私は孤児院出身の聖獣使い。役に立たないと婚約破棄をされ追い出されたが、私もこの子、聖獣は変わっていると思うのです
「ルイーサ、婚約破棄だ!」
「そうだ。出て行け」
「全くよ。聖獣使いだから迎え入れたのに、少しも幸運がこないわ」
「そんな・・・」
私はルイーサ、15歳、平民のルイーサだ。孤児だわ。私には6歳の頃から聖獣がついている。
それに目をつけて、伯爵様から縁談が来て。ご子息、ダミアン様の婚約者として引き取られたけども。
ダミアン様は言う。
「その奇妙な聖獣は全然役に立たない!少しも有難くない!ただの話すキツネだろが!」
私の聖獣は二本足で立つ話すキツネだ。名前はコンちゃんと言う。
コンちゃんはいきり立つ。
「コン!このガキ、何言うてんねん。目をクルクルまわしたろか?」
ゴキゴキ!と首を鳴らしているわ。
コンちゃん。確かにキツネにしか見えない。
少し、口が悪い。
「コン!ルイーサ、このガキ、教育したるわ。少し、待っとき~」
「おい、犬を連れて来い!」
「はい」
「メンチでビビったやろ?今日はこの辺にしたろか。これで懲りたやろ?うちのルイーサちゃんを悲しませたら、次は王都川に流すで、プカプカやで、ルイーサちゃん。ワイを抱っこしていこか?モフモフやで、早よ。行こうか?」
「は、はい。でも奥様、私無一文です・・その」
私はこの家で家事を手伝っていた。修行と称してメイドをやっていたのだ。
少しくらいお給金が欲しい。
「まあ、はしたない!お金ね。お金と、これを持って行きなさい!」
ポイ!
と小さな手鏡を渡されたわ。古いわ。
コンちゃんを抱っこして出て行ったわ。
お金もないわ。どうしたら良いかしら。
コンちゃんを抱っこして街に出ると・・・コンちゃんは紳士を前足で指してトンデモない事を言う。
「ルイーサちゃん。あそこのおっちゃんの頭、ペシペシとはたこうか?」
「え?」
40代くらいの紳士だ。
そんな失礼な事はできない。
「大丈夫やで、おっさんは若くて可愛い子にイジられたいんやで、女は度胸、男は愛想や。ワイは幸運の聖獣やで」
「ワイ、見ているさかい。何かあったら駆けつけるで、安心せい。ワイは天子はんを抜いたら五番目にえらかったんやで貢ぎ物ぎょうさんもらっていたんやで」
「分かったわ」
そうだわ。コンちゃんは聖獣だわ。
勇気を振り絞って、紳士の頭を後ろからペシペシした。
「ヒィ、ごめんなさい!」
ペシ!ペシ!
「!!!」
すると紳士はやっぱり驚いた顔をしてこちらを振り向く。
コンちゃんは・・・いない。
ガシ!と腕を捕まれて、路地裏に連れ込まれたわ。
☆☆路地裏
「君、よく知らせてくれた」
「えっ?」
「確かにカツラがズレている。しかし、君にバレたくらいだから妻と子たちにはバレているだろうな・・・」
紳士はカツラを取ったわ。それはそれは見事な光を放つ頭が現れたわ。
「あの、もし、ご家族が指摘しないのなら優しさだと思いますわ。奥様だけにでも告白した方が良いと思います」
「そ、そうか、優しさか。うん。そうだな。グスン、グスン」
紳士は泣き出したわ。
「君、これから大事な取引がある。カツラがズレたら失礼だ。カツラをつけないと眩しくて先方も目を手で覆わなくてはならない。鏡あるかね?」
「はい、手鏡がございます」
「おお、有難う。これを売ってくれ!君の親切に感動した。銀貨一枚でどうだ?」
「え、これは安物ですわ」
「いいから」
と手に銀貨を握らされて紳士は去ったわ。
「コン、これから屋台にいこか?お魚を揚げたのを食べるコン!」
いつのまにかコンちゃんが出てきたわ。
屋台に行ってお魚を揚げたのを一袋買う。
「毎度!」
すると、この場では不釣り合いなご夫人?ご令嬢と護衛の方々がいた。
モグ、モグ、とお魚を食べながらコンちゃんは言う。
「ルイーサちゃん。あの厚化粧に、イモ買うたろか?と言うのや」
「え、そんなこと言ったら・・・」
でも、一度あったから、私は声を掛けた。
「あの、お嬢様、イモ、買って差し上げましょうか?」
すると、お嬢様にギロッと睨まれたわ。
釣り目が怖い。
「まあ、そうね。庶民の食べ物を視察していたのよ・・・お金ならあるのよ。でも、大金貨だからどこも売ってくれなくて、仕方ないわね。
そこの庶民の方、買って頂けないかしら・・」
私はヤキイモを袋いっぱい買って差し上げたわ。
「ゴクリ、まあ、これは屋敷に持って帰って研究するわ!そうね。私は公爵令嬢キャロラインよ。ほどこしは受けないわ。これを差し上げるわ」
とクジャクの羽の大きな扇をもらったわ。
「あ、有難うございます」
足早に去ったわ。
私は普通の服、デッカい扇を持つと不自然だわ。
売れないかしら。
と思っていたら。
また、コンちゃんがささやく。
「腹膨れたし、行こか。次はお笑いや。抱っこしいや。モフモフやで」
「えっ」
コンちゃんに案内されて行った場所は王門だわ。
王門の前に立つ。
さすがに怒られそうだわ。
しかし、人が大勢いる。
役人に声を掛けられたわ。
「君は、キツネを使ってお笑いをやるのか?動物芸は惨敗しているが、キツネは珍しいから試して見る価値はある。合格だ」
「え、ここは何をしているところですか?」
「知らないで来たのか?」
・・・話を聞いたら、2年前に王妃様が亡くなられた。
それ以来、第二王子のエドモンド様は笑わない。
王子が笑ったら、大金貨100枚頂ける・・・
王宮の広間まで連れて行かれたわ。
先に芸人さんが芸をやっていわ。
「・・・で、俺は言ってやったのさ。それは、ドネツク国の海軍さってね」
シーーーーーーン
「あの・・・ドネツク国は内陸国で海軍はないってオチでございます」
「23番帰りなさい。次、24番ルイーサ!」
「はい!」
コンちゃんは小声でささやく。
「おう、その扇で王子の頭をどつくねん。『なんでやねん』と言えば大丈夫やで」
「本当かしら・・・」
私は王子の前に行く。
さらさらの金髪に、整った顔の青い目はボーと正気を失っているわ。
近づいたら、衛兵が近づく。でも、陛下が制したわ。
「陛下!」
「よい。好きにさせなさい」
私は王子にめいいっぱい近づいて、
パチン!扇で頭をはたいた。
「なんでやねん!」を連呼した。
パチン!パチン!
この方はお母様を亡くしたのね。
「なんでやねん!!」
10回くらいがなんでやねんとツッコミを続けた時、
さすがに、廷臣は止めようとしたが、王子が反応をした。
怒っているようだ。
「なんでやねんってなんでやねん!」
私も返す。
「なんでやねんってなんでやねんはなんでやねん!」
パチン!パチン!
「私はボケてないだろう!何でツッコムむんだ!母上が亡くなって何もやる気が起きないんだ!」
そろそろやばいか?
私は一歩下がって、礼をした。
「それは、何もしない殿下に、お母様の代わりにツッコンでいるのです」
「お前にその気持は分かるのか!」
「実は分からないのです・・・私、孤児ですから」
「フン、調べるぞ。もし、違ったら、どうなるか分かっているのか!」
調査の間。
王宮の客室で過ごしたわ。
そして、調査の結果、孤児だと分かったわ。
王子は驚く。
「そんな。でも、ザルザッツ家に引き取られたのに、何故、路頭に迷っていた」
「はい、追い出されましたわ」
「君はどうしたい?」
「どこか、メイドとして雇われたいですわ。下働きでも良いですわ」
「分かった!」
結局、王子殿下を笑わす事は、1年後にやっと出来たわ。
何故なら、私は王宮付のお話係になったわ。行儀作法や学問を習いながらエドモンド殿下とお話をするのが仕事だわ。
「アハハハハハ、この話面白いな」
「はい、王宮の図書室で調べました。お気にいって頂けたようで光栄です」
楽しくお話をしていると、公爵令嬢キャロライン様が訪れた。
「まあ、良かったわ。エドモンド、可愛い子と話せてご機嫌ね」
「キャロラインお義姉様」
「ご挨拶申し上げます!」
あのクジャクの扇をくれた方、公爵令嬢のキャロライン様。エドモンド殿下とは従姉妹で5歳年上の20歳の方で、王太子殿下の婚約者だったわ。
今日も王宮に来られている。
「ごきげんよう。ルイーサ様、オホホホホ」
「光栄です」
「まあ、カーテシーお上手ですわ!」
プッ~!
あら、キャロライン様が御屁をされたわ。
すると、キャロライン様の後ろにいたメイドの中からザルザッツ夫人が手をあげて。
「今、屁をこいたのは私でございます!」
と名乗り出る。私がいた伯爵家の伯爵夫人だわ。手鏡をくれた方だわ。
王子は鼻をつまむ。
「く、臭い・・ルイーサ、臭くないか?」
「いえ、何とも言えませんわ・・・」
「オ~ホホホホホ」
キャロライン様はヤキイモがお好きなようだ。
私が出て行った後、ザルザッツ家は没落し。伯爵夫人は王宮で『御屁請負メイド』の職を得た。
令嬢の屁やはしたない行為を全て請け負う職だわ。
「ルイーサ、庭に行こうか」
「はい、殿下」
「エドと呼んでくれよ」
「それは・・・ご勘弁を」
庭園に行く途中、元ザルザッツ伯爵が馬屋番をしている現場に出会ったわ。
「おっさん。あのな。馬屋番をなめているだろ!何度同じ失敗をするんだ」
「も、申し訳ありません」
若い馬屋番に叱られているわ。
そして、ガゼボでお茶をしていると、侍従が呼びに来る。
元婚約者のダミアン様だ。
「あの、殿下、そろそろお時間です」
「え~、もう少しルイーサと話をしたいな。君、呼びに来るのは良いけど、話をさえぎるなよ。少し、待つのが礼儀だよ」
「申し訳ありません」
殿下が叱っていると、空から声が聞こえる。
コンちゃんは庭園の上を飛んでいる。
前足と後ろ足を伸して庭園上空を旋回している。これは可愛いと思う。
「ルイーサはん。そろそろ毛繕いの時間やで」
「はい、行きますわ。殿下、また、後で」
「ああ、夕食で会おう」
私はキャロライン様からもらったクジャクの扇で、コンちゃんをナデナデしてから、ブラッシングをするのが役目だ。
コンちゃんが王宮に来てから王国の経済が良くなっていると言うが因果関係があるか分からない。
しかし、王国はコンちゃんのために庭に「おやしろ」という小さな聖堂を建てた。
大きさは物置ぐらいだ。
コンちゃんの指示で作った物で、異国、東方の建物のようだ。
「ワイの母ちゃんはな。九尾のキツネやったんや。あちこちの国を滅ぼして、最後、日本で封印されたのや。殺生石や。
それでな。ワイは母ちゃんの力あるんやで、ルイーサちゃんにとりついて、この国を滅茶苦茶にできるんやで。もし、ルイーサちゃんを泣かしたら、ワイに任しとき」
「エイ!」
と抱っこした。
「そんな怖い事言わないで、分かっているわ。コンちゃんは優しい聖獣だわ」
そして、王子も優しい。
「ルイーサ、私もコン殿の世話を一緒にやりたいどうだろうか?」
「まあ、殿下、御用は?」
「すんだ。父上から、ルイーサと一緒にいていいと許可をもらった。その、夕食の時に大事な話がある・・・」
「分かったわ」
コンちゃんは光った。時々、こんな時がある。
「ワイ、ルイーサの親代わりや。異世界転移して、力尽きて孤児院の庭で腹すかして目回しているときに、自分のご飯を半分くれたんやで、泣かしたら天変地異を起すで!」
「はい!コン殿!絶対に幸せにします」
「え、私、今、幸せですよ」
「アカン、この子、分かってへん。鈍感系ヒロインや。王子はん。今、夕日に向かって叫ぶのや!」
「コン殿、分かりました!」
まあ、何かしら。
【ルイーサ!好きだぁーーーー!】
「キャ、王子、私は孤児院出身ですよ・・」
「君が好きなのだ!」
考えても見なかった。
この日、婚約者に指定されたわ。
王子妃、大変だけど、でも、頑張れると思うわ。
素敵な仲間たちがいるから・・・
そして、今もコンちゃんはお庭にいる。
最後までお読み頂き有難うございました。