おっさん飲み
「花岡さん、これいけますか?」
「はい、大丈夫です」
注文は日枝さんにおまかして、出て来た料理を口にする。
「うまい」
「お口にあったようでよかったです」
出てくる料理は基本和食。
家庭料理のようだけど、それよりも少し洗練された感じ。
食べやすいし、うまい。
「く~~~っ、うまい」
「はい」
お酒も日枝さんにおまかせしたので今日はビール。
正直、レモン酎ハイの方が美味しいとは思うけど、お店の雰囲気と出てくる料理と相性抜群だ。
「花岡さん、結構いける方ですか?」
「いや、そんなに強い方では。嗜む程度です」
「そうなんですか? あれだけ無双の花岡さんですからお酒も底なしなのかと」
「いや、いや、いや。そんなことはないです」
出て来たのは、茄子の煮浸し。
「うまいですね」
「間違いないです」
後藤隊のメンバーと行くお店とはまた違った良さがあり堪らない。
「日枝さんはよく来るんですか?」
「家族が煩いんでたまにですかね。月に何度か1人で嗜んでます」
「そうなんですね。ここなら1人でも落ち着けますよね〜」
こんどは、鯛の煮付け。
母親が昔作ってくれたものよりも少し濃口の味付けだけど、鮮度が高いからか身が締まっていてうまい。
「一杯どうぞ」
「ありがとうございます」
濃い目の味付けに日枝さんがついでくれた冷酒が堪らない。
お酒は控えていたけど、この場で飲まないのは、日枝さんにも出された料理にも失礼にあたる。
この季節、キンキンに冷えた日本酒。
「く〜〜っ」
「なんでか声出ちゃいますよね」
「そうですね」
日枝さんは俺より年上の49歳だそうだ。
当然、ご結婚されていて娘さんが1人いるらしい。
防衛機構勤務30年近い大ベテランだ。
「私、この年でまだ現場ですからね。流石に凡人の私にはキツイですよ。ただ、娘も大学の学費がかかるしやるしかないんですけどね」
「30年も社会の役に立ってきたって凄い事ですよ。尊敬します」
「そんないいもんじゃないですよ。30年もやってれば色々あります。同期は辞めるか出世して事務方に行ってる奴が増えたんでね。下っ端は汚れ仕事もありますから」
「いや、そういうのをこなす方がいてこその組織じゃないですか。やっぱり素晴らしいと思います」
「花岡さん、わかってくれますか」
「当たり前じゃないですか。みんな頑張ってますから」
「上や若い子に愚痴ってもわかってもらえないですよ。今日はとことん付き合ってくれますか?」
「もちろんです」
日枝さんはどうかわからないけど、おっさん2人でこうやって飲むのもなかなか悪くない。
世代が近いからか、共感する部分も多いし気を張らずに飲めるのがいい。




