ヒーロー
「それって……」
「あの時は助けてくれてありがとう。わたし怖くて怖くて。助けてもらったのにその場から逃げちゃった。本当にごめんなさい」
あの時の女の子が凜?
「そうか~~。あのあと女の子がいなくなってたから気にはなってたんだよ。無事でよかったよ」
「りんたろ~~」
うあっ。
凜が感極まったのか抱きついてきた。
そうか、あの時の女の子がこんなに大きくなぁ。
そんな偶然あるんだ。
まさかあの時の女の子が凜だったなんて考えてもみなかった。
俺があの時無理した結果が、今の凜に繋がっていると思ったら俺のヒーローかぶれも捨てたもんじゃなかったんだな。
感慨もひとしおだが、ここはペットショップ。
「凜、そろそろ」
「いや」
「いや、他のお客さんもいるから」
「いや」
ペットショップでおっさんと若い女性が抱き合っている図。
当然周りのお客さんには事情は分からない。
あるのは好奇の目のみ。
凜にも思うところがあるのだろうし、無理に引き離したりはし辛いが。このままもまずい。
俺は、徐々に凜を誘導しながらお店を出る。
「凜、そろそろ」
お店を出たからといって人の目が無くなるわけではない。
それからしばらくの間俺は凜を必死に説得し離れてもらう事に成功する。
「落ち着いた?」
「うん」
結局、ペットショップにも戻り辛いのでそのままお昼ご飯を食べに行くことにする。
「それじゃあ、最初から?」
「うん、もちろん」
どうやら、凜は俺が配属になったその日、あの時のサラリーマンが俺だとわかったらしい。
気付かなかったのは俺だけか。
「それなら言ってくれればよかったのに」
「できれば気付いて欲しくって」
「あ~すまない」
正直、全く気付かなかった。
気付かなかったというか、考えてもみなかった。
「もしかして、今日ペットショップに来たのって」
「うん、犬を一緒にみたらもしかして気付いてくれるかなって」
「もうしわけない」
いや、さすがにそれは難しいだろう。
「ううん、いいよ~。本当はもっと時間をかけてと思ってたんだけど、りんたろ~がどんどん遠くに行っちゃいそうだから」
「? 別に遠くに行く予定はないけど」
「ん~有名になると色々あるでしょ~。それに湊隊長もいるし」
「湊隊長がどうかしたのか?」
「ううん、だいじょ~ぶ」
それにしても、もう十年は昔の話なのによく俺の事なんか憶えていたな。
「だからりんたろ~は、ずっとわたしのヒーローなんだよ」
そういうことか。
なんどか凜が俺の事をヒーローって呼んでくれていたのも、何度か助けたって話もそれでか。
ヒーロー。
犬に追いかけられて噛まれたヒーロー。
恐怖体験以外の何物でもなかったけど悪くない。
その後も、何度もお礼を言われたけど、こちらもヒーロー気分を味わえたし逆にお礼を言いたいくらいだ。
ただ、十年分の感情が発露したからか、ただでさえ距離感が近い凜との距離が更に近い気がして、そちらにも意識を奪われたのは、今日だけだろうしあえて言う必要はないだろう。
それにしても、こんな偶然があるとは。
世の中広いようで狭いってことか。




