ep.???(6) クラス替え試験①
「さぁてとぉう!
萬親子の参戦でっせぇ!
満腹満腹絶好調!
気分もハピネス超良好!
さぁさぁ始まりますよぉ~ん♪
"伝説"の幕開けがァ!」
魔佑大と神大が校庭の真ん中に到着した。
まぁ、校庭と言うには少し広すぎるようにも感じるけど…
まるでグランドキャニオンみたいな…岩やら崖やら…これも魔法とかで作ったのかな?
…なんて考えていたら、皇樹たちも到着したみたいだ。
まるで、ずっと楽しみにしてたことが控えてるんだって顔をしてるな…。
「さてと。
とっととブッ殺してやりたいところだけど、
いくら大罪人といえど、君たちは二人なわけだ…
さすがのボクも良心が痛む。
そこでどうだい?
本来二対五のところを、
二対二で勘弁してあげ――」
「マヌケかテメェ?
二対六だ。」
皇樹が意気揚々と話しているところを、遮るように魔佑大が言った。
「はぁ?
せっかくリンチはやめてやるってんのに、そのありがたいお慈悲を無下にするわけかい?」
「俺達への慈悲なんだろう?
つまりは、俺達のことを思いやっての行動ということだ。その俺達が二対六でいいと言っている。」
神大は怖がる様子もなく淡々と言葉を続ける。
それどころか、今日は神大のほうが怖く見えるかも…
この前までイジメられていたとは思えない。
「…分かった。
いいよ。それでいいって言うんなら。
にしても…
わざわざ自分から苦しもうとするなんて…
もしかして…君、Mなのかな?」
「ほわぁ?!そ、そそそそそそそそんな!そんなわけぇ?ね、ねーしぃ?
おおおおお俺がぁ?ドMとかぁ?んなわけねぇしぃ?」
「ドまでは言ってないんだけどな…
キミに言ったわけじゃあないし…
しかも、図星って…
てか、この件前もやったような…
まぁいいや。遅かれ早かれ死ぬことに変わりはない。」
そう言いながら、皇樹は指を鳴らした。すると、いつのにか皇樹を囲むように五人の生徒が現れた。
そして、彼女は不敵な笑みを浮かべる。すると、急に周りの空気が重くなったように感じた。
オノマトペでもつけるなら"ゴゴゴゴ"というのが最適だろう。
けど、魔佑大たちは全く臆していなかったし、むしろ生き生きしているようにも感じた。魔佑大は楽しそうにニヤニヤと笑い、神大はいつものクールな表情でありながら勝ちを確信したような余裕さがあった。
間に漂う空気はヒリヒリと肌を刺すような緊迫感で溢れていた。クラウチングスタートで前のめりになっている時みたいに、いつ戦いが始まってもおかしくはなかった。
が――
「こら!」
張り詰めた空気を聞き慣れた声が断ち切った。
Eクラス担任の先生だ。
「お前ら!いくらなんでもいきなりAクラスの生徒に挑むなんて…命知らずか!
特に神大!
…
お前…本当はいじめられてるって聞いたぞ…?
なんで先生に相談しなかったんだ?
いじめられてる相手に自分で立ち向かえるのはいいことだとは思うが、こんなことでは根本的な解決には至らないと思うぞ?
ここは先生を頼って――」
先生は、必死に止めようと、一生懸命に言葉を続けた。
それはそうだ。未だ能力者云々をよくわかっていない僕でもわかる。
いきなり最底辺が頂点に挑むなんてあまりにも無謀すぎる。
しかもこれはスポーツや勉強なんかじゃあない。ヘタしたら命を落としかねない。
けど、神大は揺るがない目で言った。
「お言葉ですが、結構です。
この戦いは俺の個人的な復讐などではありません。俺のことはどうだっていいんです。
しかし、ミス遥――
皇樹さんは俺の大切な人を傷つけました。
そして、この戦いはその人の新たな一歩になります。
だから、黙って見ていてはくれませんか。」
神大はハッキリと答えた。
それでも先生は引き下がる様子がない。
「先生ぇ?申し訳ないですけど…ボクの邪魔しないでもらえます?」
「皇樹、お前は黙っていてくれないか。
いくら雇い主のお嬢様と言えど、今回ばかりは黙っていられない。人の…俺の生徒の命がかかってるんだ。」
取り巻きたちが一斉に先生を睨む。今にも襲いかかりそうな勢いだ…。
あの皇樹相手にも食い下がるなんて…。
「先生…申し訳ねぇが眠っててくれ。」
魔佑大がいつの間にか先生の背後に回っていた。そのまま、先生の顔に手をかざすと、先生は眠ってしまった。
それを見ていた皇樹は一瞬驚いたようだったけど、すぐにいつもの調子に戻って言った。
「さぁ、長くなってしまったね。この機械に手をかざしてくれ。
ランダムな位置に転送されるから、相手を見つけ次第開始ってことで。」
この広い校庭内に、ランダムに生徒が配置され、いよいよクラス替え試験が始まってしまった。
初めに動きがあったのは魔佑大であった。
「広すぎて相手が見つからねぇ~…!
さぁて魔佑大君?
どうしましょうかねぇ…
困ってしまってわんわんわわーんですよぉ…コイツぁ…
一応、作戦的には、俺が雑魚…皇樹以外をぶっ潰して、
その間に神大が皇樹を叩くって作戦よなぁ…
でも、こんな広いのに、そんなうまくいくもんかなぁ…」
相も変わらず大きな独り言。
あまりの静けさに思わすあくび。
そこに忍び寄る大きな影…。
「キャノンドラゴンだッ!」
背後からの急襲。
魔佑大の背後にはいつからいたのか、メカチックな装甲に覆われた竜が。
竜は大きく口を開け、喉奥の大砲から熱線を放つ。
超至近距離で放たれた熱線は確実に魔佑大を捉え、焼き払う…はずだった。
―察知―
魔佑大の身体は熱線が当たる寸でのところで身をかわした。
熱線は、着地した横を通り過ぎていく。そのまま背後の岩にぶつかると、激しい爆発音とともに、アイスクリームのように溶かしてしまった。
「はいはい。気配消して背後から高火力攻撃で、一撃で仕留める作戦ですね。
ありきたり。だが効果的。なんだけども…
オレの"察知"の前では無力ね。」
"察知"。
魔佑大のオリジナル。スキル発動中、被攻撃時にフルオートで回避が可能。
「ほう…
今の攻撃を避けるか…」
「まぁね。
でもそれ以前に溜めが長ぇし、
せっかくうまいこと気配消せてたのにな。価値を確信したのかアンタが叫んだせいで邪魔してんのよ。
誰でも避けれるだろ。」
「そう言っていられるのも今のうちだ。
なにせ、俺はAクラス一の召喚士。そして、こいつは一番の相棒のキャノンドラゴンなんだからな…。
いつまで耐えていられるかな?」
「へー。
自己紹介、それで終わり?」
自信満々に、鼻高々と語る相手に、少し食い気味で魔佑大は聞いた。
そして、答えを聞く前から拳を構え、力を溜めはじめる。
「あぁ。終わりだ。
今度はお前の番だ。死ぬ前に自己紹介をさせてやろ――」
―閃拳―
魔佑大はキャノンドラゴンに一気に詰め寄り、腹部を狙って力いっぱいに拳を放つ。
拳が触れる。一瞬遅れてなにかが破裂するような音が鳴り響き、地を揺らさんばかりの悲鳴があがる。
「きゃ、キャノンドラゴン!」
動揺する召喚士をよそに、魔佑大は次の攻撃の構えをとる。
"閃拳"。
スピードに重点を置いたスキル。好調時、その速度は音速をも上回る。
「さぁ…
オラオラしちゃいますかァ!」
「マズイ…ッ!キャノンドラゴン、焼き払――!」
痛みを堪えながら竜がブレスを溜め始めるも、魔佑大の攻撃を防ぐには一足遅かった。
ジャブ、ストレート、フック、アッパー…。凄まじい速度の連続攻撃が竜を襲う。
決定的な破壊力はないものの、ムチで打たれるような痛みに、よがり苦しむ。
魔佑大は腰を落とし、身体の重心を安定させる。
両拳に力を溜め、一気に解放する。
とめどない連打の嵐。速さのあまり分身して見える拳は、まるで少年漫画のようだ。
「オラオラオラオラァ!
オォウラァ!」
力いっぱいに最後の一撃を入れると、キャノンドラゴンはその場で動かなくなってしまった。
その腹は、何か所も、拳の形に赤く腫れ上がっている。
驚きと絶望からか、竜に呼びかける召喚士の声は震えていた。
そこへ魔佑大はすかさず攻撃を仕掛ける。
―睡蓮の夢―
マントを翻すように魔佑大が腕を振るうと、あたりに華やか、それでいてどこか落ち着く香りが漂う。
気づかず吸い込む召喚士。徐々に目をとろつかせ、その場で眠ってしまった。その顔は、どこか幸せそうだ。
"睡蓮の夢"。
魔佑大のオリジナル。あたりに催眠効果のある香りをばら撒く魔法。
隙が多く、対策も容易ではあるが、絶大な催眠効果がある。
「おやすみぃ…。
さぁてと…
まずは一人目。
にしても、Aクラス相手にここまでやれるとは…
自分でも驚き桃の木山椒の木ってもんだぜ…」
『父上。聞こえるか。』
魔佑大が一息ついているところに、神大の声が聞こえてきた。直接、脳内に。
一瞬戸惑ったものの、魔佑大は瞬時に理解した。これが、事前に聞いていた"天ノ声"なのだと。
"天ノ声"。
神大の初持技、"天ノ御業"の内の一つ。言わばテレパシーだ。
『進捗報告だ。
まず、ミス遥を見つけた。
次に、道中で一人片付けた。
そして、もう一人見つけたんだが…』
若干、言葉に詰まる神大。
まるでなにか心配事でもあるような詰まり方だ。
『いや、なんでもない。
とにかく、父上の負担が二人分減ったと思っておいてくれ。
父上は残り二人の相手を頼む。
ちょうど今そちらに近づいて行っているようだ。
健闘を祈る。』
含みのある言い方が魔佑大の中で引っかかる。
だが、それ以上に神大の働きぶりに驚きを隠さずにいられなかった。
この広大なフィールド内での的確な索敵、道中での敵に対するスピーディーな対処、その後の連絡の早さ…。
"能ある鷹は爪を隠す"とは、まさにこのことなのだと、身にしみて感じさせられる。
「"ほか二人が近づいてきてる"って言ってたっけか…?」
魔佑大は静かに目を閉じ、察知を発動した。
これにはれっきとした意味があった。先程のように、奇襲にそなえるのはもちろんだが、魔佑大の狙いはそれだけではない。
「フッフッフ…
これに気づいたオレを誰か褒めてほしいぜ…!察知の効果は、厳密にはフルオート回避じゃあない。
フルオート回避ってのはオレの肉体の生存本能からくるもんだ…。発動中に五感が研ぎ澄まされることで、いち早く攻撃を感知する…。それを避けたいがためのフルオート回避…!
つまりよぉ…普通に発動すれば…!敵の接近だとか、位置関係、攻撃が飛んでこないかとかを把握することができちまうんだよなぁ…!!!」
魔佑大は空気の動きや、地面から伝わってくる振動、遠くから聞こえてくる音…身体で感じられる情報全てからおおよその敵の位置を割り出した。
「前方と後方…挟み撃ちか…。
前方のほうが若干速く接近してくる…前方のやつをおとりに後方から畳み掛ける戦法か…?」
その瞬間、前方から一人飛び出してきた。
読み通りである。
魔佑大は焦ることなく、閃拳の構えをとる。そして、放った。
拳は加速し、まっすぐに間合いへ飛び込んでくる相手の顔面めがけてヒットした。
だが、魔佑大はなにか違和感を感じ取っていた…
「くっ…速すぎでしょ…!」
違和感の正体はすぐに分かった。
相手と魔佑大の拳の間…そこには、うっすらと、だが確実に壁があった。
その壁は相手を球状に覆っている。
「今だ!吸牙!」
相手がドームの中から叫ぶと、魔佑大の後方からもう一人の敵が飛び出してきた。
魔佑大は、急ぎ、閃拳の構えを取ろうとする。が、先程放った拳が、ドームに張り付いて離れない。
後方の敵はどんどん迫ってくる。
しかし、このままでは閃拳が使えないうえ、逃げることもできず、ロクな防御もできない。
それでも敵は迫り、拳は引っ付いて離れない。
「姉さんに楯突いたこと…あの世で後悔しろ…!」
時間は少し遡り…。
「いよいよ始まっちゃったな…。
魔佑大、神大、お願いだから死なないで…
さてと…僕はぐっすり寝てる先生を安全なところに運ぶとでもしますか…!」
結が担任を運ぶべく、近寄ろうとした時だ。
どこかから、ジェット機のような音が鳴り響いていることに気づいた。その音はだんだんと近づいてきている。
音の方を見ると、手足から火炎を噴射しながらこちらに向かってくる生徒が。
目を疑う結だったが、瞬きをした次の瞬間には、もう目の前まで来ていた。
「ブッ飛べェ!」
その生徒は空中で身を翻し、先程まで飛行のために使用していた火炎を、結に向かって逆噴射した。
毎日投稿目指してます!
ひと区切りついたら一旦お休みして、
完結まで書ききったら、もしくはまたひと区切りつくまで書いたら、再び投稿していくつもりです