これが俺の意地だ
俺は今日友人のタケシと川に遊びに来ている。ちなみに河川敷があるような街中の川ではない。俺が今日来ているのは田舎の山にある渓流だ。大自然のなか俺は、川というものを満喫している。
「おいタケシ。ここ最高だな。マイナスイオンとか半端ないくらい出てるんじゃないか? さっきからリラックスしすぎて牛になりそうだ」
「馬鹿なこと言ってんなって、適当なこと言ってるとマジであほがバレるぞ」
「余計なお世話だ。どうせ、俺は勉強できないあほだ。しかしなぁ、誰が勉強ができる奴が頭がいいって言ったんだ。俺は認めんぞ。勉強ができる程度で頭がいいと言うのは流石に盛りすぎだ。頭がいい要素を少しだけ持ってるってだけなんだよ」
我ながらいいことを言ってしまったな。勉強できる奴が頭がいいって訳じゃないんだ。その逆に勉強ができない奴も頭が悪いってわけじゃないんだ。したがって俺は馬鹿ではない。いくら万年最下位、ブービー賞を争っていたとしても決して頭が悪いわけじゃないんだ。
「その発言自体がなんか頭悪そうだぞ。見得張っていい感じのこと言うのはやめとけよ。シュンタロウ。お前が頭悪く無いは無理があるって。それかあれか? 勉強してないだけで、実際に勉強すれば成績がよくなるとでもいうのか?」
「チッチッチ、俺は勉強してないわけじゃないぞ。授業の予習、復習だって毎日やってるんだ。それでも勉強できないだけだ。何か文句あるか?」
「悪かったって。それで勉強できないなら予習も復習も意味をなしてないじゃねぇか。もう少し自分にあった勉強の仕方をしたほうが少しは効率が上がるんじゃないか?」
俺も自分で謎で仕方ない。確かに予習と復習をしているが特に何を理解しているわけではない。教科書を読んでみるが書いてある意味がまったくわからないのだ。それでもその日授業でやるところと授業でやったところを毎日家で読んでいるんだ。これでも理解できないってことはもしかして俺は馬鹿なのか?
「もういいって、せっかく遊びに来たっていうのに勉強の話なんてやめようぜ。気分が落ち込んでくる。早く飛び込んで泳ごうぜ」
「おい、俺は割とガチで悩んでるんだぞ。でもまあ、ここに来てする話じゃなかったな。すまん」
「お、わかってくれたか。それじゃ、どっちが先に飛び込む? ……なんかちょっとここは高すぎねぇか?」
俺たちは海パンに着替えて、岩の上に登っている。そこでわざわざ勉強の話をしていたんだ。これは絶対に馬鹿だな。何を思って勉強の話なんて始めちまったんだよ。俺もせっかく盛り上がっていた気分が微妙な感じになっている。
気を取り直して、下を見てみると、タケシの言った通り思ったよりも高い。普通に怖い。
「これはちょっと調子にのりすぎだろ。川の深さもわからないのにこんな高さから飛び降りて怪我でもしたらそれこそ本物の馬鹿じゃないか。最初からここを行くのは飛ばしすぎだ。ほら、あっちのほうがいい感じじゃないか」
俺は手ごろな岩を指さす。
あっちの岩なら水面から2メートルと少しくらいで、割と心理的にも余裕で飛び込めそうだ。
「おい、シュンタロウお前日和ってんのか? 何のためにわざわざこんな山まで来たと思ってんだよ。チャリで片道3時間だぞ。記念すべき1ジャンプ目で日和るなんてありえねぇよ。俺はここ以外認めんぞ」
「気持ちはわかるが、骨なんて折ってみろ。そのまま下流まで流されて無事死亡するぞ。笑えないからな。それに捻挫でも帰りが絶望的になるんだから、最初は様子見で行くのが正しい判断だ」
チャリで3時間かけて来たって言うのに、一発目で日和るなって言うのもわかるんだが、この高さは流石にやばいって。別に高所恐怖症でもない俺が恐怖を覚えてるんだぞ。
「お前がそんな情けないやつだとは思わなかったぜ。それだったらいいさ、俺一人でもここから飛び込んでやるよ。臆病者のシュンタロウはあっちの低い岩からでも飛び込んでな」
「ふざけんなよ。誰が臆病者だ。俺に怖いものなんて一つもない。それに、俺はタケシのことを心配してやめようって言ってるだけで、俺自身はまったく問題ないって思ってるからな。別にいいぞ、タケシがここから行くって言うなら俺だって行ってやるさ」
見え見えの挑発に乗ってしまった。せっかくマイナスイオンでリラックスしていたのにこれくらいの挑発でカッとなるなんてまだまだ俺もダメだな。
「いい度胸だ。俺の心配なんてする必要はないって。これでもサッカー部で体を鍛えてるんだ。それよりも合唱部のお前のほうが心配だ。喉ばっかり鍛えてても飛び込みの役には立たないぞ」
「合唱部舐めんなよ。肺活量をあげるために日々ランニングしてるんだ。足腰の強さだって負けちゃいないさ。長距離なら俺が勝つ自信があるね」
「はは、笑わせてくれるぜ。サッカーがどれだけ体力のいるスポーツだと思ってるんだよ。合唱部は文化部だろ。運動部のサッカー部に勝とうなんて片腹痛いぜ」
くそ、運動部だからっていい気になりやがって。見てろよ、俺が先に飛び込んでどちらが上かはっきりさせてやる。
「舐めやがって。見てろ、俺が先に行ってやるよ。おらぁぁーー!!」
「おい、マジで行くのか? 危ないからやめろって」
後ろからタケシの声が聞こえてきたような気がしたが、俺は迷わず川へ向かってダイブした。
ふわっと、空中に体が浮き、やがて重力に押されて落下が始まる。
「うわぁぁーーー!!!」
ばしゃん!!!!
盛大な水しぶきをあげ、着水する。
「おぼっ、おぼぼ。ぷはっ!! どうだ、タケシ見たか!!」
水面に浮き上がりタケシに向かってドヤる。しかし、そこにはタケシはいなかった。それ以前に俺がさっき飛び込んだはずの岩すらない。
「あれ? どこここ」