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浮いて行こう

 なんだか背中がごつごつするような……。


「さむっ!!」


 肌寒さに耐えきれず、意識が覚醒してしまった。それに背中が痛い。これ絶対石の後が大量に残ってるやつだって。


「なんか真っ暗になってるんだが、寝るべきタイミングを見誤ってしまったな。今まで寝てた反動でまったく眠くないし、このまま寒さに耐えつつ、ここでゴロゴロしておくのも無理だ」


 周囲は既に真っ暗になっており、森の中には一切の光源がない。唯一空に浮かぶ星たちだけが、今の俺の救いだ。とはいえ、目も慣れてくればある程度の視界は回復してくる。


 川のほとりで寝ころんでいた俺だが、起きてもやっぱりここにいる。寝て起きたら家のベット作戦は無事に失敗したということだ。とてもじゃないがこれはもう諦めるしかないんじゃないだろうか。俺が自力でこの森を抜け、町へ向かうしか助かる道はない。しかし、本来動きべき明るい時間に寝てしまった俺は、何もみえない夜に活動するという昼夜逆転現象に襲われている。


 とりあえず、起き上がり周囲の状況をうかがう。

 近くしか見えないが、特に変わりはなさそうだ。これで熊とかに出くわしたりでもしたらジエンドだからな。この暗闇の中歩き回るのは危険だ。それくらいは俺にでもわかる。しかし、もう眠気は一切ない。とてつもなく暇だ。しょうがない、これからの作戦でも立てて時間を潰そう。


 そうだな、まずは服と靴の調達をしたいな。いくら森の中とはいえ、少し歩いて森から出てさえしまえば民家くらいはあるはずだ。そこで土下座でもなんでもして服と靴を恵んでもらおう。それと、ここがどこなのかも聞いておかないといけないな。そのためには裸足で森を歩かなければならない。足の裏が大変なことになりそうだ……想像しただけでも痛い。これはいったんやめておこう。

 川に沿って歩くのも足が痛いしな。もういっそ、ずっと川を泳いで下流に向かっていけばいいんじゃないか? それだ!! どうせ俺は海パンを履いているんだ。それが一番いい方法だ。必死に泳いでたら寒さも少しは和らぐだろう。この作戦で次はいってみようか。


「夜なのに眠たくないなんて不思議な気分だ。なんだか、時間を有効に使えているような気がするな」


 実際には、昼間の時間をすべて無駄にしているわけで一ミリも時間を有効に使えてはいないのだが、ふとそんなことを考える。


「これ、今活動したらもっと時間を有効に使えたことになるんじゃないか? でも夜の川を泳ぐのは危ないか? いや、流れに沿って流されていくだけなら危険はないか。流れも別段急って訳じゃないしな。ぷかぷか浮いてればどんどん進むだろう」


 思い立ったらすぐ行動だ。俺はゆっくりと川へ入る。


「つめたっ!! 体が冷えてるせいで余計水が冷たく感じるな。でもここは我慢だ。早くこの森から脱出するためにはこれしか方法がないんだ」


 寒さを我慢して川の中央へ入っていく。ここは大分上流なのかかなり浅い。足も軽く尽くし、水も腰より少し上くらいしかない。これくらいの深さだったら危なくなったら立ち上がればいいだけだ。よし、浮いて流されよう。


 俺は全神経を集中させ、水に浮かぶことだけを意識する。


「浮いたぞ!! これで行ける!!」


 俺の体は綺麗に水の上に浮き、ゆっくりと流され始めた。


 案外気持ちいもんだな。夜空を眺めながらぷかぷかと水に浮く。この体験は人生初だ。しようと思ったことすらない。一つ問題があるとしたら、浮いてるだけで体を動かしていないので寒さがきついことだな。これを長時間続けるのは危険を伴う気がする。


 ちらちらと横を確認しながら、真ん中を流れていくように調節する。完全に流れに沿って進むことは難しく、どちらかによって行ってしまうので俺自身で微調節が必要だ。


「やばい、そろそろ凍えそうだ。一回、避難しよう」


 危険を感じるほどの寒さに耐えきれず、一度川から上がる。


「寒い、やばい、凍えるぅ……」


 苦肉の策で腕をブンブン振り回して熱を発生させようと試みる。ほんとは走り回りたいところだが、生憎裸足なのでそれはかなわない。

 はあ、俺は何をやってるんだろうな。今頃本当ならタケシと遊んで、焼肉を食って帰る予定だったのに……肉が恋しい。


「はあ、はあ、ちょっとマシになってきたな。もういっちょ流されるとしますか」


 俺は川に再度戻り、ぷかぷかと浮き下流へ進んだ。


 しばらく浮いていると少しずつ周囲が明るくなってきた。


「やった、朝か。これで浮いてるだけじゃなくて自分で泳いでいけるぞ。もう少し明るくなったら本格的に泳ぐとするか」


 明るくさえなってしまえばこっちのもんだ。日光を浴びれば冷え切っている体も少しはマシになるはずだ。一気に進んで町を目指そう。


 明るくなり、川をクロールで泳いでいると、横目にチラッと動くものをとらえた。


「あれ? なんかいたような?」


 俺は一度停止し、犬かきで顔だけ出して浮く。もう川の深さは足が届かないほどになっているのでこれをキープするのは骨が折れる。


「俺の見間違いか? 何もいないな」


 クロールに戻ろうかと思った次の瞬間――


 茂みがガサガサと揺れた。


「なんだ? まさか熊?」


 驚き、少し身構える。


 しかし、そこから出てきたのは俺の予想とは反し、緑色の肌の気持ちの悪い生物だった。身長は俺よりもかなり低い。しかし、あんな動物は見たことがない。一体どうなってるんだ!?

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