南辰示現流
HJノベルスから非モテサラリーマンが4/18日発売です。
いっぱい買ってもらえると続刊します。
よろしくお願いします。
「それじゃあ、さっそくと言いたいところだが、自己紹介がまだだった。私はここの道場主をしている、茂田喜一郎という」
「失礼しました。花岡修太朗です」
「花岡さんは、なにか武術の心得は?」
「ありません」
「そうか。それじゃあ素振りでもやってみるか」
「素振りですか?」
「私を真似てこれを振ってみようか」
どうやら、ここは剣を扱う道場のようだ。
ダンジョンでも剣を使うのでちょうどよかった。
「これですか?」
「ああ、ここではそれ使う」
渡されたのは木刀。
ただ、俺のイメージにあるのとは随分異なる。
木刀とは刀を模したものだと思っていたけど、これは持ち手こそそう変わらないけど、刀身の部分が明らかに分厚く大きい。
軽く振ってみるが重心も先端に偏っているからか異常に重い。
「重いですね」
「そうだろう。普通の木刀は500グラム程度だが、これは1.5キロを超えてるからな」
「そうなんですか?」
「たかが1キロの違いだが、振った時の重さはその何倍にもなる。木刀とはいえ普通に人が殺せる威力になる」
なにやら物騒な言葉が聞こえてきた。
町の道場で人を殺せる威力が必要だとは思えないが。
「我が流派は南辰示現流という」
流派名を教えてもらうが、こういうのに疎い俺でも聞いた事があるような立派な名前だ。
「実は、それほど一般的な流派ではない。よく知られている北辰一刀流と示現流を合わせたような名前だが、別物だ。まあ、両者のいいとこ取りというか一撃必殺を極めた流派と思ってくれ」
「そうなんですか」
どうやら俺が聞いた事あるのとは違うらしいけど、正直違いはわからない。
「それじゃあ、ちょっとやってみるから」
「はい」
茂田さんが手に持った木刀を頭上に構える。
「キエエエエエエエエ〜!」
茂田さんが声を上げると、覇気とでも言えばいいのか空気がビリビリと振動しているように感じられる。
もちろん茂田さんは魔法を使っているわけではないけど、強化魔法を使っているかのような迫力だ。
茂田さんが木刀を振り下ろす。
空気が擦れる音がする。
その振り下ろされた一撃がとんでもない威力なのがわかる。
冗談抜きで人を殺せる一撃だ。
「ふ〜〜っ、どうだ?」
どうだと言われても正直返答に困るが、思ったまま答える。
「俺にはよくわからないですけど、すごいですね。本当に人が殺せそうに感じました」
「そうか、わかってくれたか。我が南辰示現流は一撃必殺。どのような相手でも一刀の元に斬りふせる。相手を倒す為の剣だ。剣とは生きるか死ぬか。そこらへんのスポーツ紛いの剣術とは訳が違う」
相手を倒す為の剣か。
確かにさっきの一振りにはそういうものを感じた。
だけど、今の世の中にそんなものが必要なのだろうか?
気軽な気持ちで体験してみたかっただけなのに、ちょっとくる所を間違えてしまったかもしれない。




