命
お知らせ
読者の皆さんのおかげで 非モテサラリーマン40歳の誕生日に突然大魔導士に覚醒する の書籍化が決定しました。
ありがたい事にいくつかお声がけいただいたのですが、1番先にお声がけいただいたホビージャパンさんに決定しました。
発売日の発表はもう少し先になりますが、今のところ順調に作業も進んでいるのでお楽しみに!
聞き取りを終え、後藤隊も部屋へと戻る。
結局のところ、あのオーガたちがどこから現れたのかはわからない。
戻ってから、おそらくあの場を一番俯瞰で捉えていたであろう桜花さんにも聞いてみたけど気がついたらそこにいたとのことで、俺とそう変わらない印象だった。
まあ倒してしまったモンスターの事だしそう問題ではないのかもしれない。
だけど、まだどれだけも時間が経過してないこともあるけど俺自身、あの時のショックから完全に抜けれたわけじゃない。
聞き取りを受けあの時の事を話すうちに、あの時の情景がフラッシュバックしてしまった。
目の前で隊員が潰されてしまった。
その映像が焼き付いて頭から離れない。
祖父母の葬式に参加したことがあるので、人が亡くなった姿を見るのは初めてではない。
ただ、あれは……全くの別物だ。
モンスターと戦うとはこういう事なんだ。
以前市川さんが悩みを打ち明けてくれたけど、今なら市川さんの気持ちがわかる。
死。
それが突然に降って湧く。
ダンジョンとはそういう場所。
「あれ~りんたろ~どうかした? もしかして疲れてる?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
「りんたろ~は初めてだもんね」
「え?」
「目の前で人が死んじゃうの、初めてでしょ? 私も最初はショックだったし落ち込んだから~」
「ああ、うん」
「私は今回以外にも2回あったから。一人はりんたろ~の前任者ね」
「2回もか」
「やっぱりショックだよね~だけど捉われちゃだめだから。捉われたら自分も引っ張られちゃう」
「引っ張られる?」
「そう、モンスターは際限なくやってくる。私達は退治するのが仕事だから。ダンジョンで躊躇したら死んじゃうよ? りんたろ~は絶対死んじゃだめだからね。ダンジョンじゃ自己犠牲は美徳じゃないからダメだよ」
「ああ、わかってる。死ぬつもりはないよ」
先輩である凜の言葉は重い。
人が死ぬのを軽く見ちゃいけない。だけど重くとり過ぎては動けなくなる。
自己犠牲はともすれば悪。
ヒーローとは全く逆の論理。
だけど理解はできる。
そしてそういう言葉をかけてくれる凜には感謝の念しかない。
俺の表情を見てフォローしてくれている。
俺がすべきこと。
ダンジョンに潜りモンスターを倒す。
だけど生きて帰るのが最優先。
迷いや戸惑いがあればその確率が下がる。
俺の命。そして凜の命。後藤隊のみんなの命。
そこだけは絶対だ。
もし、あのオーガキングの対象が後藤隊の誰かだったら。
きっと俺には防げなかった。
もし、あの場に凜がいてああなってたらと考えてしまう。
ショックを引きずってる場合ではない。
次があるかはわからない。
オーガキングと相まみえることがまたあるかはわからない。
だけど、次は苦戦することは許されない。
誰にも被害が及ばないよう封殺する。
そういうイメージだけはしておかなきゃならない。




