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王命の婚姻に愛など望まないはずでした〜すれ違い婚の果てに〜  作者: Alicia Norn


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10/25

10. 求む!挽回のチャンス

この物語の折り返し地点に到着しました


ヘンリー、挽回のチャンスです!

これまでの遠慮やすれ違いを乗り越え、心の距離を縮めるために

彼の「挽回作戦」がはじまります




 あの"デート"のあと、ローズの態度が変わったと思えるようなところは……ない気がする。


 (……わたしの気持ちは、やはり届いていないということか……)


 「……明日の朝までに、前回のリサイクル事業の概要をまとめておきますわ。……そちらの案も確認していただけますか?」


 朝の会話も、単なる日課か……。


 (そこにある笑顔に、期待や甘い気持ちを持っているのは、わたしだけなんだろうな。)

 

 それでも、朝の食事は、わたしの一日の糧でありとても有意義なものだ。

 

 (だが、ローズにとっては、やはり義務なのだろうか……。)


決意しては弱気になって、気が付くと夜中の談話室に逃げ込むことが多くなった。


 

 「それ、守るためじゃなくて"逃げ"だろ?」


 どんなに軽口で言おうとも、ルトの言葉は……たぶん本気だ。


 「からかってる……なんてことはないよな?」


 返す言葉がなくて、わざと話をそらしてみる。


 「お前は気づいているんだよ。ただ、それを認めたくないだけだ。」


 どうやら、わたしの行動は逆効果だったようだ。

 ルトの顔つきが変わる……


 「そんなつもりはないんだ……逃げるのはやめると決めたからな。」


 無意識にため息をつく。


 「本当に、向き合っていると言えるのか?」

 「…………」


 談話室のテーブルを見つめて、手元のグラスを揺らす。


 ティーカップを持ち上げる華奢な手……

 うなづくときに、わずかに染まったように見える耳元…… 


 ふとした瞬間にも、ローズの笑顔や仕草を思い出す。

 自分のしている行動に理由をつけている時点で、逃げなんだろうということはわかる。


 「好きなら好きって言え。間に合わなくなってもいいのか?」


 ルトの言葉が突き刺さる。


 「どういう意味だ?」


 (間に合わなくなる……そんなことがあり得るのか?)


 言葉の真意が知りたくて、ルトを真っすぐ見つめる。


 「愛を伝えるには、賞味期限があるってことだ。」


 肝心なところで、あえて空気を変える。会話の主導権を握る……ルトの得意技だ。

 にやりと笑って見つめ返してくる。

 でもその視線に、からかう様子は一切ない。


 (迷っている時間はない……)


 ルトは正しいだろう。賞味期限があるならば、動かなければいけない。

 ローズに伝わるように……もう、彼女への想いを隠す必要などないのだから……


>>>>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<


 風に揺れるおくれ毛を、そっと耳にかけながら、ヘンリーさまとの時間を思い返していました。

 日ごとにヘンリーさまの言葉や表情が、柔らかくなっているような気がします。

 けれど、それはわたくしにとって都合の良い考えというもの……


 (王命の婚姻ですもの……わたくしに冷たくするわけにはいかない……ということでしょうね。)


 ヘンリーさまの行動は、王都から帰還されて変わりました。

 そこに理由があるとすれば……ただ一つ。


 (婚姻の報告で、国王陛下から、なにかしらご指摘があったのかもしれません。お一人で行かれることが、例外でしたから……)


 「ヘンリーさまの優しさは、わたくしに対する礼儀……ということでしょう。」


 朝の支度の最中に、最近のヘンリーさまのご様子を思い出して、つぶやきがもれてしまいました。


 「奥さま、そんな礼儀はございませんよ。」


 器用に髪を結いあげて、おくれ毛を調整しながら、ラナがわたくしの独り言に返事を返してくれました。


 「でも、礼儀ではないとなると、経験の少ないわたくしでは、都合よく考えてしまいそうなのです。」

 「それに、何か問題が?」


 ラナは、まるで答えを知っているかのように微笑みます。


 (ヘンリーさまが、わたくしと同じ想いでいてくださるなんて、夢でもあり得ないでしょうに……)


 思い当たった"都合の良い考え"に、頬がじんわり熱くなるのを感じました。


 (……これではまるで……)


 胸の奥にある、気づいてはいけない感情に触れてしまったような気がして……わたくしはあわてて視線を伏せました。

 

 「旦那さまのお話をなさるときの奥さまは、とっても可愛らしい表情をされてますよ。」


 思っていたことを、口にしてしまったのかもしれないと、とっさに口を押えて鏡を見ました。

 そこには、頬を薄く桃色に染め、少しうるんだ瞳をした、わたくし自身が映っていました。


 (……わたくし、いつもこんな顔をしているの?)


 見たこともないわたくし自身の姿に、驚きが隠せません。


 (旦那さまが、わたくしのこの顔を……気にする……なんてこと……?……え?)


 動揺すると、人は考えをまとめることも、冷静に状況を判断することもできないものですね。

 とっさに浮かんだ考えは、わたくしの中にずっとあったものだったのでしょう。


 「もし、奥さまがほかの殿方の前で、そのお顔をなさったら、答えは向こうからやってくると思いますよ。」


 ラナが茶目っ気たっぷりに笑うのですが、わたくしにはその意味が、いまひとつつかめません。


 「……こんな顔されたら、さすがにヘンリーも焦るわよね。」


 聞き取れないほどの小声で、ラナがつぶやいて、満面の笑みを浮かべました。


 「どうです?死ななさそうだから、ルトあたりで試してみます……?」


 ラナの言葉に、わたくしは思わず固まってしまいました。

 

 (……ルトでって……えっ?)

 

 ルトで何を試すというのでしょう?

 名案だとも言いたげなラナの表情に、何かしらの意図があることまでは察することができました。

 けれど、言葉の真意はわたくしには、さっぱり知り得ないものでした。


>>>>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<


 (迷っている時間はない……)


 あの日のルトの言葉に動かされて、わたしはローズに対して気持ちを隠さないと決めた。

 

 (まずは、贈り物作戦だ。)


 「結婚してから、一度も君に何か贈り物をしたことがなかったな……受け取ってくれ。」


 自分の瞳の色を映した小さな石を添えた、彼女の白陶器のような肌に似合う控えめなネックレスを用意した。

 

 (自分の瞳の色……独占欲に気づかれてしまうだろうか。……それでも、いい……いや、むしろ、気づいてほしいと思っている。)


 とまどうローズの手のひらに、そっとネックレスを渡す。


 「君に必要だと思ってもらいたい。」


 (わたし色の装飾品を身に着けて、いつか社交界で堂々と君を連れて歩きたい。)


 夜の談話室で、思いを告げることができたと満足気に話すわたしに、ラナが冷静にローズの気持ちを代弁してくれた。


 「喜んでいるところ悪いけど、奥さまは辺境伯夫人としてふさわしくない姿だったかもしれないと反省していたわよ。」

 「はぁ?」


 間抜けな一言とともに、贈り物作戦第一弾は、不発に終わった。

 気を取り直して、贈り物はもう少しシンプルなものにしようと決める。


 「きれいな花束ですね。」

 「頑張っている君に、お礼の一つも言えていないと思ってね。受け取ってくれると嬉しい。」

 「ありがとうございます。」


 まぶしい笑顔に、今度こそは気持ちが通じたかもしれないと、嬉しくなる。

 けれど、またしてもラナからの報告で、空回りが決定してしまう。


 「視察のお礼だと、嬉しそうにしていらっしゃいましたよ。」

 「デートを"視察"なんて、言い訳するからだよ。自業自得だな。」


 横から会話に加わったルトの視線が、笑いとともに胸に突き刺さる。


 「お前さ、さんざん視察や公務を口実にしてきたろ?贈り物の理由が、その口実になっても文句は言えないよな。」


 距離を縮めようと努力したつもりだったのに、またもや空回りしていたことに気づいて落ち込んだ。


***


 贈り物作戦が空振りだったこともあって、ローズとの会話を大切にしようと心がけることにした。

 意を決して、まっすぐにローズに自分の希望を伝える。

 

 「毎日かならず、一度は一緒に食事をしよう。」

 「かしこまりました。大切ですものね。」


 柔らかい笑顔で、ローズが即答してくれる。

 わたしとの食事の時間が大切だと思ってもらえたようで、ホッとする。


 「旦那さま、あいにくですが、奥さまの頭の中では食事の時間が"ビジネスミーティング"という認識になっているのですよ。」


 ラナの業務報告のような口調が、かえって深く突き刺さる……


 「報・連・相・は大切ですものね。……だそうです。」

 「ラナ、ローズの口調を真似するのはやめてくれ……余計につらい……」


 ここまでくると、面白がられているような気もするが、それどころではない。


 「……俺の気持ちは一ミリも伝わっていなかったということか……。」 


 今度は落ち込んでいるわけにもいかない。


 (事務的な会話にならなければいい……ということだよな?)


 翌日、もう少しわかりやすいアプローチをしてみる。


 「君さえよければ、一緒に……暮らさないか?」


 一緒に暮らそうなんて、大胆過ぎる提案に、自然と顔が熱くなる。


 「ヘンリーさま、わたくしたちはすでに一緒に暮らしているのではないのですか?」


 (きょっとんと首をかしげる姿が可愛い……)


 などと、言っている場合じゃない。

 ……これは、完全に伝わっていない……

 わたしでも……わかる。


 だからこそ、またその次の日は思い切ってストレートなリクエストを出してみる。


 「毎朝、君に見送ってもらいたい。そして、帰ったら一番最初に君に会いたいんだ。」


 そう告げたら、ローズは少し迷った顔をした後で、瞳を曇らせた。


 「かしこまりました。気づかずに申し訳ございません。」


 (なぜ、そんな悲しそうな顔をするんだ?)


 「無理にとは言わない。できるときでかまわないから、頼んでいいか?」


 慌てて妥協案を提示する……が、絶対に悪い予感しかしない。

 夜の談話室で、ラナに理由を聞いてみる。


 「体裁が悪い……そんなふうに思わせてしまったことを、申し訳なく感じたようです。」

 

 思ったよりもローズの心境は複雑だったようだ。そんなことを考えるとは、想像もしていなかった。

 落ち込んだ気持ちが隠し切れなかったようだ。


 「今回ばかりは、わたしも少し同情しますけれどね。」


 ラナにさえ、慰められるとは……そのほうが、ダメージが大きかった。

 

>>>>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<


 夜の談話室で一喜一憂しているヘンリーの様子は、ルトにとって嬉しい変化だった。

 自分の言動で、心が揺れているローズを見るのが嬉しいんだと、心の底から喜んでいるようだった。

 そんなヘンリーを思い出していると、ルトはブラントを見つけた。


 「いまのところ、奮闘虚しくといった感じですが、検討しているようですよ。」


 公務へ向かうヘンリーを見送るために玄関にいたブラントに、ルトが声をかける。


 「ようやく、坊ちゃま呼びは卒業できそうですかね。」

 「やっと"好き"という気持ちは、言わなきゃ伝わらないって気づいた程度ですよ?」


 仕事モードを崩さず、けれど親しさを感じる口調でルトが続ける。


 「ようやく、スタートラインに立ったばかりです。」

 「なかなか手厳しいな、ルト」


 乳兄弟の手厳しい言葉に、ブラントが少し肩をすくめる。


 「あいつのヘッポコが治んなきゃ、俺がラナに責められるだぜ。」


 護衛の仮面が外れて、ルトの本音がポロリとこぼれる。


 「それは、確かに大変だ。」

 「だろ?だから、俺だって必死だよ。」


 昔からずっと時間を共にしてきたヘンリーと、彼を支えるにふさわしい麗しいローズ夫人。

 二人の視線は照れながら、時々うつむきながらも仲睦まじく会話を続けている。

 ブラントとルトは、大切になったその二人を見つめながら、そんなやり取りをしていた。



 

ローズに向き合うことを始めたヘンリー

彼の努力は空回り……だけではないかもしれない

二人の関係は少しずつ

でも確実に変わっている……そう思えます



次回「そういえば、実家は政敵でした」


物語はここからさらに別の方向へ動き出します

せっかく縮まった二人の距離と想い……

報われるのでしょうか

それとも……?


ここからの展開は目が離せません……多分w

是非、ブクマよろしくお願いします。


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