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鬼々時雨  作者: そうのく
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第七章


 その後、笹澄の巫女長みこおさであるミヒワノ・ヒユネは、すぐに土地神との心交を行う為に、祭殿の間に篭もったまま祈りを続けていた。

「………。」

 黙って黙々と祈りを続けるヒユネ。

 このままでは、皆が危うい状況に立たされている。

 ――私は、どうすれば……。

 力は、より大きな力を呼ぶ。争いは終わりの無い火種となり、大地を燃やすだろう。

 争いの火種を留めるには、どうすれば……。

 



「………。」

「ヒユネ様、大丈夫かしら……」

 サヤは不安に表情を俯かせる。

 もうずっと心交の儀式を続けたままだ。何時間も篭りきりで、食事すら取ろうとしない。

「……。」

 シクナもその様子に、ただ事ではない雰囲気を感じていた。この笹澄が戦いの火で覆われようとしている。もしそうなったら、どれだけの命が失われるのか分からない……。

 ――ヒユネ様……。

 戦わない道があるのなら、それに越したことはない。だが、あの忍び達は普通では無かった。

 自らを妖魔とし、禁忌の術を行使している。

 自体が切迫している……。敵の……。

 手負いの獣は、何をするか分からない。人を捨てた獣は――。

 シクナは、そのまま何もすること無く、静かに自分の部屋へと戻るのだった。

「………。」

 あれは、もはや"人"ではない……。

 考えるシクナ。おそらく帳は力を付けている。それも形振りの構わない危険な力を……。

 何をしでかすか分からない。あの妖魔の腕を見れば分かる。あれは人のする事ではない――。

「………。」

 ヒユネ様が危ない……。何を狙っているのかは分からないが、こちらに攻撃を仕掛けてきたのは、ヒユネ様を狙っている事は間違いないのだ。

「ん……?」

 その時、シクナは気配を感じ取る。

 背後を振り返ると、自分の影に紛れ込むようにして座敷童子が立っていた。

「座敷童子……。」

「………。」

 何やら不安げな表情で近寄って来る座敷童子。頭を撫でてやるが、不安な表情は変わらなかった。ただならぬ雰囲気を感じ取っているのだろう……。

「……。」

 妖魔と戯れていて思う。不思議な妖魔だ。これだけ人と接する事のできる妖魔はあまり居ない。

「他の妖魔も、お前のように仲良くしてくれると助かるのだがな……」

「………。」

 横になりながら遊び出す座敷童子にシクナが話し掛けるが、座敷童子は撫でられるのに心地良さそうで耳に入らない様子だった。

「人と仲良くするとさえ儘ならぬ……」

 息を吐くシクナ。どうすることが正しいのか、まるで分からない……。

 どんな道を選んでも、血が流れる選択肢しか見えてこない――。

 八方塞がりとはこの事か……。

 しかし、あの方は諦めていない。例えどんな理不尽な道でも、決して諦めていない。

 とてつもない重荷を背負ったまま、道を築こうとしている。誰もが傷付かない道を……。

「………。」

 何も応えない座敷童子。シクナも黙ったまま時間が過ぎていく。人がお互いに理解し合うのに、どれだけの言葉が必要なのか……。

 刃を交えることでしか、解決しない……。理解し合えない……。

 そのまま戯れていると、座敷童子が窓の外に目を向ける。

「なんだ……?」

 馬を連れて、兵士の誰かが運び込まれている。ザワザワと辺りが騒がしくなるのを感じる。シクナが立ち上がると、既に座敷童子の姿が消えていた。

「何があった?!」

 ザワザワと城の表に人集りが出来る。シクナも城を降りてその場へと向かう。

「怪我人だ!」

「妖魔に襲われた……。手傷が酷い……」

 周りに手当をする介護人が集まってくる。

「……!」

 シクナもその様子を遠巻きに見つめていた。

「怪我人はどこですか?!」

 ヒユネは急いで駆け付けた。城門の前で人集りが出来ている。

 その中心には倒れている兵士がいた。聞いたとおり手傷が酷く重症だった。

「……っ」

 ヒユネは急いで治癒の魔法を掛ける。すると、苦悶の表情で唸っていた兵士は、安らかな寝息へと変わった。これで一先ずは命に別状は無くなった。

「この怪我は……?」

 ヒユネが尋ねると、兵士の一人が答え始める。

「はい。報告にあった妖魔を見つけ、対応していたのですが、そこに別の妖魔が割って入り、さらに苛烈さを増して……」

 五人で妖魔の討伐に出掛けたはずが、二人が怪我をして、一人が重症の怪我を負っていた。五人でなければ、命が危うかったかもしれない。

「馬鹿な……。報告には、妖魔の数は一体だけしか確認されていなかったはず……」

 コウゲンが言う。土地神や精霊の知らせでも、妖魔の数は一体だけのはずだった。

 ヒユネはすぐに判断を切り替える。

「良くぞ生きて帰ってきてくれました……。ごめんなさい、私が見誤ってしまった……」

「ヒユネ様……」

 コウゲンが否定しようとするが、ヒユネは次の指示を出す。

「皆の者、集まって下さい。次の報告をします」

 その司令と同時に、ヒユネは各員に号令をかけた。



 すぐさま教官達と兵士が集められ、会議が行われた。

 ヒユネは全員が集まったことを確認し、顔を見据えると、自分が感じたまま静かに指示を出す。

「皆の者、これからは、これまで以上に警戒をする必要があります」

 そう述べ、ヒユネは全員に指示を出す。

「これからは、周辺の妖魔の調査にも戦力を注いでください。不足の事態を想定して」

 その言葉に、他の教官達が声を上げた。

「いけません、ヒユネ様! 今は敵の忍びを警戒する必要があります……!」

「必要以上に警戒しすぎてはいけません。皆の安全も重要です」

「し、しかし……!」

 主導師達が説得しようとするが、ヒユネは頑なまま説明する。

「敵は人だけではありません。先の見えない闇が……。嫌な気が強まっています……。何か良くないことが起ころうとしています。原因はわかりません……。今は、兵士の命が危うくなります……。今は民を……皆の命を守ってください」

「ですがヒユネ様、ヒユネ様が居なければ、兵士の治癒も出来ませぬ……!」

 必死にアズマが答える。ヒユネ様の精霊術を無くしては、この国は成り立たない。

「命が最優先です……。兵士の命はたった一つだけです……。それを蔑ろには出来ません」

 ヒユネの答えに、その場の全員が息を飲んだ。

「私の力不足です……。この先の事態も、まるで予見できません……。私は、心通を続けなくてはなりません……」

「ヒユネ様、少しお休みになってください……! あまり休まれぬまま心通を続けるのは、負荷が大き過ぎます……!」

 シラユエが進言するが、ヒユネは首を振る。

「大丈夫です……。兵が命を賭けて戦っているのに、私だけ戦わないのは不条理です……」

 その後も、どうにか説得しようと顔色を合わせる主導師達だが、ヒユネ意思は変わらなかった。

「……分かりました、ヒユネ様。強まる瘴気の対応に当たります……。ですが、城には最低限の護衛は置おきます」

「……ありがとう。皆も十分に気を付けてください。そして、絶対に命を落とさないでください。命が無くては、傷の治癒も出来ないのですから……」

 その言葉と同時に会議は終わった。




 会議が終えると、兵士達は任務を行うために話し合いと準備を進めるが、ウクロはヒユネの前で跪いて口を開く。

「ヒユネ様、恐れながら申し上げますが、索敵であれば忍びの役割です。我々を一人一人この笹澄に配置してくだされば、妖魔への対応も容易となりましょう」

 その言葉に、ヒユネは表情を固くする。

「単独での行動は危険です……自分を道具と扱うその考え方、改めなさい。軽んじて良い命などありません」

「なんと、ありがたきお言葉……。恐悦至極の身でございます……」

 頭を下げたまま身を引くウクロ。

 そして、そんなウクロにシクナが呼び掛ける。

「ウクロ、何をしておる。我らも任務に就くぞ」 

「私は……あの方のためならこの命など惜しくはない。あの方の糧になれるのであれば本望……」

 まるで話を聞いていないウクロに、シクナは呆れながら呼びかける。

「お前、さっきの言葉を聞いていたのか……? 命は大事にしろ」

「う、く……」

 言葉を聞かず、感動を噛みしめているウクロに、シクナは息を吐くしかない。

 まるで話を聞いていない。隠した顔の下を拝みたい所だ……。

 次にシクナは、他の主導官達と話をしているコウゲンの姿を見かけると、すぐに呼び掛けた。

「父上、これからどうなさいますか? 私なら一人でも出られますが……」

「それは頼もしい限りだが、そうも言っておられん……。敵は忍びと妖魔……。シクナ、お前はヒユネ様の警護に当たれ」

「大丈夫なのですか?」シクナが心配する。

「ああ。妖魔の調査には私達が出る。後の役目はお前に任せる。どうにも嫌な気配がするぞ、シクナよ……。」

 表情を険しくするコウゲン。

「そうですね……。私も嫌な気配は感じております……。」

 シクナも同意する。ただならぬ気配は、この城に居る誰もが感じているだろう。

「お前が指揮しろ、シクナ……。この城の筆頭となるべく、それを自覚するのだ。この城を支える次の柱となる覚悟を持て。今は城の兵達を支える者が必要だ」

「……はい」

 静かに答えるシクナだが、内心では不安で揺らいでいた。鬼の自分に筆頭が務まるのだろうか……。

 ヒユネ様のように……。全てを支える柱に……。

 ――あの方は、この州を背負っている。

 それがどれほどの重みなのかは、一目では判断が出来ない。例え何度見ても計れぬやも知れぬ。とても計り知れない重みだから……。



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