ep.???(5) 特訓しましょ、そうしましょ
「ぬぁぁぁぁぁぁん!
できないぃ!
なぁんでぇ!
"閃拳"やりたいぃぃ!」
「子供のように駄々をこねるな…」
「やぁ~だぁ!」
わめく魔佑大を前に、
神大は十字、円、無限のマークを順に空に描き、ピアノを端から端まで撫でるような動きをし、最後に手をクンッと上に突き出した。
―無限の剣―
"無限の剣"。
発動中、無限に剣が出てくる初級魔法。
剣は発動者の意のままに操ることができ、手数が多いことからも、初級魔法としてはかなり有能とされている。
魔力消費は発動している間、継続的に行われる。
魔佑大は飛んでくる剣を一つ一つ、確実に避けていく。
途中、背後から飛んでくる剣もあったが、背中に目でもついているかのように避けた。
「ハァ…
できているじゃあないか"察知"。
その調子で"閃拳"も諦めずに頑張れ。」
「やぁ~だぁ!
めんどいぃ!」
「ハァ…
あの時に教えなければよかったかもな…」
「てゆーか、思ったけどさ…」
魔佑大は神大に質問を投げかけながら、飲みかけていたコンビニの抹茶ラテを飲み干す。
「"遥をボコす"って言ったけどさ、
どうやってやんの?」
「どうって…
それはどういう?」
「いや手段とかじゃあなくってさ、
機会というかなんというか。
そらぁ普段いじめられるときの状況でやり返すってのもいいけど、なんかいまいちスカッとしないし…
能力者の学校ってんなら、なんかそーゆー正式な場面ねぇのかなって。」
神大は落ちていた空き缶をゴミ箱にシュートする。
美しい弧を描きながら缶はゴミ箱へ。シュートが成功するのを見届けた後、答える。
「もちろんある。
もとからそのつもりだったから、既に交渉済みだ。」
「ほぇ〜…。」
いつものオレなら"え、もう?!"とか言って驚いてたんだろうが、こんなにも穏やかな時間は久しぶりだったから、あまり気にならなかった。
家事やらなんやらも、もう1人でやるワケじゃあないし、神大がうまいこと能力つかってめちゃくちゃ手間が省けてるから、めちゃくちゃ学生らしい…それも充実した放課後を過ごせている。
「年に一度、"クラス替え試験"というものがあってだな。
その試験で仕掛けるつもりだ。
ちなみに、その試験で下剋上を果たすと、クラスを移ることができる。
現在振り分けられているクラスも、ほとんどがそれが基準となっている。」
「ほぇ〜…。」
もうなんか…
今はいいや…。
脳が溶けてくこの悦びをもう少し味わわせてくれ…
「この学校…屋上上がれるんやなぁ…」
「まぁ、屋上も中二病の育成には大切な場だからな。
それに、わざわざこんな学校へ来てまでヒステリックな気分になるやつは…いや逆だな。ヒステリックなやつがここへ来るはずがない。」
「ある意味平和か〜…。」
「そうだな…。」
あぁ~いいねぇ〜…。
春のぽかぽか…。
青の爽やかさ…。
まだちょっと冬が残って、肌寒さがあるこのカンジも…いいねぇ…。
「父上といると、えらく感傷的というか…こう…。
ただの風も、味を感じるな…。」
「この世にただの風なんてものはないのよぉ〜ん…。
森羅万象、全てに何かしら意味があるんだから…。
その小さな小さな積み重ねで…世界は大きく変わっていくんだよ…。
どんなに些細なことでも…たまぁには、意味を考えてみるってのも…いいことだと思うんよなぁ…。」
まだ少し風は強い。
空が耳を切って、風の音がする。
それに紛れる桜の木のささやき。
鳥のさえずり。
子ども達のはしゃぐ声。
遠くから聞こえるチャイム。
「まずい、父上に時間を吸われる。
話を戻そう。」
「そだなー。」
「朗報だ。」
「え?もしかしてもしかすると、
またオリジナル技を習得してた?」
「ああ。」
神大はあの日を思い出しながら口を開く。
「父上の放った"流星拳"は、それの速さをはるかに凌駕していた。
それに、いくら"流星拳"が速い突きとはいえ、あんなふうに風をまとったりだとか、ゴウゴウと音を立てたりしているのを見たことも聞いたこともない。
そして、超近距離で放たれた"流星拳"をノールックでかわした読み。
あれらをマグレや偶然で済ますのには少し無理がある。」
「うぉぉぉぉ!
じゃあじゃあ!
また命名タイム?!
うぉぉぉぉ!」
「…
勝手にしろ…」
さてさて、どうしようかなぁ…
"流星拳"はもともと、そこそこカッコいいからなぁ…
そこからアレンジ…ってのもいいけど…
むずいなぁ…これ以上カッコいいのは。
それよか、見切りのほうが名付けやすそう。
う~ん…
見切り…
避け…
危険を察知…
サーチ…
…!
「"察知"!」
「"サーチ"?
少し意味が違うんじゃあないか?」
「そこは触れないのがお約束。
あと、ただのサーチじゃねぇからな!
"察知"と書いて"サーチ"って読むんだぜ!
へっへっへーん!
我ながらセンスあるんじゃあないのぉ~ん?」
意気揚々、鼻高々なオレとは対極に、
神大は、一生に一度見るかどうかといった具合の変な顔をしている。
「なんだよ!
その反応!
ちょっと引きやがって!」
「おっといけない。思わず態度に出てしまっていたか。」
「おい!」
うーん…
あとはパンチのほうなんだけど…
「"閃拳"…」
「…?!」
「閃光の"閃"に、
パンチなどの意味で"拳"と書く。
名を"閃拳"…
どうだ?」
「お、お前ぇぇぇ!
センスアリアリアリアリアリーヴェデルチやんけ!
さっすが我が息子ォゥ!」
神大はまたあの顔をした。
あのイケメンフェイスからどうやったらこんな顔が出てくるのだろうか。
「だからなんだよその反応!」
「おっといけない。思わず態度に出てしまっていたか。」
「おい!
2回目!」
「しかし…
"閃拳"のネーミングにセンスがあることを、
『"陰キャの隠密"、"察知"を名付けた輩の息子だから』という理由で済まされるとは…」
「へいへい。センス悪くてすみませんねぇ!」
でもカッコいいぞ…!
"閃拳"!
うおぉぉぉぉ!
「これを完全に習得できれば、
ミス遥たちにも多少は歯が立つようになるだろうな。
もちろん。それ以外にも基礎的な鍛錬はいるだろうが。」
「じゃあこの前みたいに、爆速で覚えちゃいますよぉ~ん♪」
「あの時教えていなければ、面倒を見なくても済んだというのに…」
「をい…
なんか言ったか…?」
「何も。な?ユー。」
「え?あ、えっと…うん…?」
あ、お久しぶりです。結です。
えっと…あの日、魔佑大に助けてもらったことと、二人を保健室まで運んだこと、同じクラスだったこと…なんか色々縁あって友だちになりました。
そして今、"特訓"に巻き込まれてます…
にしても僕…とんでもないところに来てしまったなぁ…
「てゆーか、神大君さぁ…
俺一緒のクラスにするために、わざとEクラスなんでしょ?」
「あぁそうだ。」
「てことはぁ、少なくとも俺よか強いわけじゃあん?
ならさぁ、もっと手取り足取りぃ、
分かりやぁすく指南してくれてもいいんじゃあないんすかぁ?」
「はぁ…
こう見えても。
俺は父上を信じているんだ。
だからこそ、父上に"答え"を教えないんだ。
勉強と同じようにな。
まぁそもそも、"答え"なんてものはないんだがな。」
「なっ…?!
お、"オレを信じている"…だと…ッ?!」
「間違えた。
父上の才能を信じている。」
「おい!
わざわざ訂正しなくてもいいだろ!」
二人はさっきから漫才というかコントというか…とにかくこんな調子だし…
能力者?とか言ってたけど、僕には関係のない話だし…
あれ?僕、なんでここにいるのかな…?
「ぬぁぁぁぁぁぁん…
教える気あんのかないのか…
なんなんだこいつぅ…
初心者はノーヒントじゃあ無理だろ…」
そうやってうなだれている魔佑大を前に、神大は少し何かを考えて、少し迷った感じで口を開いた。
「…
俺ではなく、自分に信じてもらえ。
自分を信じろ。俺や、祖父上、伯父上、はたまた友人なんてものよりもな。
信じるべきは自分だ。
まぁ、といっても、それだけでは間に合わないだろう…」
神大はそう言いながら、魔佑大の方に手をかざす。
すると、魔佑大が一瞬、ぽかぽかとした光に包まれた。
何やら魔法をかけたようだ。
「を?
なんかの魔法かけたな?
なになに~?
何のおまじないぃ~?」
「1日1回30分、忘れ去られかけている、通称"実用性のないゴミ魔法"。」
「"ゴミ魔法"なのに、なんでそんなものをかけたの?」
「わかりやすく言うと、"強化バフ"をかけた。」
「ゴミバフ…?」
「素人から見ればな。
第一、この魔法自体、
好き好んで魔導書を読み漁ったり、いろんな魔法を試したりでもしないと見つからない。
そんなことをするのは、よほどの魔法好きか、手数を増やしたい者か、魔法を極めるであろう者か…
まぁいい。
今かけた魔法は、"強化を強化する魔法"だ。」
魔佑大は理解できないのか、ぽかんとした顔をしていた。
僕も何を言っているのかあんまり分かんなくて、気づいたら魔佑大と同じ顔をしていた。
「まぁそうなるだろうな。
具体例を言おう。
俺が今、"脚力を強化する魔法"を使ったとしよう。
すると、俺のジャンプ力が通常時の倍になった。
ではここに、さっきかけた"強化を強化する魔法"をさらにかける。この魔法は"強化する"という効果を強化する。
つまり、"脚力強化"を強化することになるから――」
「ジャンプ力がさらに倍になる…
Right?」
「Yes, that's right.」
「Oh~!
I see. I see.」
「でも、バフなんてかかってないし、今かけたって意味ないんじゃ?」
「"強化を強化する"というのは、強化魔法に限った話ではない。
強化する効果があるものは、すべて強化する。
つまり…」
神大は答えまでは言わなかった。僕らに考えさせるつもりみたい。
魔佑大が頑張って考えているようだったから、僕も一緒に考えてみる。
先に答えが出たのは魔佑大だった。
「トレーニング効果を倍増できる…
Right?」
「Yes, that's right.」
さっきから思ってたけどその英語はなんなんだ…
しかも発音そこそこ良いし…
「オーマイガー!
努力のしがいがアリアリアリアリアリーヴェデルチやんけ!
そんなんもう、ケンシヨネヅのMVばりに努力・未来・A beautiful starするだけやん!」
「なら、仕上げはトラックに撥ねられるか。」
「アホか!
流石に死ぬわ!」
自分で言っておきながら魔佑大はツボにはまっていた。
えー…なんか気づいたらツボってるんですけどこの人…
しかも何この会話の流れ…ついてけない…
"アリーヴェデルチ"?
"ケンシヨネヅ"?
どこから出てきたのそのワード…?
「そんなことより。
もう3分も過ぎたが?」
「やべっ!
じゃあ、基礎から鍛えるか!
走り込み行ってくるわ!
30分したら戻ってくるわー!」
僕がそんな事を考えている間に魔佑大は行ってしまった。
スピード感についていけないや…
「はぁ…父上が単純で助かった…
やれやれ。どちらが子供かわからないな…」
神大は呆れながらため息のようにそう言った。
僕は、少し迷ってから気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、神大はなんで魔佑大のことを"父上"って呼ぶの?」
神大は一瞬、"あれ?知らないの?"といった具合に目を見開いた。そしてすぐに、"あーそうだった"みたいなふうに考えこんだ。
少しして神大は口を開いた。
「この学校が、不思議な力をもつ人間の集まる場所というのは分かるか?」
「うん。まぁ…一応…
未だに信じられないけど。」
「父上も、その能力というもので若返ったんだ。
だから、見た目はたしかに中学二年生くらいでも、中身は一児の父である30代のおっさん…そして俺の父親なんだ。」
せっかく神大が頑張って説明をしてくれているのに、僕はついぽかんとした顔をしてしまった。
だって、いくらなんでも若返りなんて…
ただでさえこの前の喧嘩?で起こったいろんなことが信じられないのに、そんな突拍子もない話、信じられないよ…
「まぁ、いつかはわかるだろう…。
ユーだって、ここに来たということは俺達と同じ口ということだからな。たとえ自覚していなくとも。」
神大はそう言うと、すこし笑って僕の頭を撫でた。
イケメンフェイスから放たれる笑顔は、たとえ微笑であったとしても凄まじい破壊力だった。
…なんか恥ずかしい……
「いいか~?
サンドバッグ、しっかり抑えてろよ?」
「安心しろ抑えている。」
「じゃあ…いくぜ!」
オレは拳に力を込める。
そしてイメージする。速く。ブッ飛ばす。
速く。
速く。
速く。速く。速く。
―閃拳―
魔佑大の拳は加速に加速を重ね、下手をしたら本人までもが飛んでいってしまいそうなスピードへと到達する。
そしてそのまま狙ったポイントへ――
空気が破裂するような音がサンドバッグから響く。
「を~!」
凄いなぁ…
魔佑大の成長具合もそうだし、神大のコーチングも上手い…
なんか部活みたいでアツい…!
「この近距離でも音の到達より速い突きか…
出来上がってきたな。」
「ククク…クッ…
ニョホホホホホホホ!」
「どうした。気持ち悪いな。」
「サラッと言うなし!しかも悪口!
いやぁ、なんかさ、ワクワクする時とかって、
内側からカール巻いて湧き上がって来るような感じ?
で笑いが込み上げてこない?」
「こないな。」
「だから、またサラッと!
んもぅ…」
いいぞいいぞ!
"強化『強化』"、凄まじいねぇ…!
これさえありゃあ、あいつを見返す日もそう遠くはねぇ!
なにより普通に、この成長できるという環境、状況を楽しんでいる!
やっぱり伸びるときってのがいっちゃん楽しいねぇ〜!
「…流石は父上…。著しい成長スピードだ。
だが、以前の破壊力はどこへ消えた…?
まぁ、あの時は未完成でもあったからな…
未完成時のイレギュラーいったところか…?
それに、父上は体重がないからな。拳に重さがない。だから破壊力も生まれない…
せめてもう少し太ってくれれば良いものの…」
神大が大きな独り言を言った。
うん…たしかに魔佑大は細いかも…
破壊力とかよりもまず、心配だなぁ…。
「わかってるよ。
心配すんなって。
威力くらい、連打でカバーするから。
無駄無駄ラッシュみたいに。」
「"みたいに"じゃあないんだ。
もし父親のほうを言っているのなら、アレは破壊力Aだぞ。」
「息子です。」
「息子でも人間並みにはあるからな。」
「"オレが人間じゃねぇ"って言いてえのか?!」
「おっといけない。思わず口に出してしまっていたか。」
「おい!
…ってあれ?これこの前もやったよな?」
「それと、
息子には打撃時に発動する能力があるからな…」
「へぇへぇ!
わかってますよ!」
「発動する能力があるからな…」
またなんか二人しかわかんない会話してるよ…
でも、何故だかわからないけど、魔佑大はなにかピンと来たみたい。
神大がわざとらしく二回も繰り返した"打撃時に発動する能力"ってやつかな?
「お…?
まさかこの流れは…?」
「…そうだ。
父上には、"属性"を覚えてもらうとしよう。」
「うをぉぉぉぉ!
来ました!
"属性"っ!」
「だが、その分の覚悟はしてもらおうか。
"覚悟はいいか?"」
「"俺はできてる。"」
「今日はクラス替え試験の日だー。
まぁ、各々思うところはあると思う。
"上のクラスに上がりたい"だとか、"友達に勝ちたい"だとか、そんなところだろう。
だが、くれぐれも無理はしない程度にな!
ここで無理してケガしたって、今後の可能性つぶすだけだからな。
始まるときには放送が鳴る。
先生は諸々の対応があるから、ここを離れる。静かに待って、放送に従ってくれ。
以上だ。
それじゃ、頑張れよー。」
ついにこの日が…
うーん…なんかもう魔法とか能力とか慣れちゃったなぁ…普通に授業とかあったし…。
ていうか、本当に僕にも初持能力があったんだ…
なんだっけ…"達人の模誕"…?
"何にでもなれる"とか言われたけど…。モノマネできる能力だっけ?
そんなことを考えていたら、教室の反対側で声高らかな変な笑いが聞こえてきた。
「ククク…
クッ…
ニョホホホホホホホ!」
「どうした。気持ち悪いな。」
「だぁからお前はサラッと悪口言うなし!
まぁいいや。
この一、二週間。
割と必死こいて鍛えてきた…。
そして今回は、効果アップの"強化『強化』"までつけて鍛えた!
ワンチャン勝つ!
勝てなくても、噛みついてやる!
それでもダメなら爪後残す…!
それでもダメなら、ビックリさせる…
最低でもクラスは上げる…」
「だんだん自身がなくなってるぞ。父上…」
「だ…だって…」
やっぱ上には上がいるってもんだろう…
ましてやこの学校、割と人数多いんだから…
「忘れたのか?
戦うのは父上一人でも、俺一人でもない。
父上と俺、"萬親子"だ。」
「…!
ハハッ…
そうだったな!
俺たち二人は…"最強タッグ"だからな!
ククク…
クッ…
ニョホホホホホホホ!」
「どうした。気持ち悪いな。」
「だからサラッと悪口言うなし!」
二人の仲良さげな会話を聞いていたら、少し楽しくなってきてしまった。
せっかくこの学校に来たんだし、僕も頑張ってみようかな…!
『これより、クラス替え試験を始めます。
全校生徒は、各自、戦闘を開始してください。』
毎日投稿目指してます!
ひと区切りついたら一旦お休みして、
完結まで書ききったら、もしくはまたひと区切りつくまで書いたら投稿していくつもりです