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1. 政略結婚とは愛のないものです

新しい連載をはじめました。

ありきたりなスタートに辟易している方も……?

などと思いましたが、どうしてもここからスタートしたかった

すれ違いに勘違いの政略結婚…

そんな結婚生活がどう変わっていくのか

楽しんでいただけるように物語完結まで頑張りますので

よろしくお願いします

「君も理解していると思うが、この結婚は政略的なものだ。悪いがこの先わたしが君を愛することはないと理解してくれ。」



 冷ややかな視線を落としてヘンリー・ディクソン辺境伯がわたくしを見下ろしていらっしゃいます。ここは一応、夫婦の寝室だと案内された場所で、この部屋を挟んで右にディクソン辺境伯さまの私室が、左にはわたくしの部屋がございます。



 「子供も必要ない。この辺境の領地を守れる優秀な者を養子にすればよいと思っているからな。」



 一層冷ややかな視線を向けてディクソン辺境伯さまが言葉を続けておいでです。



 (あら、部屋の温度が少しさがったようですわ……なかなかと冷ややかな初夜になりましたわね。)



 凍てつく視線というのは、こういうことを言うのかもしれないですね。ちなみにわたくしはルーサー・レナルド侯爵家が長女、ローズと申します。王命によりこの冷酷な態度でわたくしと対峙している辺境伯さまと正式な婚姻関係を結んで本日、嫁いでまいりました。



 「君を妻として迎えた以上、辺境伯家の名に傷がつかなければ好きにすればいい。必要最低限の妻の役割は果たしてもらうが、それだけだ。君が望むならば離れに住まえばいい。互いに距離があったほうがうまくいくだろう。」



 (いきなりの別居宣言ですのね…。)



 「承知いたしました。」



 初夜ということもあって、かわいさと色気を感じさせるはずの(?)慣れないナイトウェアを身に着けてはいるけれど、甘い雰囲気はみじんもないこの部屋で、夫となった男性はそう告げてわたくしの姿を一瞥すると、ゆっくりと寝室を出ていかれました。けれどわたくしは今日から辺境伯夫人。矜持をもって礼儀を尽くさせていただこうと、静かに立ち上がりその後ろ姿にカーテシーをさせていただきました。


 こうしてわたくしの辺境伯夫人…辺境伯さまの説明どおりならば「仮初の妻(政敵の厄介者)」としての生活がはじまったのでございます。



>>>>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<



 王国各地を旅してまわる吟遊詩人たちには、貴族たちの恋物語や身分差の悲恋などを歌う者も多かったが、国民に一番人気があったのは魔物や敵国から国を守る英雄の活躍とその勇姿を讃えた歌だった。歌い継がれる英雄たちは誰一人、一度としてその名を呼ばれることはなかったが、語り継がれる数々の英雄譚は子供たちの寝物語として、大人たちのあいだでは伝説として人々の記憶に残り、やがて王国中の誰もが名もなき英雄たちに憧れ、人々の希望となっていった。



 ディクソン辺境伯領地は王国の北側の守りの要で、別名を不落の砦と称される場所だ。この北の砦を代々守り続けた辺境伯家は王宮騎士や近衛騎士とは別格の騎士団を有していて、圧倒的な統率力でその騎士団を率いてきた。つまりディクソン辺境伯と呼ばれてきた人たちこそが、その騎士団のリーダーであり、北の不落の砦の英雄たちのことだった。辺境伯の名を受け継ぐということは、すなわちその歴史と名誉を同時に引き継ぐという意味があり、繰り返される魔物討伐や外交における攻防でも大きな功績をあげている経緯から、王都から遠く離れてはいても、常に王国の重要な存在と位置づけされ、大きな政治的発言権を持つ外交の必要性に重点を置く貴族たちの筆頭貴族になるということだった。



 一方で、王都ではレナルド侯爵家が代々内務大臣の重責を背負い、地方と中央のパイプ役として大きな役割を果たしていた。侯爵家はインフラ事業を成功させ、警務部の組織運営を統括、衛生管理でも活躍を見せて王都の生活水準を著しく向上させてきた功労者でもあった。歴代のレナルド侯爵は王都の発展のために尽くしてきたこともあり、王家からの信頼も高く自然と王宮内での発言権も強くなった。しかし、権力というのは厄介なもので、忠義や忠誠といったまっすぐな心根がなければ、たやすく人の良心を吞み込んでしまう。ローズの父、ルーサー・レナルド侯爵はここ数年ですっかりその権力のとりこになっていた。傲慢で理不尽な行いをすることはなかったが、成功が故の強引さは誰の目からも明らかなのにも関わらず、歴史的功績が故に周囲の人間が侯爵をとがめることはほぼ不可能となっていた。



 そんな内政と外交の要と言える両家の発言権が大きくなればなるほど、政治的対立は増え、自然と政敵と呼ばれる立ち位置につくようになった。外交と軍事に重きを置きたいディクソン辺境伯。内政とインフラ事業を優先させてきたレナルド侯爵。双方の意見のぶつかり合いは年々過激さを増し、辺境伯家当主が若いヘンリー伯に代わったことで両家の対立は一触即発ともいえる危機状態まで陥った。





 「ルーサーよ、そちには年頃の娘がいたな。」


 「名をローズと申します。器量よしで教養も高く、貴族学院をトップクラスの成績で卒業したばかりでございます。」



 権力に強い興味を示していた侯爵にとって、国王から娘のことを聞かれるのは幸運なことだった。王家にはローズと年齢的に年頃が合う王子が二人いた。ひとりはローズより五歳年上の第一王子。もうひとりは二つ下の第二王子だ。今の自分の立場にローズの婚姻が加われば、王宮での立場は盤石どころか王家と縁続きとなる。ローズの夫となる王子が国王となれば、自分はその義父…歴代侯爵の中でもこれほどの地位を持ったものは数えるほどもいないだろうと侯爵は高揚する気持ちを抑えるのに必死になった。国王陛下は聡い。自分の下心を見抜けば婚姻そのものがなくなるだろう。あくまでも忠実な家臣として見えるように頭を垂れて言葉を待つ。しかし、国王が続けた言葉は、侯爵の予想をはるかに超えた王命だった。



 「うむ。そなたの娘ローズと新しく辺境伯となったヘンリー卿との婚姻を王命とする。三か月ののち、王都で婚姻の儀をあげて輿入れし、半年ののち、夫婦での建国記念祭の参加を命ずる。よいな。」


 「陛下!」



 思ったよりも語気が荒くなり侯爵は軽く一呼吸ついて気持ちを落ち着かせた。



 「三か月という短い期間で輿入れさせる…まして辺境の地という遠方へというのはいささか不憫でなりません。この王命…考える猶予はいただけないものでしょうか。」


 「ルーサーよ。おぬしは野心家であろう。水面下で王子たちとの縁組の根回しをしておったことには、わしも気づいておる。ローズは申し分ない令嬢であるぞ。わしとてどちらの王子に縁があったとしても反対する理由はない。」


 「で、あれば!」



 国王の言葉に希望を持ったレナルド侯爵が顔をあげる。長い間、近しい家臣として、時には友人として向き合ってきた国王の目にわずかな悲嘆の色が見える。



 「そなたは力をつけすぎた。」



 ゆっくりと頭をふり、国王が言葉を続ける。



 「政策に間違いはないし、功績も大きい。しかし、ここ数年の間に強引に進めた事業も数多くある。不幸なのはその強引さに歯止めをかけられるものがこの王宮にはもはや存在していないということだ。それが意味することに気づかぬほどおぬしは愚かではあるまい。」



 反論する隙を与えないほど威厳のある声で、表情で、国王は続ける。



 「そして最も懸念されるのが、ディクソン辺境伯との対立だ。小さなもめごと程度であれば許容もできよう。しかし現状はディクソン、レナルド両家共にこのまま内戦でも起こしかねない勢いだ。王宮内の者たちだけでなく、城下にまでそのウワサは広まり、いまやいつ、だれが巻き込まれるか懸念されておる。知らぬとは言わせんぞ。」



 侯爵は下を向いたまま黙っていた。ディクソン辺境伯とは数回ほどしかあったことがない。若く実直で中央政治の駆け引きには疎い…そんな印象を受けた。その若い辺境伯は外交政策に予算も人員もあてたいという意向を真っ向から中央に意見し、内政を整えてきた侯爵家の政策の真逆に堂々と立った。そのせいもあって、自然に両家は対立する政敵となり、貴族間でも瞬く間にその認識が広まった。侯爵は中央で政治に直接かかわっている筆頭貴族。辺境伯を若輩者と見なし、何度か緊急の事案を見落としたフリをしてプレッシャーをかけた。しかし、若くして辺境伯となったヘンリー伯は、騎士団をまとめ上げた手腕が地方の貴族たちに支持され、中央があえて見ないフリをした緊急の外交交渉さえも、武力ではなく話し合いで解決し、その知性の高さも証明してしまった。皮肉なことにこの成功が地方だけでなくこの王都にとどまっている貴族たちの間でも高い評価を得て、侯爵に近い影響力を持つようになったのだ。それが気に食わなかったと言ってしまえば、なんとも稚拙な理由だが、侯爵にとってヘンリー伯は、もはや若輩者でも辺境の一貴族でもなくなっていた。



 「もう一度、王命としておぬしに告げる。そなたの娘ローズと新しく辺境伯となったヘンリー卿との婚姻を結べ。今日より三か月ののち王都で婚姻の儀をあげて輿入れし、半年ののち夫婦での建国記念祭の参加を命ずる。ヘンリー卿にも、すでに書簡にて王命は届いておるはずだ。政敵としてではなく、互いに手を取って国に尽くせるよう、新たな関係を築け。」



 ここまでハッキリと王命を受けてしまえば、侯爵にできることは何もない。ただ静かに頭を垂れて命令を受け入れるしかなかった。



>>>>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<



 「こんなことがあってたまるかっ!」



 先代の辺境伯であった父親が、魔獣討伐で一個中隊を守って戦死したのはヘンリーがまだ十八歳になったばかりの時だった。家督を継いだ当初は「まだ若すぎる」と懸念されたが、継承から三年…今では外交の筆頭貴族に相応しい経験と実績を持って、先代以上の功績をあげる若きリーダーとして名を馳せていた。


 その辺境伯家に届いた王命を一読したヘンリーの最初の一言は、’理不尽に憤った’という言葉では形容しきれないほどの戸惑いと、怒りと、困惑が混ざっていた。



 「坊ちゃま。」



 家令のブラントがヘンリーをたしなめるように声をかけた。幼いころから仕えているからこそできる、いわば彼にしかできない'忠告'の仕方だった。



 「すまん…坊ちゃまはやめてくれ。」



 ブラントが坊ちゃん呼びするときは、冷静さを欠いた言動や行動をとる時が多いことをヘンリーは良く知っていた。そして、この書簡に対する自分の反応がまさにソレだったことは否定できなかった。



 「ブラント、王命が下ったよ。どうやらわたしはレナルド侯爵のご令嬢、ローズ・レナルド嬢と結婚するらしい。」





やっぱり、今までに読んだことある感……

残っちゃいましたか?

この先の展開で「面白くしたい!」という願いはあります


次回「ヘンリーの葛藤とローズの決意」を投稿予定です。

冷たく突き放したヘンリーの本心が明かされます。


「とりあえずもう少し読んでもいいよ」「違う展開になることを期待!」と思っていただけたら

ブックマークやリアクションを残していただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
お父さまが有能ゆえに色々やりすぎちゃったんですね……。その代償が娘に……と思ったら、キーワードに溺愛って入ってて安心しました! ここからどう溺愛に変わっていくのかが楽しみです!
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