身体がリミットブレイク
普段なら起き上がる時間だけど、まったく眠れなかったし今日はいいだろう。
結局そのままゴロゴロして11時を迎えてしまったのでいい加減起きる事にした。
「あ……れ」
起き上がれない。
冗談ではなく、本当に起き上がることが出来ない。
ベッドで寝てる間は感じる事はなかったのに身体中が猛烈に痛い。
比喩表現ではなく電撃が身体を駆け巡る。
「ぐ……は……っ」
痛い。
この痛みには覚えがある。
筋肉痛。
ただ、今まで味わったことのあるものとは一味どころか二味も三味も違う。
痛い。痛すぎる。
芋虫のように身体を横に向け、少しずつ身体を動かす。
動かすたびに激痛が走る。
原因には覚えがある。
昨日の五階層での戦い、それと無理を押しての行軍。
そのどれもが40歳を迎えた俺の肉体にとんでもないダメージを与えたのだろう。
特に中級魔法『リミットブレイク』の使用が効いた気がする。
初級の『ギリスマティ』でさえ、連発すれば筋肉痛になっていたんだから『リミットブレイク』なら当然そうなるという気はする。
そんくらい『リミットブレイク』による強化は段違いだった。
まさに俺の身体の限界を超えていたのだろう。
救いはあの場でこうならなかったことだ。
あの場でこうなっていたら完全に万事休すというやつだった。
ゴブリン一匹相手にすることはかなわなかっただろう。
翌日の筋肉痛。
これは歳によるものかもしれないが、ある意味そのおかげで助かったとも言えなくもない。
それにしても……全然起き上がれないんだけど。
脚とお尻が痛い。
そして腹筋が痛い。
腕も痛い。
首と背中も痛い。
力を入れようとすると痛い。
再度全身の状態を確認すると顔は無事だったようで痛みはなく声をあげる事も出来るようだ。
それと痛い中では左腕が少しだけ軽度な気がする。
ただ、腹筋や脚に力を込めずに起き上がる術を模索してみたが、そんなものはあるはずもなくやっぱりベッドからは抜け出せない。
「どうするんだ、これ」
冗談抜きでまずい。
食事は最悪抜いてもどうにかなるが、問題は……。
この歳で最悪の事態は避けたい。
それに、これほどの筋肉痛は経験がない。
今日は一日休みだからいいけど、明日から普通に出勤できるのか?
病院に行くべきなのかもしれないが、それも難しい。
救急車?
いや、ただの筋肉痛で救急車はない。
救急隊員の人に筋肉痛ですとは言えない。
俺の経験からすると、必要なのは時間。
そして筋肉痛は動かしていれば少しずつ緩む。
脱力状態から可能な動きを探りながら、少しずつ動かす。
少しずつでも痛いことには変わりがないけど、動かさない事には先がない。




