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短編 88 麦飯パスタ

作者: スモークされたサーモン


 タイトルを適当に考えてるときにこいつが生まれました。


 そしてこの話が生まれたのです。




「お姉ちゃーん! 今日のご飯はなんなのー?」


「今日は麦飯パスタよ」


「…………は?」


「だから麦飯パスタだってば」


 これはそんな話。




「で、お姉ちゃん。これは?」


「だから麦飯パスタだっつーの」


 テーブルの上で湯気を上げる皿。そこには不思議な食べ物が乗っていた。


 ……そばめし? パスタをそばに見立てた炒飯みたいなものが皿の上にてっこらしょと山になっていた。


「麦飯のそばめし?」


「まぁそんなとこね。冷めるとすごく不味くなるから早く食べるわよ」


 姉妹二人でそばめし?を食べました。何となくイタリアンな炒飯です。新食感。


 パスタのモチモチ感と麦飯のぼろぼろ感がマッチしているようで絶妙に噛み合いません。


 なんか麦飯とパスタが口の中でインチキプロレスをしている感じです。


 互いにロープを利用して助走するのですが一度もぶつかり合わずに延々とロープにボヨーンな感じ。


 うーん。


「お姉ちゃん?」


「なによ」


「これは……自信作なの?」


「あるものを使って作ったから文句言うなー!」


 はい、すいません。お姉ちゃんは料理得意だけど、私は料理しない人間です。神様が料理をしてはあきまへん! と毎年元旦の夢に出てくるので私は料理をしないのです。だって神様が言ってるんだもん。料理出来ない訳ではない。しないのだ!


「麦飯って微妙ね」


「お姉ちゃんもそう思ってたんだ?」


「だって白米でやると普通に美味しくなりそうだったし。モチモチとモチモチでモチモチよ?」


 なんでそこで冒険するのかなー。


 でも妹は黙ってました。


 姉妹揃ってもしゅもしゅと麦飯パスタを食べました。そこまで悪くないんだけど……という出来でした。けぷー。


 


 別の日。


「お姉ちゃーん! 今日のご飯はなにー?」


「今日のご飯はプリンラーメンよ」


「それは出オチだぁぁぁぁ!」


 この日の突っ込みは早かった。コンマで突っ込んでやったぜ、へへっ。


 で。


「これがプリンラーメンよ」


 テーブルの上にはどんぶりが二つ。湯気の向こうに魔界が見える……のかも。湯気で見えないよ。怖いよ。なんで本当に作っちゃうかなぁ。


「まあまあ、騙されたと思って食べてみなさいな」


「……匂いが甘くない?」


 湯気の香気はカラメルプリン。まさにプリンの香りがしてる。バニラの香りと香ばしきカラメルのハーモニー。これがデザートなら喜んで飛び付いたというのに。


「ずずず」


 姉様!? 啜ってるよ!?


「ごふっ!」


 姉様!? むせてるよ!?


「……んごふっ……中々のパンチ力ね。覚悟しなさい。今回のラーメンは手強いわ」


「なんでそんなことになってるのよ!?」


 お姉ちゃんは冒険する料理人。冒険しすぎてあっさり死ぬタイプの冒険者なのだ。


 レベル3でドラゴンにアタックとか。序盤にそんなの置くなやと思うが、そういうのに突っ込むのがお姉ちゃんなの。


「冷めないうちにどうぞー?」


 笑顔の姉が勧めてきた。これは一緒に死ねということか。


 湯気は少し収まった。家の中は甘い香りで満ちている。どんぶりの中も今では見えている。深淵だ。ラーメンの深淵がそこには広がっている。


 あ、向こうからなんか見てる。なんだろう。なんか丸くてギョロリとしたものがカラメル色のスープの奥から……。


「あ、起きた?」


「ほえ?」


 気付いたら私はベットの上で横になっていた。自分のベットで寝ていたらしい。


「……夢オチか!?」


 跳ね起きた。お姉ちゃんが変な顔をして私を見てる。


「どうしたの? 変な夢でも見たの?」


「……まぁ、うん」


 お姉ちゃんの作ったゲテモノ料理の夢を見たのー! なんて正直に言うわけにはいかない。多分お姉ちゃんなら本当に作ってしまうから。あのプリンラーメンを。


 うっ……まだ何となくプリンの香りが鼻に残ってる感じがする。


「随分と具合が悪そうねぇ。おやつでプリンを作ったけど食べられそう?」


「……今日は止めとくわ」


 プリンは大好きなんだけど今だけはちょっと……というかそれで変な夢を見たのかな。家の中は何となくプリンの甘い匂いで満ちている。


「そう? プリン雑炊とか作ってもいいんだけど」


「やめろぉぉぉぉぉ!」


 危うく正夢になるところを必死になって阻止した。お姉ちゃんは、やる。そういう冒険者なのだから。




 別の日。


「お姉ちゃーん! 今日のご飯はなんなのー?」


「……今日はお姉ちゃん、彼氏に振られたからカップラーメンよ」


「……早かったね」


「……今回は三日よ。お弁当に生八つ橋を入れたら別れを切り出されたわ」


 ……ニッキ臭いよ。そりゃ別れを切り出されるわ。


「そぼろご飯と生八つ橋。相性は悪くなかったのに……あ、赤いのと緑のと、どっちにする?」


「私は赤いのでー」


「じゃ、お姉ちゃんは緑ねー」


 この日は特に問題も起きずに済んだ。お姉ちゃんの元カレはこの先そぼろご飯と生八つ橋を食えない体になったことだろう。お弁当箱はビックリ箱だね。


 うん、今回はきれいにまとまった! やったね私!


「あ、手付かずのお弁当があったわね。ほら、匂いはすごいけど味の相性は……」


「ぬぅぉぉぉぉぉぉ!?」


 私もしばらくそぼろご飯と生八つ橋を食えない体にされた。赤いのと緑もしばらく無理だ。匂いのコラボで食卓は魔界になった。




 別の日。


「お姉ちゃーん。私にも料理を教えてー」


「なんですと!? 熱でもあるの!? ならお尻にネギをぶちこむわね! さぁ! 尻を出しなさい! お姉ちゃんが優しくぶっこんであげるから!」


「……調理実習があるのよ」


「あらそう。でもネギは突っ込んどく? 風邪に効くのよ?」


「……お姉ちゃん、それ、彼氏にやったんだよね?」


「うん。泣いて別れを切り出されたわ。私も泣いた」


「じゃあ料理教えて?」


「いいわよー。調理実習かぁ。何を作るの?」


「カレー」


「……まぁ基本よね」

 

 こうして地獄のような料理特訓は始まった。ネギに関してはノーコメント。嫌な記憶しかないのでノーコメント。ネギを振り回してる姉にもノーコメント。


「それじゃあまずは……これが料理に使うコンロです!」


 ズビシ! ネギが指し示したのはうちのキッチンにあるコンロだった。


「……お姉ちゃん? 流石にコンロぐらいは知ってるよ?」


 馬鹿にされてる気がする。いくら料理をしない私でもコンロぐらいは知っている。


「んー。では左右のどちらが高火力か分かりますかー?」


 ……なぬ?


「……右だ! 右の方から強い気を感じるわ!」


 私には見える! このスカウターに反応があるのだ! な、なんだこの数字は!? そ、そんな!? 五十万だと!?


「ぶっぶー。左でしたー」


「……なんで?」


 寸劇にノータッチは、すごい恥ずかしい。お姉ちゃん酷い。お姉ちゃんのばか。


「うちのコンロは右側に壁があるからよー。火事防止の為にコンロを設置するときは壁側になる方を低火力にするの。少しでも火事のリスクを抑える為にね」


「へー」


 料理関係ねぇ。私は思ったが黙っておく事にした。

 

「どっちでも料理は出来るけど、高火力が適してる料理もあるからちゃんと覚えておいてね」


「はーい」


 高火力かぁ。


 ……炭を作るときは左ね。理解した。


「次は……これ! これなーんだ!」


 お姉ちゃんは変なポーズでお玉を掲げていた。ネギとお玉の二刀流。やはり馬鹿にされてる気がする。


「お玉だよね?」


 流石にそれは知っている。使い方も何となく分かる。卵を入れて校庭を走った事があるから。


「うん。お玉ね……と言うと思うてか!」


 いきなりお姉ちゃんの顔が劇画タッチでクワッとした。濃い! お姉ちゃんの唐突な変化に私も思わず劇画調。


「なにぃ!?」


 濃ゆさマシマシ300%よ! 


「まぁお玉なのよね。じゃ、鍋を出して……カレーは市販のカレールゥよね? 学校の調理実習なら……どうしたの?」


 お姉ちゃんは黙ってプルプルしている私を見てキョトンとしていた。


 私は怒ってもいいと思うんだ。


「……お姉ちゃんのバカー! 妖怪ネギ刺し女ー! 彼氏に刺したネギを食卓に出すなよバカー! 火を入れれば大丈夫、な訳あるかー! ネギマにされてたら分かる訳ねぇー!」


 私の怒りが爆発した。今もネギには手が出ない。男の尻に入れたネギを食わされたせいだ。それもお姉ちゃんの元カレネギ。わりと素敵な人だった。だからこそ許せない。私も彼のお尻にネギをグリグリと刺してみたかった……事もない。うん。


「あら、反抗期かしら。お姉ちゃん、お玉で返り討ちにしちゃうわよ?」


 ネギとお玉を構える姉。一分の隙もない。だが所詮はネギとお玉。ここに姉妹頂上決戦が始まろうとしていた。


「出来るもんならやってみろー! 運動部を舐めんなー!」


 このあと本当にお玉でボコボコにされました。お姉ちゃん強すぎです。あとお玉で叩かれると超痛いです。泣きました。ビービー泣かされました。やっぱり姉に歯向かうのは無謀でした。




 また別の日。


「お姉ちゃん……彼氏が出来ちゃった」


「あらー…………あら? 赤ちゃんが出来ちゃったの?」


「彼氏だよ」


 私もびっくりだが彼氏が出来た。それも年下の男の子。ショタに非ず。


 お姉ちゃんは……なんか目の焦点がおかしな事になっていた。


「お姉ちゃんが別れてばかりなのに……ついに告白すらされなくなったのに……はっ! それは体目当てのドスケベ坊やね!? お姉ちゃん慧眼!」


 お姉ちゃんがおかしくなった。前からなので平常運転だ。


「まぁそれでもいいかなーと。私も嫌ではないし」


 年下の男の子。年下の男の子。年下の……でへへへへ。超可愛い男の子です。私、こんな性癖だったんですねぇ。うへへへへ。プリっとしてるんだよねー。


 ……尻が。


「妹が……爛れているわ! 今日の夕飯は火鍋よ!」


「なんでやねん」


 お姉ちゃんが突飛なのは前からだけど、思わず突っ込みが関西人になった。


 それでもお姉ちゃんはノンストップだ。


「その人……お姉ちゃんが審査します! 悪い男の子なら……」


「……なら?」


 すごく嫌な予感しかしない。


「切り刻んで鍋の具にしてやります!」


「やめろぉぉぉぉぉ!」


 火鍋にもトラウマが出来るとこだった。結局お姉ちゃんを説得するために彼氏を家に連れてくる約束をさせられた。


 多分大丈夫だとは思うけど、お姉ちゃんだから油断は出来ない。


「じゃ、普通に火鍋を作るわねー。香辛料で代謝活発。美人になれるのよー」


「へー」


 見た目は悪くないのに中身が残念なお姉ちゃん。人間やっぱり外見なんだけど中身も大事なんだよねぇ。


「……お姉ちゃんはあなたの味方ですからね」


 うん。なんか企んでやがんな? すっごい笑顔だ。


「あなたの彼氏ということは……いずれは私の義弟になる……つまり弟なのよね」


「……まぁ順当に行けば?」


 そこまで行くかは分からない。失敗例の見本市が目の前にいるのだ。でも年下の男の子……でへへへへ。


「……睡眠薬の用意しとかなくちゃ」


 お姉ちゃんが真顔で呟いた。


「待てーい! …………興奮剤もお願いします」


 私も真顔でお願いした。


「うふふふふふ」


「でへへへへへ」


 火鍋をつつく姉妹。ウィズ笑い声。今日も食卓は賑やかでした。




 今回の感想。


 ん? 年下の男の子はどうなったか知りたいって? この話は『食べる』話だよ? つまりはそういうことさ。


 R15なのも、それが理由さ。


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