表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今、幼馴染みが短期アルバイトで神様やっているのだが……。

作者:


 あこがれの都会にやってきた。街は活気があって、おしゃれで、すべてがキラキラして見える。ここは生まれ育った里のような、古い伝統やしきたりに縛られたところではない。


「まあ、こんなところで何やってるの?」


 背後からの声に振り向いた。


 えっ!?


 目を疑った。幼い頃からよく知っている顔があったのだ。

 これはなんという偶然! まさか、こんなところで会うなんて。


 とりあえず彼女の問いに答える。


「実はずっと前から都会に夢見ててさ、とうとう来ちゃったんだ」

「へえ、知らなかったぁー。都会に興味あっただなんて」


 そっちこそ、どうなんだ。

 彼女に訊いてみる。


「遠い地で一人暮らしを始めるって聞いてたけど、いま何をやってるんだ?」

「知りたい? ふふふふ。じゃあ、これを見て」


 彼女はニコッと笑って、袖を捲った。

 出てきたのは、見栄えの悪いブレスレット。センスの欠片もない。


 でも見るのは初めてではなかった。そのブレスレットのことはよく知っている。彼女個人の所有物ではなく、里の宝とされている公共物だ。


「そのブレスレットって、大事な【里神の証】だよな?」

「うん。あたし、短期のバイトで神様やることにしたんだ」


 なんだと? それ真面目な話か? 呆れて言葉が出てこないぞ。里神の仕事といえば激務だろ。プライバシーもなくなるみたいだし。


「もしかして里神になって早々、里から逃げてきたとか?」

「違うわよ。人聞き悪いなあ。きょう一日休暇もらったの」


 へえ。ちょっと意外だ。


「休暇をもらえるのか。里神の仕事って、思ったほどブラックじゃないのかもしれないな」


「いやいや、超ブラックよ。なんたって里で伝統的に行なわれている仕事だから、待遇は遠い昔のまんまで時代遅れなのよ」


「だったら、なんでそんなバイトを?」

「そりゃ、リターンが大きいからに決まってるじゃない」


 リターン? ああ、神通力のことかぁ。


 里神になれば、神通力をたった一度だけ、自分のために自由に使うことができるのだ。


 ただし、その代償として、里神のきつい仕事に励まなくてはならない。里人たちを常に見守り続け、また逆に里人たちから見張られることになる。


「神通力を使って、何かやりたいことでも?」

「ひ・み・つ」


 彼女は人差し指を口に添えた。


 彼女の秘密が気になった。神通力は信じられないような奇跡を起こす。たとえば夏と冬を逆転させることだろうが、湖の水をすべてワインに変えることだろうが、望みさえすれば可能にしてしまうのだ。


 しかし大きな奇跡ほど、神通力の消耗は激しくなる。たとえば夏冬の逆転を引き起こしても三日と持たないだろうし、湖水をワインに変えたとしても、数分で元の淡水に戻ってしまうだろう。



      ☆彡



 視界の片隅で何かが動いた。それに目を奪われた。


 ゴ◯ブリだ。素早く動く黒い物体に対しては、目で追うばかりでなく手で追った。反射神経じゃ負けないつもりだ。


 それっ!


 しかし、この腕を阻むものがあった。

 彼女の手だった。


「バッチイからやめなさい。そういうところ、ぜんぜん変わってないわね」

「そっちこそ、そろそろ子供扱いするのはやめろよ」

「だったら子供みたいなことはやめなさい」


 言い返せずに、舌打ちした。



 ピカッ


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……



 このタイミングで遠い空が鳴った。

 恐ろしい轟音に恐怖を覚え、反射的に後方へジャンプ。

 その場に小さくうずくまった。


 恥ずかしい話だが、雷が大の苦手なのだ。


「ホント、あなたって小さい頃のまま」


 彼女に頭をそっと撫でられた。

 なんだよ、大人ぶって。またいつもの保護者ヅラかよ。



      ☆彡



 父母も祖父母も兄弟姉妹もいなかった。

 だから幼少時より彼女の家に引き取られていた。

 ちなみに、彼女の家の人たちと血の繋がりはない。


 それでも居候っていう感覚はまったくなかった。

 皆、家族として接してくれたからだ。


 それをいいことに、ときどきイタズラもしたし、文句などもぶつけた。


 なのに嫌われることも追い出されることもなかった。もちろん悪いことをすれば叱られたけど、家族の愛情はじゅうぶん伝わっていた。


 彼女は姉のような存在だった。

 自分も子供なのに、よく面倒を見てくれた。

 ただ、それがウザさを感じさせることもあった。


 いつか対等になりたかった。


 でも、まだまだ先の話かな。こっちはなかなか大人になりきれない。さっきのように、気になることがあるとそれに集中してしまうし、すぐに周囲のことが何も見えなくなる。また格好悪いことに、雷の音には怯えてしまう。


 子供扱いされなくなるためには、もっと努力が必要かもしれない。


 それにしても、きょうの彼女はなんだか不思議な感じがする。


 見慣れているはずの彼女の表情やしぐさに、いちいちドキッとしてしまう。


 里にいるときと都会にいるときとで、これほど違って目に映るものだろうか。都会の空気にでも飲まれてしまったせいかもしれないな。


 とりあえず落ち着こう。

 そう思って深呼吸した。



 あれ?



 何か大きなことを忘れているような気がする。

 はて……。思いだせない。


 そういえば里にいるときの記憶が、曖昧になってきている。

 何を忘れているのだろう?



      ☆彡



 突如、背筋がゾクッとした。

 殺気のようなものを感じたのだ。


 振り向くと、また知っている顔があった。

 そこに立っているのは、彼女の妹ではないか。


 目を剥きながら、こっちを睨んでいる。

 どうしたというのだろう。


「アンタが……」

「ん?」

「アンタが翔太を殺した!」


 何っ、翔太が殺された? それは大変だ。


 いや、待って。さすがに嘘だよね……???

 残念ながら冗談を言っているような顔ではなかった。


 確かに翔太のことは好きじゃなかった。

 だけど殺そうと思ったことなんてあるわけない。

 身に覚えがないことだ。彼女の妹の酷い誤解だ。


 そもそもの話、なんで警察じゃなくて彼女の妹がきた?

 どうせ相手にされなかたんだろ。警察もわかってるんだ。


 それでも彼女の妹は、刃物を持って襲いかかってきた。

 いや、厳密には刃物ではなく、大きなアイスピックだ。


「待ってくれ。翔太なんか殺しちゃいない」


 彼女の妹が何を根拠に疑っているのかは不明。

 だが本気で殺しにきている。


 その表情を見れば容易にわかるが、もう何を言っても無駄だろう。

 なんの迷いもなく完全にこっちを疑っている。


 襲いかかってくる妹を何度もかわした。


 妹は足を滑らせた。


「こっちよ」


 彼女が手を引く。

 いっしょにこの場から逃げた。



      ☆彡



 二人で走る。


 どうやら妹の尾行を撒いたようだ。

 安堵したところで目についたのは、路上で椅子に座っている女だった。


「怪しいコスプレだな」

「あの人、路上占い師ね」

「へえ、あれが占い師か」


 占い師って、人間なのに未来が見えるんだよな。すごいや。マジで存在してたのか。都会っていろんなヤツがいるって聞いてたけど、まるでファンタジーみたいなところじゃないか。


 彼女が微笑む。


「気になるみたいね。占ってもらう?」

「いや、結構。けど、やってみたらどうだ?」

「何それ。あっ、わかった。自分の未来を知るのが怖いんで、あたしにやってほしいわけね。いいわ」


 占い師に頼むこととなった。


 どんな彼女の未来を話してくれるのだろう。

 とてもワクワクした。


 占い師からペンと紙を渡された。

 そこに氏名と生年月日を書けってことだ。

 もちろん書くのは彼女だ。


 ところがペンのインクが出なかった。


 占い師は「すみません」と言って、代わりのペンを探し始めたが見つからない。黒い衣装の内ポケットや、ポーチの中をまさぐっている。


「おかしい。予備は持ってきたはずなのに」


 すると彼女は占い師の足元を指差した。


「足元にあるバッグのポケットにありますよ」


 占い師はエッという顔をして、言われたところを探すのだった。


「あ、ありました……」

「そうですか。良かったです」

「でも、よくわかりましたね?」


 彼女は何も答えず、ただ無言で首肯した。


「ところで山松さん。生年月日は西暦で書けばいいんですか。それとも和暦でしょうか?」


「どうして私の名を知ってるのですか!」


「あっ、ごめんなさい。たまたま名前が当たっちゃったみたいです。たまたま」


 眉間にシワを寄せる占い師。


「なんか気味の悪いお客様ですね……。いっ、いいえ、なんでもありません。失礼しました」


 彼女の書いたものに占い師が目を通す。


「南牧梨沙さんですね。ご職業は何をされています?」

「短期のバイトですが、一応神様やってます」

「はあ? すみません、もう一度……」

「だから神様です。里神です」


 占い師は目尻をつりあげた。


「私、この仕事を真面目にやってるんです。ふざけないでください」

「ふざけてなんかいません。あたしも真面目に言ってるんです」

「何が神様ですか! 冷やかしでしたら他所でやってください」


 ふと思った。

 なるほどな。占い師の怒る理由は明白だ。

 彼女に教えてやる。


「同業者は敵ってことなんだろうぜ。未来が見える者同士だからな」


 本職の占い師には勝てないだろうが、里神だってときどきならば、近い未来が見えるのだ。さっきだってペンの場所を言い当てたし。


 ヒステリックに声をあげる占い師。


「厚かましい~。神様だとか、そんなインチキと一緒にしないでくださいます?」


 彼女は熱くなっている占い師から目を逸らし、周囲をきょろきょろするのだった。


「突風がくる」


 名前と生年月日が書かれた台上の紙を両手で押さえた。

 直後にヒューッと強い風が吹いた。

 彼女が手で押さえていたので、紙は飛ばされずに済んだ。


 占い師の目が憤怒から驚愕に変わる。


「どうして突風が吹くって知ることができたのでしょうか」

「短期バイトですけど、さっき言いましたとおり神様やってる最中ですので」


 占い師は両手で頭をくしゃくしゃと掻いた。

 そして覚悟を決めたように、眉をキリッと引き締める。


「あなたのこと、しっ師匠と呼ばせてください!!」

「あたしのことは神とお呼びください。ちなみに弟子はとりません」


 結局、占いはやってもらわなかった。



      ☆彡



 花畑公園を横切った。池があった。ボートも浮かんでいた。


「ねえ、いっしょにボート漕いでみようよ」

「却下だ。ああいうのは好きじゃない」


 本当は転覆するのが怖かった。実は泳げないのだ。


 彼女が歩き疲れたようなので、オシャレなカフェテリアで休憩した。

 その後はウインドーショッピング。都会の散歩を満喫した。



      ☆彡



 二人で道を歩いていると、彼女の妹の姿が見えた。

 こっちにはまだ気づいていないようだ。


 妹から身を隠すべく、狭い路地に入っていった。


 ここならば大丈夫だ。

 しばらくは動かない方がいいだろう。



 キラッ



 光る物が見えた。

 咄嗟に体を動かし、それを避けた。

 そこにいたのは彼女の妹だった。手にはアイスピック。

 こんなにも早く見つかってしまうとは。


 ふたたび鋭いアイスピックが襲ってくるが、今度は余裕でかわすことができた。


「相変わらず、すばしっこいわね!」


 般若のような形相の妹に、彼女が叫ぶ。


「もうやめて!!」


 もちろん妹は止まることなく、アイスピックで襲ってきた。

 またもや余裕でスルッとかわしてやった。


「痛いっ」


 叫んだのは彼女だった。

 空振りした妹のアイスピックが、彼女の指を傷つけたのだ。

 僅かながらも真っ赤な血がしたたり落ちた。


 顔面蒼白の妹。


「わ、わざとじゃないからね。そいつが悪いのよ」


「ケガ自体はたいしたことないけど、大変なことをしてしまったわね。あたし、短期バイトだけど里神なのよ。あたしが望まなくても祟りに遭うわ。とりあえずここを離れて、すぐ里へ帰りなさい。家の中で静かにしていること!」


 妹は慌てるように背中を向けて走っていった。


 溜息を吐く彼女。


「もぉー、余計な仕事を増やしてくれたわね。唯でさえ激務だというのに! 祟りを抑えるのって、かなり手間がかかるんだから」


 そんな彼女の手を取った。

 血のついた指をペロり。

 彼女の手が震えた。


 あっ、いけねっ。


「ご、ごめん。つい、癖というかなんというか、咄嗟のことで……」

「ううん、大丈夫。気にしないで」


 彼女は真っ赤な顔してはにかんだ。


 とても可愛らしく見えた。抱き締めたくなる衝動を抑えた。

 どういうわけか、こっちの体まで震えてきた。


 感情に堪えきれなくなったので、そのまま彼女の唇を奪った。


 抵抗はなかった。

 全身が熱くなった。



      ☆彡



 気づけば、頭を撫でられていた。

 暖かな日だまりの中、彼女の膝の上。


 意識が朦朧としている。どうしてこんなところに?


 彼女の指に傷跡を見つけた。

 ああ、あのときの……。

 彼女の優しげな声が耳に入ってくる。



  ごめんなさい、あたしの身勝手につき合せたりして

  あなたの大好きなツナの猫缶あげるから許して

  あたしは知っているわ

  翔太を襲ったのはあなたじゃない

  妹の勘違いね

  だって、あなたはハムスターに興味ないものね


  大好きなあなたを彼氏にしたかった

  そのために短期の里神になった


  願望は成就した


  残念ながら、大きな奇跡ほどすぐに終わってしまうもの

  本当は半日くらい保ってほしかった


  なのにキスして、ほんの数秒でおしまい

  それでもあの一瞬がとても幸せだった

  人間となったあなたと街を歩いたのも楽しかった




 最後に彼女はありがとうと言った。


 ほんの少し前と比べて、彼女の言葉が聞き取りにくくなった。

 でもなんとなく意味がわかった。

 感謝したいのは、こっちも同じだ。

 楽しかったし、最後はドキドキもした。

 心地が良かった。


 大好きな大好きな彼女。

 あのときの大好きとは違うけど、大好きだよ。



 頭はますますぼやけていった。


 アクビをした。

 彼女の背中に猫缶発見。


 膝からおりて、猫なで声で催促する。



  __ 完 __






最後まで読みいただきまして有難うございました!!


ジャンルは違いますが新作を始めました。ぜひ応援をお願いいたします!!

『妻に不倫&托卵された惨めなオッサン、異世界で【お人形さん遊び】を堪能する』<https://ncode.syosetu.com/n1706jz/>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ