5階層で
「あの~花岡さんですよね」
「はい、あなたは……」
「失礼しました。明神隊の坂東です」
「坂東さんですね。私になにか?」
「いや~こんな時にあれなんですけど、俺花岡さんのファンなんです」
「ファン⁉」
「花岡さんの配信は欠かさずみてます。事務所でもお会いしたことなかったんで感激です」
驚いた。
他の隊の人に声をかけられたと思ったら、俺のファン?
この感じ、からかわれてる風もなくどう対応するのが正解かわからない。
坂東さんってどう考えても先輩だよな。
「この前のイレギュラーでの花岡さんカッコよかったですね~」
「いやぁ」
「世界トレンドですもんね。この後サイン貰っていいですか?」
「サインですか⁉」
「はい、家宝にしますんで」
まじか……。
非常に照れくさいというか、何とも言えない感じだけど、先輩に頼まれて断るという選択肢はない。
「私でよければ」
「本当ですか? 実は妻もファンなんですよ。嬉しいなあ」
「奥様もですか。恐縮です」
坂東さんを皮切りに、行軍が落ち着く度に他の隊の人が話しかけてきてくれたけど、同様に何枚かサインを書く約束をしてしまった。
先輩相手にサインを書くって、何とも言えない感覚だ。
もちろん芸能人のようなサインがあるわけないし、名前を書くだけだけど、サービスの為にもそれっぽいサインを考えた方がいいのか?
「りんたろ~人気者だね~」
「凜、からかってる?」
「ううん、まじめだよ」
4階層迄はローテーションしながら先へと急いだので、俺の出番はほとんどなかったけどかなり速いペースで階層を降り5階層へと到達した。
「それじゃあ、最後に確認されている場所へと向かいます」
ここからは山口隊の先導で現場へと向かう。
ここの所、5階層で揉まれたおかげで、他の隊の行軍に遅れることなくついていくことが出来ている。
現場は階段から40分ほど歩いた位置だった。
「もうすぐ、現場です。一応準備はしておいてください」
各隊に緊張が走る。
俺も錆びた剣を手にし、集中しなおす。
「え~っと、視聴者の皆さんここから一旦画面は下に下げて音声だけになります」
桜花さんの声が聞こえてくる。
今回の行軍でも桜花さんは配信のために撮影している。
配信までは、もしもの時の為に若干のタイムラグがあるとのことだったけど、今回は可能性を考慮してあらかじめ配慮しているのだろう。
そのことが、俺の緊張感を一段引き上げる。
山口隊が再び進み始めたので、俺も周囲に気を配りながらついていく。




