ep.???(8) クラス替え試験③
ドームに拳が貼り付き、閃拳の構えを取れず、片腕だけの状態ではロクな防御ができない。
それでも"吸牙"は向かってくる。
「姉さんに楯突いたこと…あの世で後悔しろ…!」
攻撃が飛んでくる。
にも関わらず、魔佑大は背を向け、ドームを張っている相手に向き直った。
そして、ドームに張り付くように、無理やり閃拳の構えを取った。
「申し訳ないけど…僕の"バリア"は割れないよ…!」
そう言い放つ彼。
魔佑大は構わず力をため続ける。
すると、拳を中心に風の渦ができ始めた。
風の勢いはどんどん増していく。
―閃拳『風』―
魔佑大が拳を押し進めると、拳に纏われた風が貼り付いた"バリア"の粘着部をえぐる。
そのまま魔佑大は体を捻り、"バリア"からずらすように拳を押し進める。
徐々に魔佑大の身体は"吸牙"の方向へと向く。
やがて、魔佑大の拳から粘着物質が全て離れた。
「いっけぇぇぇ!」
引き絞った弓から矢が放たれるように、魔佑大の拳は加速する。
ゴウゴウと激しい音をたて、眼前の敵めがけてまっすぐに向かっていく。
相手はガードする間もなくもろに攻撃を受け、吹っ飛んだ。
「残念ながら…
"属性攻撃"、身につけてるんすわァ…!」
"属性攻撃"
属性を打撃などの物理攻撃に上乗せすることで、属性による効果を得た攻撃。
"属性"
生来、人間が内に秘めているものである。
日常生活でも属性による影響を感じることができる。
"熱血"、"クール"、"破天荒"などなど…。こういった性格を形成しているのは属性による影響が主な要因だ。
"馬が合う"、"食えない"、というのもそれぞれが内に秘める属性の相性によるもの。
「どうよ…?
魔佑大くんご自慢の閃拳にプラスのアルファの『風』属性は…!!!」
鼻高々に言いつつも、構えを取る。
先程の閃拳『風』で巻き上げられた砂埃で相手の様子が見えない。
先程までバリアを張っていたもう一人もどこかへ消えている。
「正直、察知使いてぇけどな…
へっ…魔力消費デケェのバレたか…
へいへいそーですよぉ…常時発動しねぇのはそーゆーこった…」
自身の五感を察知に頼らず研ぎ澄ませる。だが、やはり効果は薄い。
索敵に集中していると、急に正面を切って飛び出してきた。
先程攻撃を仕掛けてきた、吸牙だ。
魔佑大は事前に構えていた拳をめいっぱいに放った。拳はぐんと加速する。
拳が相手に直撃する瞬間、再びあのバリアが現れた。
魔佑大は再びバリアに触れてしまった。
「見事に騙されてくれたね…!」
得意げに言う相手。
よくよく見てみると、先程の吸牙とはわずかに特徴が違って見えた。
吸牙と違い、わずかに穏やかな表情で、髪型も左右が逆向きだ。
気づいたときにはもう遅かった。
背後には本物の吸牙。既に拳を放っている。
「さっきは一発、どうもありがとうよ!」
吸牙の拳は加速、さらに加速し、ゴウゴウと風を纏っている。
それはまるで、魔佑大の閃拳『風』のようだ。
流石に脱出が間に合わず、背後からモロに攻撃をくらう。
そのまま前方の岩に叩きつけられた。
「どうだ?初めてくらう自分の技は?」
頭を強く打ったのか、意識がはっきりせず、上手く立ち上がれない。
叩きつけられた前半身、殴られた背中がズキズキと痛み、殴られた部分がヒリヒリする。
「もう少し早く双子って気づけてればねぇ…」
意識が朦朧としつつも、並び立つ二人をよく見てみるとたしかによく似ていた。
「チッ…。所詮EクラスはEクラスだ。
雑魚が歯向かえると思うな。まぁ、どんなやつだろうと姉さんに楯突くやつは許さないけどな。」
全身が痛み、力が入らない。
それでも、気合いという応急処置で立ち上がる。
「チッ…。立ち上がってくんなよキメェな。
雑魚は雑魚らしくくたばってろ。」
「大人しく寝ておいたほうが身のためですよ。既にフラフラだし。」
構えを取りつつも、だんだん意識が薄れていく。
目の前が暗くなる刹那。二人組の背後から赤く光る、星のような輝きを見た。
そのまま魔佑大はゆっくりと瞼を閉じた。
けたたましく炎を上げながら音の方向へと向かっていく結。
暫く行くと座り込む一人、それを囲むように立っている二人が。
「多勢に無勢で…!」
炎の出力を上げる結。
ぐんぐん加速し、二人組に突っ込んでいく。
空中で身を翻し、相手に向かって逆噴射した。
だが、攻撃した相手はドーム状のバリアを張って攻撃を防いだ。
「奇襲にしては…やけに音が大きいですね…!」
もう一人が拳を構えて突っ込んでくる。
その拳は、オーラが溢れ、溜めるほど風を纏っていく。
結は炎で牽制しつつ、射程圏外に出る。そして魔佑大に近づき、肩に手をおいた。
すると、魔佑大の傷が少しづつ消えていった。やがて魔佑大は目を覚ました。
「ん…?ユウ…?」
「良かった…目が覚めた…。」
「お前…なんでこんなところに――」
「そんな悠長に話せる余裕はないんだ。
お目覚めのところすぐで申し訳ないけど、働いてもらうよ…!」
魔佑大は未だ敵二人がピンピンしているのを見て、すぐに構えを取った。
結は魔佑大と背中合わせに構えを取る。
「チッ…。
お前…無関係の人間じゃねぇか…
なぜわざわざこんなヤツを助ける?」
「無関係なら助けないよ。
彼らは僕の恩人。だから助けるんだ…!」
吸牙は呆れたようなため息をし、構えを取った。もう一人も構えを取る。
「一つ聞きたい。お前、俺と同じタイプの能力だな?」
「君は、"吸牙"だよね?」
「質問を質問で返すな。
疑問文には疑問文で答えろと習ったのか?」
一瞬の沈黙が訪れる。
魔佑大だけはなぜか笑いをこらえているように見えたが、すぐにもちなおした。
「…君と同じタイプだと…。
そういう話を聞いたんだ。」
「チッ…。やっぱりな…。
お前が名前を聞いてきたのもそういうことか。」
再び沈黙が訪れる。
吸牙は少し考えてから口を開く。
「自己紹介をしよう。
俺の名前は皇樹 吸牙。年齢16歳。
自宅はもちろん皇樹邸。
俺の仕事は姉さんを守ることで、姉さんに歯向かうやつは誰一人として許さない。」
再び吹き出しそうになる魔佑大を不思議そうに横目で見る結。
吸牙は自己紹介を続ける。
「初持技、"スポンジ"で受けたダメージを半減し、技をコピーする。」
「き、君はいったい何を言ってるんだ?」
自分の能力までさらけ出す吸牙に、動揺する結。一方で笑いをこらえ続ける魔佑大…。
「分からないか?
普通、ここまでさらけ出すやつなんかいない。こんなペラペラとさらけ出しちゃあ不利な要素が多くなるからな。
もっとも、それでも俺は負けんがな。」
構えをさらに固める結に対して、魔佑大は深呼吸をしたり、自分の顔をひっぱたいたりと、色々せわしない…。
「そしてだ。ここまで知られてしまったということは、お前らを始末しなくてはいけないってことだ。」
こらえていた魔佑大がついに吹き出した。
腹を抱えその場でへたり込む。
緊迫した空気の中、一人だけ腹を抱えて笑っている。
いつしか、緊迫した空気が少し緩み、他の全員が魔佑大に冷たい視線を注いでいた。
しばらくして、魔佑大がひぃひぃ言いながらゆっくりと聞いた。
「お、お前…プッ…。
わ、わざとやってんの?それ…」
吸牙は、なんのことかさっぱりだと言わんばかりの反応をした。ほか二人もいまいちよく分かっていないようだ。
またしばらく笑い転げたのち、魔佑大は呼吸を整えて言った。
「すまんすまん。いやぁ、知ってるやつと同じような台詞を吐くもんでな。
まぁでも、その台詞を吐いたやつは最後に負けたからなぁ…お前もそーなるってことで良いか?」
そして不敵に、ニヤッと笑い、構えを取った。
そして再び緊迫した空気が流れる。
魔佑大は結に目配せをし、結は納得したように頷いた。
そして二人は吸牙の方に向かっていく。
「さぁ…!来い…!」
吸牙はノーガードでいる。攻撃を受けるつもりのようだ。
魔佑大は吸牙に向けて閃拳を放った。
拳は加速、加速、加速していく。
吸牙が避ける様子は一向にない。
拳が直撃する…
その手前で、魔佑大は閃拳を止めた。
驚く吸牙をよそに、魔佑大と結は背を向けて歩き出した。
「お、おい…!
なんで攻撃をやめた…?!
来いよ!ノーガードだぞ…!」
取り乱した様子の吸牙に、魔佑大は淡々と告げる。
「スポンジを絞りきったんだろ。」
吸牙はなにか核心を突かれたような表情をし、悔しそうに唇を噛んだ。
魔佑大は続ける。
「初っ端、攻撃を仕掛けられた時は察知で感覚が過敏になってたり、危ない状況だったりだったから気づかなかったが…。
お前、オーラがないな。」
「僕はさっき知ったばっかりなんだけど、
中二病は能力を使うとき…なんなら、戦闘態勢じゃなくてもうっすらオーラが出てるよね。」
吸牙は拳を握りしめ、うつむく。
吸牙の兄弟はどこか悲しそうな表情を浮かべ、黙り込んでいる。
「お前からオーラが感じられたのは俺の閃拳『風』を使ってる時だけだ。
そして今、お前からオーラは出ていない。
"ダメージを半減"、"コピーする"とかチートじみた事を言ってたが、それがてめえの弱点だ。
"攻撃されないと何もできない"。それが違うってんなら、そっちから攻撃してみろよ。」
吸牙は一向に黙り込んでいる。
距離が離れていても歯ぎしりが聞こえる。
そのまま魔佑大と結はその場を離れた。
「急ぐぞ、ユウ。」
「うん。さっきから向こうの方で嫌なほどにデカいオーラを感じるからね。」
毎日投稿目指してます!
ひと区切りついたら一旦お休みして、
完結まで書ききったら、もしくはまたひと区切りつくまで書いたら、再び投稿していくつもりです