ep.???(7) クラス替え試験②
「ハハッ!ざまぁみやがれ!
遥様に背いた裁き…!この俺…通称ジェットニキが下してやったぜ!」
高らかに笑うジェットニキだったが、すぐになにかの違和感を感じ取った。
たった今、自分が火だるまにしたはずの相手が見当たらない。
一瞬、自分の火力で骨ごと焼き払ってしまったのかとも考える。しかし、自身の力量は自分が一番よく分かっていた。
そして彼は困惑する。
"ヤツはいったい何処へ?"
「あ、危ない…死んだかと思った…」
その声は、彼の後方から聞こえた。
振り返るとそこには、先程焼き払ったはずのヤツがいた。
先程まで探していた相手。"いったい何処へ?"、その疑問が解けた今、彼の頭の中ではさらなる混乱が。
"自慢のスピード、自慢の火力、それを以てしてもコイツは目の前でピンピンしている"
"そんなことはありえない!"
そんな彼をよそに、結は何かが腑に落ちたような様子で呟いた。
「これが…僕の能力…?」
「お、お前…ッ!
どうやって避けた?!いや、防いだのか…?
いったい何をした?!」
「そ、そんなこと言われても…
僕に分かるわけないですよ…!」
そう答える目の前の相手。混乱する彼には、それが自身を馬鹿にしているようにも感じられた。
しかし、ソイツ自身でさえ、本気で困惑していることは彼にも痛いほど分かっていた。
「ていうか、君って皇樹…さんの味方の人だよね…?
僕はこの勝負には無関係ですよ!」
「そうか…お前は…」
相も変わらず頭の混乱が収まらないままであったが、"自分は敵ではない"という必死の抗議に、一瞬、攻撃をやめようとした。
しかし、彼は再び戦闘態勢に入る。
「いや、そうだとしても、
お前を倒せば俺の得点になることに変わりはない。
なにしろ、俺の攻撃を避けるヤツがいて、ソイツを放っておいたまんまってのは気持ちわりぃからな…!」
「で、でも本当に無関係で――」
抗議を続ける結。
遮るようにジェットニキは言葉を続ける。
「いいや、お前にも戦う理由はあるはずだ…!
さっきからお前…"無関係、無関係"って言うが…どんだけ薄情者なんだ。
俺は知ってる。あのクソ野郎、そしてお前が初めて登校してきた日…お前は巻き添えを食って攻撃されそうになった。そこをお前は助けてもらったはずだ。」
その言葉に結ははっとした。
彼の言うとおりであった。
あのとき魔佑大が守ってくれていなかったら、新学期早々病院送りだったかもしれない。
彼はさらに続ける。
「それに、お前たちが一緒に特訓しているところもたまに見かけた。それ以外もよく一緒に行動していたな。
普段あれだけ仲良くしてもらってるくせに、お前はいざという時に他人事なのか?」
核心を突かれ、心がえぐられたような感じがした。そして、怒りと似た感情がふつふつと湧き上がる。
彼はさらに言葉を続けようとしたが、突如、結からオーラが溢れ出すのを見て、再び戦闘態勢に入った。
「ありがとう…。
おかげで本当の薄情者にならなくて済むよ…!」
さらに爆発的なオーラが溢れ出す。
"そうこなくては"と言わんばかりにジェットのジェットニキは頬をほころばせる。
そして自慢のジェット飛行で急接近してきた。
結は何の迷いもなく、とある構えをとっていた。
拳を握り、力を溜めている。
一方でジェットニキは、自身のスピードを膝蹴りに乗せて繰り出してきた。
その加速は先程の奇襲よりも速く感じられた。
結も負けじと溜めていた拳を放つ。その拳は加速し、さらに加速していく。
互いの攻撃が激しくぶつかり合う。パワーは互角。両者、後方に飛び退く。
そして一瞬遅れて、破裂音が聞こえてきた。
一瞬、沈黙が流れる。
先に沈黙を破ったのはジェットニキだった。
先程蹴りをした方の膝を抱え、うずくまる。
必死に悲鳴をこらえているようだったが、その声は抑えようのないほどに漏れ出していた。
その膝は拳の形に赤く腫れ上がっていた。
「さっき"クソ野郎"って言ってた彼のものだよ。この技は…。」
痛みに耐えながらジェットニキは立ち上がる。
そして、両手から火の弾をいくつも放つ。
結は深呼吸をし、ひとつひとつの弾道を見極め、着実に避けていく。
少し距離を取り、今度は別の構えをとる。その構えは、まさに今相手をしている彼の構えとよく似ていた。
「できるかどうか分からないけど…」
脳内にイメージを巡らせ、手足に力を込める。
その間も火の弾は放たれ続ける。何発か結に直撃するが、一向に構えを解く様子はない。
むしろ、結の集中力は上がり、どんどんとオーラが高まる。
次の瞬間、結の手から小さく炎が上がる。その炎は徐々に大きくなり、やがて身体を少し持ち上げた。
足からも炎が噴き出し、履いていたスニーカーはあっという間に灰になった。
そのまま、結は相手に突っ込んでいく。拳は固く握られ、力を溜め込んでいく。
この光景にジェットニキは驚かざるをえなかった。相手が自身のものとよく似た技を使い襲いかかってくる…。
「まさか…お前は…!
吸牙と同じタイプ――」
放たれる火の弾を避けながら、相手の間合いに飛び込み、拳を一気に放った。
ジェットニキは咄嗟にガードを固める。拳が直撃する…が、あの遅れてやってくる破裂音はしなかった。
驚く両者、しかし結と違い、ジェットニキはすぐに不敵な笑みを浮かべた。
「お前のその"模倣"…インターバルがあるな…
それか…一度しか使えないのかもな…!」
ジェットを噴射しながら結を蹴り離す。
もろに攻撃を受ける結。咄嗟に前方にジェット噴射をしたため、幸いにもダメージはそれほど大きくなかった。
しかし、彼の言うこと…それも後者が本当ならば、長引かせるのはマズいだろう。
「おいおぉい…さっきの破裂するパンチ…もういっぺん打ってみろよぉ…!
俺の膝はとっくに治っちまったぜぇ!」
彼の膝はまだ赤く腫れていたが、言う通り、動ける程度には治ったようだ。
再び手足から炎を噴き出して勢いよく浮かび上がった。
一方で結の手足の炎は徐々に小さくなっていっていく。
「さぁ!お前の炎が消える前にぶつかり合おう…!
正真正銘、ラストフライトだ!」
突っ込んでくる相手を前に、結はなにかを躊躇い、一瞬遅れて突っ込んだ。
拳を構え、力を込めはじめる。
「いいやダメだなァ!
一発目ブチ込んできた時とオーラが違う!
二発目と一緒だぁ…!
オーラが無ぇ!」
勝ちを確信したように嘲笑う彼だったが、一瞬で驚きの表情に変わり、今度は再び頬をほころばせた。
オーラがなかった拳から、今までとは別のオーラが溢れ出す。その拳は徐々に風を纏い、ゴウゴウと音をたて始めた。
それに応えるように、彼も拳を握り、自身の炎を拳に纏わせる。
両者の拳がぶつかり合った。
またしても互角。風は激しく吹き荒れ、炎は激しく燃え上がる。
互いに押し合うも、結の攻撃は徐々に勢いが弱まっていた。
そのまま押し進めるジェットニキ。勝ちを確信した。
だが、次の瞬間、風が炎を巻き込んでいった。
巻き込まれた炎は徐々に結の拳へ。そして、炎の渦を纏い、やがて相手を吹き飛ばした。
ジェットニキは地面に倒れ、静寂が訪れた。
彼は仰向けのまま、卒業生を見送る師のように、ゆっくりと口を開いた。
「おめでとう…お前の勝ちだ…」
一言告げると、そのまま目を閉じてしまった。
「か、勝った…」
"自分でも勝てた"。そのことに驚く結だったが、勝利に安堵した瞬間、そのままへたり込んでしまった。
勝ったのだ。Aクラスの生徒相手に。
ついこの間まで中二病とは無関係だった者が。
当然の疲弊である。
しかし、この場で休憩するのは危険だ。
いくら先程の奇襲がイレギュラーだったと言えど、また次襲われることがないとも言い切れない。
なにより、自称とはいえ"学園最強"が参戦しているのだ。Aクラスの生徒であるというだけであの火力だ。彼女が本気を出すともなれば、このフィールド内にいるだけで、巻き込まれないとも限らない。
「早く…離れなきゃ…」
その時、遠くから怪物の咆哮のような音が。
魔佑大…それか神大が戦っている…。
"助けに行かなくては"とも思ったが、今の状態では足手まといになるだけだろう。
再び出口へ向かって足を動かしだす結。
その時、後ろからこちらへ近づく足音が聞こえてきた。
再び敵襲だろうか。
しかし、もう結に対抗できるほどの体力は残されていない。
足音はどんどん近づいてくる。
ついには追いつかれ、肩を掴まれてしまった。
覚悟を決める結。
肩を掴んできた相手は口を開いた。
「おつかれさん。よく頑張ったな。」
その声から敵意は感じられなかった。そして、聞き覚えのある声だった。
次の瞬間、身体が軽くなったように感じられた。全身の痛みも引いていく。
振り返ってみると、そこにいたのはEクラスの担任であった。先程の戦いで目が覚めていたようだ。
「本当はな、あんまこういうこと試験中にしちゃあいけないんだけどな…。
秘密だぞ?」
その時、遠くから破裂音が聞こえてきた。
先程の音と同じ方向だ。
「助けに行きたかったんだろ?
ほら、行ってこい!
そんで、三人揃って帰ってくるんだぞ。」
担任は不安そうな様子を見せつつ、それをかき消すように微笑んだ。
結は礼を告げると、音の方向へと向かっていった。
毎日投稿目指してます!
ひと区切りついたら一旦お休みして、
完結まで書ききったら、もしくはまたひと区切りつくまで書いたら、再び投稿していくつもりです