に至るという訳である。


「……なるほど、事情は大体分かりましたわ。それで、あなたの母を攫い、わたくしを亡き者にしようとした黒幕は一体誰なのかしら?」

「…………第三皇子であるアルベルト殿下です」

「へぇ、お兄様が……」


 しかし、リリアの言葉にアルメリアは頭に疑問符を浮かべる。彼女にはアルベルトから命を狙われる心当たりなど全くなかったからだ。


「リリア、あなたはお兄様がわたくしを亡き者としようとした理由は知っていますの?」

「いえ、それは分かりません。今回の指示も殿下の側近を介しての指示の様でしたので」

「なるほど……。ですが、お兄様の計画も杜撰ですわね。わたくしを亡き者にしたいのであれば、もっと子飼いの者を使ったりすればいいものを」

「いえ、それはアルベルト殿下にとっては悪手だったのかと」

「どういう事かしら?」

「皇族殺しは大罪です。過去にはそれで皇位継承権の剥奪も行われたほどです。もし、子飼いの者を使えば、その後の調査の際に殿下の関与が発覚しかねません。そうなれば、殿下にも連座で何らかの処罰が下される可能性もあります。そんな僅かな可能性も潰すためにも、自分の手駒は使わなかったのでしょう」


 また、彼女たちは知らない事だが、この暗殺はアルベルトの未来が掛かっている。それ故に万が一という可能性すら排除したかったのだ。


「だからこそ、私の様なこの離宮に入る事が出来てかつ暗部としての訓練を受けており、かつ殿下とは無関係で切り捨てる事が容易な私の様な者が一番都合が良かったのでしょう。恐らく、すでに各所に根回しも済んでいると思われる筈です。もし、私が捕まった場合、証言前に即刻処刑となるように手を打たれている筈です」

「なるほど、そういう事でしたのね」


 そこで、アルメリアはふと周りの状況がおかしい事に気が付いた。


「それにしても、これほどの騒ぎが起きているというのに誰も何も気付かないなんておかしいですわね」

「それは殿下の手の者の指示だそうです。殿下の側近の中には皇宮の人事部に強い繋がり持つ者がいます。その者に命じて今夜のみ私以外の侍女を全て別の場所に配置するように工作を行ったそうです」

「なるほど、そういう事でしたのね……」


 その時、アルメリアは面白い事を思い付きその表情を緩めた。


「という事は、今日だけはわたくしがこの離宮から出ても誰にも分からない、という事ですわね」

「……ええ、その通りですが……」


 すると、アルメリアはおもむろにリリアへと手を差し出した。


「では、リリア、わたくしと取引をしましょう。お兄様に捕らえられているというあなたの母をわたくしが助けて差し上げましょう。その代わり、あなたは今後わたくしに仕えなさい」

「殿下、私は今も皇族の皆様にお仕えしておりますが……」

「いいえ、あなたは正確にはお父様に仕えているのでしょう? ですから、これからはわたくしに忠誠を誓いなさいな」


 アルメリアのその言葉にリリアは一瞬だけ躊躇の様子を見せるが、それでも今のリリアには他に選択肢はなかった。


「……分かりました。本当に母を助けて下さるというのであれば、私はアルメリア殿下に忠誠を誓います」


 そして、リリアはアルメリアの前に跪き、差し出された彼女の手に忠誠の口づけをするのだった。

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