ep.???(4) 最強と最凶
ひぃ~ひっひっひ…
いやぁ…さっきから変な汗が止まんねぇ~…
なんせ空気が重すぎる…流石は皇樹家のお嬢様ってかぁ…?
中坊の…ましてや、こんなおしとやかなヤツが出していい圧じゃあねぇ…!
「はぁ。
やっぱり雑魚はどこへ行っても、脳ミソまで雑魚だなぁ…」
いいぞ~…!
キレろぉ~!子どもってのは焚きつけりゃ取り乱すもんだ。そういうもんだ。そういうもんのハズだ…!
そこを突いてやる。どうやってかは知らんけど…
「"弱い奴ほどよく吠える"、"弱い奴ほどよく群れる"…
その権化のお前と、そこいらから転校してきた一匹狼の俺、果たしてどっちが雑魚なんだろうなぁ!」
あぁらやだ!
我ながらキレッキレの台詞じゃない?!
自分で自分のワードセンスに惚れちゃった♡
なんてな。
「テメェ!遥様に向かってなんて口きいてんだ!」
遥をキレさせるはずのワードに、いかにもモブみたいなヤツが食ってかかる。予想外の展開に驚くオレに対し、モブは攻撃態勢に入る。
「食らえや!」
モブが拳に力を込めると、一気に画風が変わったような…そんな感じがした。
そして放つ。
―流星拳―
うん。正直に言おう。この瞬間までここが能力者の学校なのすっかり忘れてた!
だがオレは、意外も意外。冷静沈着極まれり。
オレはひらりと避けてソイツの足を引っ掛けてやった。
「な?!
おぉっとと…
テメェ!ざけてんじゃねぇぞ!」
うん。ですよねー…。
うーん…"能力者とはいえど子どもは子ども"。これくらいかかってくれても良いとは思ったんだが…最近の若モンを舐めすぎたかな。
ほんでもってよぉ…"ボコボコにする"と言いつつも、オレぁできるだけ穏便に行きたかったんだけどなぁ…
…まぁいっか。
どうせ人生2周目だし!怖いもんはねぇや!
「へいへいわかった。わかりましたよ。
ふざけない。ふざけなきゃあいいんでしょう?
…ヒヒっ!」
そぉんなに言うんならぁ…
コソ練の成果を出すとしますよ…!
見て驚くなよぉん…?
「テメェ…!
なに笑ってやが――」
モブがなにか言おうとしたいたみたいだが、そんなことはよそに、オレは静かに息を吐きながら目を閉じる。
全身の力を抜き、意識が空気に溶け込んでいくのを感じる…
行くぜ…!
―陰キャの隠密―
「消え…た…?」
「バカが。ハバナ。」
オレが消えたことに驚くモブをアオりーにょからの、頭をブッ叩く。
我ながら気持ちのいい音が出た。
「~~~っ!
コケにしやがってぇ~っ!」
「あ゙ぁ゙らヤダ。そんなバナナ!
いかにも強そうなお兄さんがぁ…
こぉんなよわよわなモヤシにぃ…
コケにされちゃってるんですかぁ…?」
―陰キャの隠密―
「また…っ?!
どこ行きやがった?!」
"陰キャの隠密"。
俺が気づかぬうちに日ごろから使ってたらしいスキル。
いやぁ…にしても、使いこなすには時間がかかったぜ…
「なぁ、思ったけど…
俺っていつになったら能力使えるの?」
ただただ疑問。
そうだよ。オレが能力者だって言うんなら、いつになったら能力を使えるようになる時が来るんだ?
「何を言っている?
すでに使っているじゃあないか。」
予想外すぎる答えにオレは…
「ほぇ?」
「まぁ、それはそうか…
気づいていたのなら、もっと前から不思議に思うはずだ。
そうだな…
入学前からある程度教えておいてもいいかもしれない。
自衛のためにもなるだろう。」
「えぇっと…
まず、すべての根幹は"魔力"っていうエネルギー。
ゲームで言うMP、某戦闘漫画で言うところの呪力とか。
これを消費することによって、魔法とかスキルが使える。
んで、スキルっていうのは、一時的に効果を発揮する技。まぁ、ギガスラッシュみてぇなもんか。
で、アビリティってのもあってそいつは、持続的に効果を発揮する能力。まぁ、バフでいっか。
魔法は魔法。
んで、そいつらの中でも魔力消費がないのが、
生まれながらにして持ってる、
"初持能力"と"初持技"。
初持系は、魔力を消費しないだけじゃあなく、強力なものばかり。しかし、必ず弱点や短所、代償がある。
天与呪縛みたいなもんか。
"長所と短所は表裏一体。ままならぬものよ"
そーゆーことでいいんだよな?」
「あぁ。完璧だ。
そして、父上の初持能力は"最強"。
条件は不明で、何をもってしてなのかも不明だが、最強になれる。
そして、オリジナルのスキルや魔法が生まれやすい傾向にある。」
「それで生まれたのが、俺の"陰キャの隠密"…と。」
「そうだが…
名前、本当にそれでいいのか…?」
「いいのいいの。キラッキラ過ぎても飽きてくるから、適度にダサいのがいいのよ。」
「そう…か…」
「さぁ、
じゃあ次は、スキルとかの使い方も教えてよ。」
今、俺は謎にこれ関連の話に興味がわいてきている。
やっぱ、根っからの中二病ってのはいつになっても否定できない。
でも、それでもよかったかもしれない。
だって今、こんなにもワクワクしてるんだもん。
「スキルや魔法を使うのに最も必要なことは、"自分を信じる気持ち"だ。
そもそも、中二病が異能となれた要因は"信じる気持ち"から来ると考えられている。厳密には解明されていないがな。
例えるならば『病は気から』だとか、『怖い話をするとお化けが来る』だとか、そーゆーレベルの話と同じだ。
父上が使用する"陰キャの隠密"も、何かしら考えている時に発動しているのだろう。
それらしいことに心当たりは?
もしあるなら、その時をイメージしてやってみろ。」
「心当たりなんて、
アリアリアリアリアリーヴェデルチっしょ。」
オレは高校時代からよく、自分を空気だと思い込んでみることがある。
人間関係から来る疲れはもちろんのこと、肉体的疲労があるときなんかに肉体を手放した気分になれるからな。幽体離脱するようなイメージを意識すれば…
―陰キャの隠密―
「えっと…
これで、見えてない…よね?
目がこっちを見てないもん…ねっ!」
オレは足音がでないように神大の背後に忍び寄りつつ、神大の脇腹をくすぐる。
「…っ?!
何をする?!
こ、こら!やめろ!
急に腹をつつくな!」
流石は父上だ。異常なまでの知識の飲み込み、
感覚を掴む早さ…
祖父上が見込んだだけはある。そして同時に、危険視されることにも納得だ。無理はない。
己が力に酔いしれ、
はたまた溺れ、
暴走…そんな事態も、
幼少の頃の不安定な心理状況の父上ならばありかねない。
そして、それを危惧し、力を抑え込んでいた祖父上の封印をも無視し、
"陰キャの隠密"のような、新たなスキルを生み出した…
もし"最強"にでも成ったのなら…
考えただけでもゾッとする。
「ほんで?
他はなんかあんの?」
「そうだな…
"自衛のため"、かつ、"新学期までの短期間で覚えられるもの"、"授業で使うようなもの"だからな…
簡単な召喚魔法やら、フィジカルトレーニングやら…
できることはやっておこう。
にしても…
いつまで隠れてる?
教えようにも教えれないじゃあないか。」
「え?!
まだ見えてないの?!
…
え?
これは?見えてる?」
「見えてない。」
「オーノー!
どうやって解除すんの?!」
「隠れてねぇで出てきやがれ!
この卑怯者!」
「卑怯者はどっちだよ。
無勢に多勢、しかも弱いものいじめしやがって。」
あからさまにテンプレートな立ち回りだが、見えてなければ十分有効。
もう一度モブの後ろに回り込む。
「?!
コイツ…!
いつの間に後ろに…!」
「やり返してやるよ!
あいにく、俺もそのスキルはできるんでな!
いっけぇ!流星拳っ!」
"流星拳"。
速さに重点を置いた打撃スキル。
速さのあまり光って見えることから、その名がつけられた。
細く、筋肉も最低限しかついていないオレの腕からは、一体どんなパンチが出るんだろうか。
でも、相手が吹っ飛ぶくらいの威力ありゃカッコいいよな。
強くなくていい。速く。そして、ブッ飛んでくれ。
速く。
速く。
速く。速く。速く。
拳は加速し、稲妻のような閃光を発しながら、またぐんと加速する。
空を切る音が廊下中に響き、窓がバリバリと震える。
そのまま吸い込まれるように相手のみぞおち辺りへ。
拳がヒットする頃には相手は廊下の壁に叩きつけられていた。
「…
へ…?
…
スゥー…
あれ?」
ん?
流星拳って、こんなに威力出るっけ?
ちょいピキッててやり過ぎた?
ん?なんでみんなもびっくりしてんの?
そんな皿みたいな目してさ。
「父上…それは…!」
「て、テメェ…
どんなイカサマかマグレか知らねえが、
調子に乗んじゃねぇそ!」
もう一人のモブが同じく"流星拳"で殴りかかってくる。
「おっと…危ない危ない。
さっきのヤツよか速いじゃん。」
―召喚『炎』―
「熱っ!
テメェ!ふざけんな!
火傷するだろうが!」
"召喚『炎』"。
超初歩的な召喚魔法。
炎の弾を発射するでもなく、ただただ炎を召喚するだけなんだが…まぁ、使えんことはないみたいだな。
「オーノー!
殺す気で殴り掛かって来てるやつが火傷ごときでビービーわめくなや。
舐めてんの?」
「なんなんだお前!
さっきからいろいろ!
モヤシかと思ったらそこそこやるし!
オネェかとおもったらメスガキだし!
ふざけてるかと思ったらヤクザみたいなこと言うし!
なんなんだよ!」
「それがこのオレ、情緒不安定系YouTuber――
だった男…
萬 魔佑大だぜ!」
「〜〜っ!
ざっけんな!」
バカの一つ覚えってぐらいに、モブ2はむやみに殴りかかってくる…のを感じた。
まぁこちとら、そんな簡単にやられてたまるかってんだよ。
"召喚『炎』"を相手の進路に撃ちまくる。
「熱っ!
クソが!
進路に炎撒いてんじゃねぇ!」
「危ねっ!
クソが!
話してる途中に殴りかかってくるんじゃあねぇ!」
「クソが…
俺の真似しやがって…!!!」
「おいおい、これも真似してんだから。
忘れんなよ。」
炎に囲まれ動きが止まっているところにダッシュで詰め寄る。
拳は既に"流星拳"の構えだ。
「不意打ち流星――」
拳が再び閃光を纏う。
弾丸のように周りの空気がねじれ流れていく。
顔面に到達する頃には相手は床に叩きつけられていた。
少し深呼吸をして、オレは思う。
あれ?
オレ…強くね?
うーん…
まぁまぁまぁ、相手が良かっただけでしょう。
調子乗り過ぎるのは…うん。良くないよね。うん。
あとで痛い目見るか絶望するのは自分ですし、目に見えてますから、ほどほどにね。うん。
そう思いつつオレはまた空気へと溶け込んだ。
「やっと姿を現しやがったなぁ?」
「遥様に向かってひどい態度をとった挙句…」
「遥様の顔に泥を塗るようなことを…」
やべっ。この子とぶつかった反動でうっかり隠密解いちった。
まぁでも、隠密状態でも当たり判定はあるみたいだし、これだけの人数いりゃあ時間の問題だったな…。
「なんだ?テメェも仲間か?!」
急な怒号にはっとした。
僕は慌てて声の方をみる。その方向には割と体格のいい男子生徒が何人か。それに限らず女子生徒までもが、こちらを睨みつけている。
いやいや仲間じゃないし!
てゆーかこの惨状、"仲間"云々で怒号って、喧嘩ですか?!
「ヤロォ…ぶっ殺してやる!」
まずい…!
この子は無関係なのにオレの仲間だと思い込んでやがる!
守んなきゃ!
その生徒たちは声を荒げながら拳を振り上げ僕に襲いかかってきた。
逃げたほうがいいのだろうけど、もう色々頭がいっぱいいっぱいなこともあってか、うまく体が動かなかった。
拳は前へ前へと空を切ってこちらへ向かってくる。
咄嗟に手で受け止められる範囲も通り過ぎた。もう止めることはできない。
「流星ォォ…!
拳!」
ギリギリのところだった。
速すぎてよくわからなかったけど、どうやら、学ランの子が殴り飛ばしたみたい…。
だけど相手も数が多い。
学ランの子も1人じゃ捌ききれないみたいだ。
また僕の方に拳が飛んでくる…。
当たる――!
「ストップ。」
その声がした途端、一瞬、廊下は時が止まったように感じた。
拳は顔前。寸でぶつかるところ。
その声は鋭く、重く、それでいて丸く、だけどしっかりとしている、そこいらの校長先生なんかよりも威厳で満ちていた。
「はぁ…
すまないね。うちのやつらが失礼なことを…
もしかすると、君は転校生だね?話はお父様から聞いてるよ。」
声の方…
さっきの不良とは反対側を見ると、1人の女子生徒が立っていた。
抹茶色の髪。ワインレッド色の瞳。
「あと…
さっきめちゃくちゃにしてくれた君も、だよね。
まぁ、来たばかりなんだし、とるべき態度ぐらい知らなくても当然だよね。
どうやら、君もなかなか強いみたいだし、こっちも大怪我したら大変だ。
今回は目をつむるからさ、
こいつらのことも、許してやってほしい。」
この男…何者だ?
庶民の連れなうえ、見た目がモヤシだと油断していたとはいえ、ボクの取り巻き達を弄びながら秒殺するなんて…
しかも、能力とは無縁の普通校からの転校生だったはず…。
フフッ…
面白い。
ちょっとだけど、コイツに興味が湧いてきた…
「上下関係とかもゆっくり覚えていけば良いよ。
そうだ。
せっかくだから、ボクの取り巻き…
いや、親衛隊にでも入りなよ。」
緑髪の女子生徒はそう言いつつ、学ランの子に握手を求めるような姿勢をとった。
おー…
なんかよくわかんないけど学ランの子、スカウトされたみたいだ…。
この子は話を請けるんだろうか――
「べー。」
学ランの生徒の方をみると、中指を立てつつ、その指であっかんべーをしていた。
そのまま学ランは続ける。
「親衛隊とか知らんし。
派閥とかダルいし、性に合わんのよ。
部活ですら入る気なんてサラサラねぇの。
てか、謝んならオレじゃなくて神大に謝れよ。」
こうた…?
もちろん僕のことではないんだけど…
『その子に謝れ』ってことは…
このうなだれてる生徒の中にいるのか…?
「フフッ。
ごめんね。ちょぉっと言ってることの意味が分からないんだ。
"謝れ"?コイツが悪いのに?
ボクは上から一番。
こいつは下から一番。
目上の者への口の利き方ぐらい、習わなくても分かるはずだろう?
それを分かってないようだからこうなるんだ。」
そう言うと緑髪は、何かをつかんで学ランに突き出した。
扱いが完全にモノだったから、人だとわかった時には鳥肌が立った。
淡い金髪の男子生徒…。それも割と体格が良さそうだ…。それを髪の毛つかんでって…。
「もうやめろ父上…
俺のことはいい…」
「ねぇ。今さ、
ボクとアイツで話してるの。
お前は首を突っ込むなよ。
それとも、まだ殴られたいのかな――っ」
拳を振り上げた緑髪の腕を、学ランが止める。
「それ以上殴ろうもんなら…
テメェもさっきのモブみてぇになるぞ?」
「やめろ…!
逃げろ!父上!」
その一瞬で空気が一気に重くなった。
時間もゆっくり…いや、ドロっとしたような感じで流れている。
息ができない…動くことも難しい…
自分の心臓の音がうるさく感じる。
「はぁ…
いくら強いとはいえ…
ちょっと…
調子に乗り過ぎじゃない?」
緑髪がそう言い終わらないうちに、奇妙な現象が学ランを襲った。
僕も何が起こったかよくわからなかったから、ありのまま今起こったことを話すよ。
学ランはたしかに緑髪の腕を掴んでいたし、いや…そこが問題ではないのかな…。
とにかく、学ランの子は、車にでもはねられたみたいに、SF映画の超能力でも使われたみたいに、一瞬で彼の後方にブッ飛んだんだ。
そのまま彼は壁に叩きつけられてしまった。
「父上ェェェ!」
フン。
やっぱり興味なくなった。
"ボクの威圧で吹き飛ぶ程度の実力"…それはつまり"雑魚"ってこと。
てことは、さっきの一連の動きは全部マグレ。
それに、
せっかくチャンスを与えてやったのに、それを無下にするなんてね…
癪に障るな。
「ふぅ。
今日は、アイツが代わりってことで見逃してあげるよ。
でも、次からはアイツも徹底的に教育してやるし…
お前はその倍だ。
楽しみだなぁ…!叩きのめしがいのあるやつが2人になったんだぁ…!
でも。君も早く諦めないと…
うっかり殺しちまうぞ?」
「…」
「おっと、ごめんごめん。
びっくりしちゃって声も出ないかな。
じゃあ、ボクは1限目の授業に行くから。
じゃあね。庶民。」
緑髪がいなくなった瞬間、やっと僕の体は言うことをきくようになった。
まるで金縛りにでもあったみたいだった。
でも、今はそんなことを考えてる場合じゃあない。
とにかく彼らを保健室まで運ばなくちゃ!
『s―て――してやる――』
…
ぬぅぅん…
また妙にリアルな夢を見た気が…覚えてないケド…
てか此処どこォ…?
うーん…知らない天井だ…
…
!
神大は?!
「神大!」
「なんだ急に。驚かすな。」
いつもの冷遇。とりあえずそれくらいの余裕はあるみたいだ…。
「あぁ良かった。無事か?」
「それはこっちが聞きたい。
それに、言っただろう。"慣れている"と。」
「あ、あのなぁ…
慣れてるからいいってもんじゃあねぇんだよ。
てか、"慣れてる"ってことは、1年生の時からってことか…?」
「そうだが?」
「おまっっ――バカ!
そういうのは早く言えよ!
バカ!
アホ!
スカタン!」
「何故言う必要がある?
言ったところで父上に余計な心配をかけるだけだし、
そもそも父上には関係のない話だろう?」
「そーゆーことじゃあねぇ!
お前、平気そうにしてるけど、実は辛いんだろ!」
「どうということはないが。」
「はぁ…」
「てか、あんなどんちゃん騒ぎやって怒られねぇんなら…つってもアレか…アイツだから怒られねぇのか…?
うぅん…いつもやられてんならやり返しても怒られんだろ!
いや、それはちょっと違うな…
とにかく!
ちょっとぐらいやり返せ!」
「そんなに大声を出せる元気があるのなら問題はなさそうだな。
さぁ、もう放課後だ。帰るぞ。」
神大はそう言うと広げていた勉強道具をそそくさとまとめて立ち上がる。
「おい!
聞いてんのか神大!
無視すんな!
『お前の身を守れ』って話をしてるんだよ!
おい!」
神大は無視して帰ろうとしていたが、立ち止まり、少ししてから口を開く。
「…その必要はないな。
俺は…
今、何のために生きているのかわからない。
やりたいことも、叶えたい夢もない。
父上のように、"完膚なきまでに叩きのめされたから"とか、
そーゆーんじゃない。
"ただわからない"…
それだけだ。」
「だからって…
そんなっ――」
「言い返そうとしても無駄だ。
オレはアンタだ。
父上と同じだ。
気持ちはわかるはず。
"意味もなく生きるのが一番辛い"、"それなら死んだほうが幾分か救われる"ということだ。
それに…
"争いはよくない"からな。」
神大の最後の言葉に俺ははっとした。
"争いはよくない"というのは、神大が小さいころによく言って聞かせていた言葉だ。
覚えててくれたのか。
でも、そういうつもりじゃあなかったんだ…
"自分を守るため"、そして"相手を守るため"。
互いを守り、争わないために。過度なエゴを捨てて生きて欲しかった。
それがこんなことになるとは…
「…フッ。
少し意地の悪いことを言ってしまったな。すまない。
安心しろ。
父上が抱え込む必要はないし、
生きる意味を見出せなかったのも、"今日まで"の話だ。」
神大はそう言いつつ、生き生きとした"少年の目"でこちらを見た。
「俺は"父上を守るために生きる"。
そして…
"俺は父上の成長を見届ける"。
これが俺の生きる意味だ。」
・ ・ ・
「そ、そうか…」
「何故ちょっと引いているんだ…」
「い、いや…
なんか息子にこーゆーこと言われんの不思議というか、そもそも親子立場逆転してて意味わかんねぇなって…
あと、お前イケメンすぎな?
惚れるからやめろ?」
「そ、そうか…」
「なんで聞いたお前が引くんだよ!」
なんとも言えない空気感で沈黙が続く。
あれ?またなんかやっちゃいました?
「まぁいい。
父上を守るためには、ひとつ…
裁きを加えるべき輩がいる…」
「そうか…
実はオレも、お前を守るためにボコさなきゃいけねぇヤツがいるんだよ…」
オレ達は目を合わせると同時に同じ名前を出していた。
「「皇樹 遥!!!」」
「なぁんだ。一緒じゃあねぇか!」
「もちろんだ。他に誰がいる?」
「くぅ〜っふっふ〜ん…!
萬家を敵に回したからには、覚悟してもらおうか!
あの皇樹だろうが、大国だろうが、世界の理だろうが!
オレ達の親子の絆に敵うやつぁいねぇぜ!」
毎日投稿目指してます!
ひと区切りついたら一旦お休みして、
完結まで書ききったら、もしくはまたひと区切りつくまで書いたら投稿していくつもりです