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愉悦が変える。  作者: しょいくん
7/8

ep.???(7) クラス替え試験②

「ハハッ!ざまぁみやがれ!

遥様に背いた裁き…!この俺…通称ジェットニキが下してやったぜ!」


高らかに笑うジェットニキだったが、すぐになにかの違和感を感じ取った。

たった今、自分が火だるまにしたはずの相手が見当たらない。

一瞬、自分の火力で骨ごと焼き払ってしまったのかとも考える。しかし、自身の力量は自分が一番よく分かっていた。

そして彼は困惑する。

"ヤツはいったい何処へ?"


「あ、危ない…死んだかと思った…」


その声は、彼の後方から聞こえた。

振り返るとそこには、先程焼き払ったはずの()()がいた。

先程まで探していた相手。"いったい何処へ?"、その疑問が解けた今、彼の頭の中ではさらなる混乱が。

"自慢のスピード、自慢の火力、それを以てしてもコイツは目の前でピンピンしている"

"そんなことはありえない!"

そんな彼をよそに、結は何かが腑に落ちたような様子で呟いた。


「これが…僕の能力…?」

「お、お前…ッ!

どうやって避けた?!いや、防いだのか…?

いったい何をした?!」

「そ、そんなこと言われても…

僕に分かるわけないですよ…!」


そう答える目の前の相手。混乱する彼には、それが自身を馬鹿にしているようにも感じられた。

しかし、ソイツ自身でさえ、本気で困惑していることは彼にも痛いほど分かっていた。


「ていうか、君って皇樹…さんの味方の人だよね…?

僕はこの勝負には無関係ですよ!」

「そうか…お前は…」


相も変わらず頭の混乱が収まらないままであったが、"自分は敵ではない"という必死の抗議に、一瞬、攻撃をやめようとした。

しかし、彼は再び戦闘態勢に入る。


「いや、そうだとしても、

お前を倒せば俺の得点になることに変わりはない。

なにしろ、俺の攻撃を避けるヤツがいて、ソイツを放っておいたまんまってのは気持ちわりぃからな…!」

「で、でも本当に無関係で――」


抗議を続ける結。

遮るようにジェットニキは言葉を続ける。


「いいや、お前にも戦う理由はあるはずだ…!

さっきからお前…"無関係、無関係"って言うが…どんだけ薄情者なんだ。

俺は知ってる。あのクソ野郎、そしてお前が初めて登校してきた日…お前は巻き添えを食って攻撃されそうになった。そこをお前は助けてもらったはずだ。」


その言葉に結ははっとした。

彼の言うとおりであった。

あのとき魔佑大が守ってくれていなかったら、新学期早々病院送りだったかもしれない。

彼はさらに続ける。


「それに、お前たちが一緒に特訓しているところもたまに見かけた。それ以外もよく一緒に行動していたな。

普段あれだけ仲良くしてもらってるくせに、お前はいざという時に他人事なのか?」


核心を突かれ、心がえぐられたような感じがした。そして、怒りと似た感情がふつふつと湧き上がる。

彼はさらに言葉を続けようとしたが、突如、結からオーラが溢れ出すのを見て、再び戦闘態勢に入った。


「ありがとう…。

おかげで本当の薄情者にならなくて済むよ…!」


さらに爆発的なオーラが溢れ出す。

"そうこなくては"と言わんばかりにジェットのジェットニキは頬をほころばせる。

そして自慢のジェット飛行で急接近してきた。

結は何の迷いもなく、()()()()()をとっていた。

拳を握り、力を溜めている。

一方でジェットニキは、自身のスピードを膝蹴りに乗せて繰り出してきた。

その加速は先程の奇襲よりも速く感じられた。

結も負けじと溜めていた拳を放つ。その拳は加速し、さらに加速していく。

互いの攻撃が激しくぶつかり合う。パワーは互角。両者、後方に飛び退く。

そして一瞬遅れて、破裂音が聞こえてきた。

一瞬、沈黙が流れる。

先に沈黙を破ったのはジェットニキだった。

先程蹴りをした方の膝を抱え、うずくまる。

必死に悲鳴をこらえているようだったが、その声は抑えようのないほどに漏れ出していた。

その膝は拳の形に赤く腫れ上がっていた。


「さっき"クソ野郎"って言ってた彼のものだよ。この技は…。」


痛みに耐えながらジェットニキは立ち上がる。

そして、両手から火の弾をいくつも放つ。

結は深呼吸をし、ひとつひとつの弾道を見極め、着実に避けていく。

少し距離を取り、今度は別の構えをとる。その構えは、まさに今相手をしている彼の構えとよく似ていた。


「できるかどうか分からないけど…」


脳内にイメージを巡らせ、手足に力を込める。

その間も火の弾は放たれ続ける。何発か結に直撃するが、一向に構えを解く様子はない。

むしろ、結の集中力は上がり、どんどんとオーラが高まる。

次の瞬間、結の手から小さく炎が上がる。その炎は徐々に大きくなり、やがて身体を少し持ち上げた。

足からも炎が噴き出し、履いていたスニーカーはあっという間に灰になった。

そのまま、結は相手に突っ込んでいく。拳は固く握られ、力を溜め込んでいく。

この光景にジェットニキは驚かざるをえなかった。相手が自身のものとよく似た技を使い襲いかかってくる…。


「まさか…お前は…!

吸牙と同じタイプ――」


放たれる火の弾を避けながら、相手の間合いに飛び込み、拳を一気に放った。

ジェットニキは咄嗟にガードを固める。拳が直撃する…が、あの遅れてやってくる破裂音はしなかった。

驚く両者、しかし結と違い、ジェットニキはすぐに不敵な笑みを浮かべた。


「お前のその"模倣"…インターバルがあるな…

それか…一度しか使えないのかもな…!」


ジェットを噴射しながら結を蹴り離す。

もろに攻撃を受ける結。咄嗟に前方にジェット噴射をしたため、幸いにもダメージはそれほど大きくなかった。

しかし、彼の言うこと…それも後者が本当ならば、長引かせるのはマズいだろう。


「おいおぉい…さっきの破裂するパンチ…もういっぺん打ってみろよぉ…!

俺の膝はとっくに治っちまったぜぇ!」


彼の膝はまだ赤く腫れていたが、言う通り、動ける程度には治ったようだ。

再び手足から炎を噴き出して勢いよく浮かび上がった。

一方で結の手足の炎は徐々に小さくなっていっていく。


「さぁ!お前の炎が消える前にぶつかり合おう…!

正真正銘、ラストフライトだ!」


突っ込んでくる相手を前に、結は()()()を躊躇い、一瞬遅れて突っ込んだ。

拳を構え、力を込めはじめる。


「いいやダメだなァ!

一発目ブチ込んできた時とオーラが違う!

二発目と一緒だぁ…!

オーラが無ぇ!」


勝ちを確信したように嘲笑う彼だったが、一瞬で驚きの表情に変わり、今度は再び頬をほころばせた。

オーラがなかった拳から、今までとは別のオーラが溢れ出す。その拳は徐々に風を纏い、ゴウゴウと音をたて始めた。

それに応えるように、彼も拳を握り、自身の炎を拳に纏わせる。

両者の拳がぶつかり合った。

またしても互角。風は激しく吹き荒れ、炎は激しく燃え上がる。

互いに押し合うも、結の攻撃は徐々に勢いが弱まっていた。

そのまま押し進めるジェットニキ。勝ちを確信した。

だが、次の瞬間、風が炎を巻き込んでいった。

巻き込まれた炎は徐々に結の拳へ。そして、炎の渦を纏い、やがて相手を吹き飛ばした。

ジェットニキは地面に倒れ、静寂が訪れた。

彼は仰向けのまま、卒業生を見送る師のように、ゆっくりと口を開いた。


「おめでとう…お前の勝ちだ…」


一言告げると、そのまま目を閉じてしまった。


「か、勝った…」


"自分でも勝てた"。そのことに驚く結だったが、勝利に安堵した瞬間、そのままへたり込んでしまった。

勝ったのだ。Aクラスの生徒相手に。

ついこの間まで中二病(のうりょくしゃ)とは無関係だった者が。

当然の疲弊である。

しかし、この場で休憩するのは危険だ。

いくら先程の奇襲がイレギュラーだったと言えど、また次襲われることがないとも言い切れない。

なにより、自称とはいえ"学園最強"が参戦しているのだ。Aクラスの生徒であるというだけであの火力だ。彼女が本気を出すともなれば、このフィールド内にいるだけで、巻き込まれないとも限らない。


「早く…離れなきゃ…」


その時、遠くから怪物の咆哮のような音が。

魔佑大…それか神大が戦っている…。

"助けに行かなくては"とも思ったが、今の状態では足手まといになるだけだろう。

再び出口へ向かって足を動かしだす結。

その時、後ろからこちらへ近づく足音が聞こえてきた。

再び敵襲だろうか。

しかし、もう結に対抗できるほどの体力は残されていない。

足音はどんどん近づいてくる。

ついには追いつかれ、肩を掴まれてしまった。

覚悟を決める結。

肩を掴んできた相手は口を開いた。


「おつかれさん。よく頑張ったな。」


その声から敵意は感じられなかった。そして、聞き覚えのある声だった。

次の瞬間、身体が軽くなったように感じられた。全身の痛みも引いていく。

振り返ってみると、そこにいたのはEクラスの担任であった。先程の戦いで目が覚めていたようだ。


「本当はな、あんまこういうこと試験中にしちゃあいけないんだけどな…。

秘密だぞ?」


その時、遠くから破裂音が聞こえてきた。

先程の音と同じ方向だ。


「助けに行きたかったんだろ?

ほら、行ってこい!

そんで、三人揃って帰ってくるんだぞ。」


担任は不安そうな様子を見せつつ、それをかき消すように微笑んだ。

結は礼を告げると、音の方向へと向かっていった。

毎日投稿目指してます!

ひと区切りついたら一旦お休みして、

完結まで書ききったら、もしくはまたひと区切りつくまで書いたら、再び投稿していくつもりです

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