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白銀皇女の覇道譚 ~侵略国家の皇女は覇道を歩む~  作者: YUU
第一章 幼少編

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13 秘密会議


 皇宮の奥深くにある皇帝やその最側近のみが知る隠し部屋、その天井裏に一人の男が隠れ潜んでいた。


(くそっ、一体いつになったら現れるんだ……?)


 その男はアルベルトの側近の子飼いの密偵だった。

 彼が上司から命令を受け、この部屋の天井に隠れ始めてから既に三日程の時間が流れていた。しかし、その間ここには誰の姿も現れてはいない。

 熟練の密偵として様々な場所に忍び込んできた彼だが、それでも今回のような経験は初めてだった。

 しかも、監視対象は自国の皇帝。もし、この事が露呈すれば間違いなく自分の首は飛ぶだろう。

 更に言うなら、この任務に際しある程度の裏事情を聞かされている為、今回の任務は必ず成功させなければならないという事も理解していた。


(しかし、限界も近い。持ち込んだ食料も既に底をついている。そろそろ報告の為に一旦ここから離脱するべきか?)


 そして、彼がこの場から去る事を考え始めたその時だった。


 ―――コツン、コツン、コツン、コツン


(……足音だ。誰かが来たんだ)


 そして、彼は予め用意していた小さな覗き穴から部屋の中を覗く。

 すると、そこには部屋の中へと入ってくるヴァレリア帝国の皇帝であるガイウスとその側近たちの姿があった。


「では、今回の定例会議を始めるとしようか」


 そして、皇帝のその言葉を皮切りに彼らは会議を始めた。

 そこでは表の会議には議題として出す事が出来ないような最重要国家機密が話し合われていた。

 他国の密偵からすれば、喉から手が出るほど欲しい値千金の話が次々と出てくるが、残念ながら彼やその上司が最も欲しい皇位継承に関しての情報は一切出てこない。


(くそっ、今回の会議では皇位継承については出てこないのか……?)


 そして、定例会議の雰囲気も徐々に終わりの気配が見えてきた頃だった。


「では、最後の議題だ。次の皇太子についてだ」

(遂にきたっ)


 密偵はこれを待っていたといわんばかりに今迄以上に聞き耳を立てる。


「当初の予定通り、我が娘であるアルメリアを次期皇太子にする」


 その言葉に対する側近たちの反応は意外にもそこまで激しくない。皇帝が言っていた通り、この事は予定されていた事なのだろう。

 だが、密偵にはアルメリアという名前に聞き覚えはなかった。


(アルメリア殿下、聞いた事が無い名前だ。国外妃の皇女か?)


 このヴァレリア帝国の皇妃は非公式な分け方であるが、二つに分類される。

 一つは国内妃。

 これは文字通り、帝国内の貴族の出身の妃である。

 その出身から国内妃は実家の持つ政治的地盤によって皇宮や後宮内でも強い影響力を持っている。高位貴族出身の妃の場合は特にそれが顕著だ。

 また、国内妃を母に持つ皇子達も当然帝国内でかなりの影響力を持ち、国内妃の皇子は幼い頃より帝位を継ぐ事を期待されながら育てられることになるのだ。

 帝国の歴代の皇帝たちもその殆どが国内妃の子息であるという事実からもそれは明らかだろう。

 アルベルトを含めた有力な皇族がこれに該当している。


 そして、もう一つが国外妃である。

 これは、国外の王族の生まれの妃。正確に言うなら、ヴァレリア帝国が征服した国々の王族の生まれの妃である。

 ヴァレリア帝国は覇権主義の侵略国家だ。侵略戦争で敵国を征服した際、帝国の皇帝はその国の姫君を娶り、その姫君に自身の子を身籠らせる事でそれを征服の証とするのだ。

 また、征服された国の姫君というだけあって、政治的影響力は皆無に等しい。更には反乱の旗頭にされない為に暫くの間は母子共に離宮で育てられ、いずれその子は国内の有力貴族と結婚させられるのが、慣例となっている。

 また、そのような非常に弱い立場の為、大貴族や同じ皇族であっても顔どころか名前すら知らない事も多々あると言われている。


 そして、アルメリアやマリアーナもその国外妃の皇女にあたる。その為、彼が聞いた事がないのも当然だろう。


(国外妃出身の皇族、しかも皇女に帝位を継承させる事なんて帝国の歴史の中でも前例が無さすぎる。しかし、こんな場で話す以上、陛下は本気なのか?)


 だが、そんな最中でも部屋の中の話し合いは進んでいた。


「ですが、皇女殿下が皇太子となれば周囲からの反発もあるのでは?」

「無論、その事も織り込み済みだ。手は考えてある」

「では陛下、アルメリア殿下が皇太子になった場合、第三皇子殿下の事はどうなさいますか? 第三皇子殿下が皇太子の座を狙っている事は有名ですが」

「無論、不要である。そして、不要なものは捨てるに限る」

(なぁっ!?)

「今の所は奴をまだ予備として残しておくつもりだ。そして、アルメリアが皇太子となる前に死ぬ事があれば、奴を皇太子にするつもりだ」


 その言葉に密偵は驚きを隠せなかった。彼は自分の上司がアルベルトの側近になる為に様々な投資を行ってきたのを知っている。もし、アルメリアが女帝となれば、今までの投資は水泡に帰してしまうだろう。そうなれば、上司どころか自分の立場すら危うくなりかねない。

 しかし、まだアルベルトの皇太子への道は断たれた訳ではない。もし、アルメリアが亡き者になれば、アルベルトが皇太子になる道は開かれる筈だ。


(こ、この情報を一刻も早く殿下にもお伝えしなくては!!)


 必要な情報を手に入れた密偵はそう判断し、慎重かつ即座にこの場から立ち去るのだった。




「して、上にいた狼藉者は去ったか?」

「ええ、これで殿下も行動を起こさざるを得なくなるでしょうな」

「アルメリアよ。これは余からお前に与える試練だ。乗り越えてみせよ」


 そして、彼らは辺りを見渡しながら深い笑みを浮かべるのだった。

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