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鬼々時雨  作者: そうのく
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第四章


「………。」

 人が千人は軽く入れそうな巨大な礼拝堂が目の前に聳え立っている。大門を潜ると、外から見るよりも広々とした空間が広がっている。  丁寧な装飾品が並べられた巨大な礼拝堂。その中には花を咲かせた木々が並べられている。

 これが、日ノ本の国々で一番巨大な礼拝堂。

「………。」

 討士全員が静かにその礼拝堂の中へと入っていく。

 シクナ達も指定された場所へと並ぶが、既に隣には帳の兵士達がそこに居た。

「ふん、笹澄の者か……。相変わらず腑抜けた面だ……」

「む……?」

 その言葉に反応するシクナ。顔を合わせるや、帳の兵士達がそんな暴言を投げてくる。

「お前たちこそ、随分と緊張しておるようだが……? そんな無駄に威勢よく吠えて、気を張って……まるで何かに怯える子犬のようだぞ?」

「貴様……!!」

 帳の忍びが刀に手を掛け、シクナもそれに対応するように刃に手を掛けるが――。

「もう! 何をしているんですか!? ここは神聖な場所なのですよ! 争いは控えて下さい!」

 そこに現れたのは、白と赤の巫女の服を着た女性だった。整えられた自分の背丈ほどに長い黒髪を伸ばしている。しかし――。

「おお、咲曽祢さきぞねの巫女か。相変わらず小さいな。愉快愉快」 

 そうして、頭を撫でようとするシクナ。咲曽祢の巫女はシクナより大分小さい背丈のため、頭に丁度手が届きやすい。

 さらに威張るように威勢良く頭を出してくるため、どうにも手を置いて撫でたくなるのだった。

「頭を撫でようとしないでください……っ!」

 すぐさま抵抗のそぶりを見せる咲曽祢の巫女だが、どうしても撫でたくなる頭を突き出されると手を置きたくなるシクナだった。

 そんな揶揄う様子のシクナに、咲曽根の巫女は頬を波くらませる。

「すまんすまん、だが、あいつらもこれくらい可愛げがあればのう。同じ人でも獣は手に負えん」

「貴様ッ……!」

 シクナの言葉に激昂する帳の兵士だが、サヤが割って入る

「やめなさい、シクナ! すみません、咲曽祢の巫女様……うちの厄介者が……」

「いえ、分かってくれれば良いのです……。」

 着物を整え、ごほんと咳払いをする咲曽祢の巫女。そして、威厳を見せるようにして両者に言い放つ。

「ここは神聖な場所です! 日ノ本の人々の平和を願い、全国の兵士達を集める大卑弥様のご意思が分からないのですか!」

「お、仰る通りです筆頭巫女!」

 必死に頭を下げるサヤだが、シクナは逆に愉快そうに笑う。

「ふはは、その小さな図体で筆頭を務めているのだから大したものよ。堂々と胸を張るがいい。その方が大きく見えるぞ。人は器の大きさよ」

「あんたは目上の人に対して少しは敬語を使いなさい……!」

 蹴りを入れて頭を押さえ込んで詫びをさせ、シクナの耳を引っ張るサヤ。痛たたと呻きながらシクナは元の列へと戻された。

「ず、図体は関係ありません! 失礼ですよっ!」

 必死に背伸びをして顔が赤いまま抗弁する咲曽祢の巫女だが、やはり愛嬌があって良いと感じるだけのシクナだった。

「あんたは、堂々とし過ぎなのよ! 少しは礼儀を弁えなさい……っ!」

「いてて……耳が痛いぞ……。ふうっ……我は本当の事を言っただけだ……」

 サヤに引っ張られながらも正直に話すシクナ。

 まるで何かに怯える子犬だ。威勢よく吠え、牙を向き、敵意を剥き出しにする。

 人は、一体何に怯えているのだ――?

「……。」

 皮肉めいた笑みを浮かべるシクナ。人と言うのは、まったく不可解だ……。妖魔の方がよほど素直で分かりやすい……。

 そして、笹澄と帳の険悪な雰囲気は一度中断され、時間が経過する。

「………。」

 辺りが静かになる。開会の式が始まろうとしている。そのまま時間が経過すると、一人の女性が現れた。着物を羽織った女性は、ゆっくりと壇上へと上がって行った。

「皆、ようこそ集まってくださいました」

 静かに挨拶を始める壇上の女性。長い黒い髪をまとめて、白い花模様の着物を着た女性。顔を白い布で覆って素顔はあまりよく見えない。

「あの方が……」

 全国に名を知られている大巫女。数々の土地を救い出し、山の神や精霊の力を借りて、この地を作り出したと言われる大巫女、大卑弥ノおおひみのみことだ。

「この地は争いに満ちています。闇の影が落ちています。妖魔は今まで以上に力を付け、その影は人に牙を向いています。悲しみの雨は各地に広がるでしょう」

 大卑弥の巫女が話を続ける。

「人が手と手を取り合わなければ、明るい未来は開けません。この闇を振り払えません。人の絆が試される時です。人の可能性が計られる時です。この地では、出身も過去も関係ありません。今だけは、共に平和への祈りを捧げてください」

 大卑弥呼の巫女が挨拶が終えると、その場は拍手で包まれた。涙で目を潤ませている者も居る。

 そして、祈りの儀式が開始される。

「ぬ、ぐ……」

 思わず呻き声を上げそうになるシクナ。この正座をしたまま長時間祈りを捧げるという行為が、あまりに体に堪えるのだった。

「まったく耐え性が無いわねえ。そんなんじゃ巫女や修行僧の人にも笑われるわよ?」

「うぬぬぬ……」 

 他の人達は、ただじっと座って目を瞑ったまま静かに祈りを捧げている。それを見て信じ難い思いに駆られるシクナだった。

 このような責苦は、親父殿の説教の時くらいだろう……。

 しかし、この祈りは何か違ったプレッシャーが肩にのし掛かっているように感じられる。何か未知のプレッシャーが……。

「………。」

 そのまま静かに祈りを捧げ続ける兵士達。

 そして、一時間以上は祈りを捧げて、その儀式は終わった。

 終わりの合図が出ると、思わずシクナは息を吐く。いやはや、これは親父殿の説教と同じ程に辛い。

「みな、今日は集まってくれて礼を言います。本当に有難う」

 慈しむような微笑みを浮かべて礼を述べる大卑弥の巫女。

 あれほどの威厳を持ちながらも、礼を述べるその姿――謙虚な姿勢が印象に残る。

 しかし、どこか懐かしいような……まるで昔からずっと側に居たような存在だと、シクナは感じた。

 不思議な感覚だ。この感覚は……。

「……。」

 その言葉を最後に、大卑弥の巫女はその場を後にした。会場にいた兵士達は拍手でそれを見送っていた。

 そして、次の場所へと移動する。

「さて、次は検定試験だな」

 ウクロは時間を確認した。次は全討士の力を測定する試験がある。

 初めは、主に大巫女が州の選定した討士としての魔力の質などを確かめる検査だったのだが、次第に討士としての素質を確かめる試験も兼ねるようになっていた。

「………。」

 会場を移動するにつれて、ザワザワと辺りが騒がしくなる。討士の検定試験は色々と噂が立つのだ。

 まず最初に、魔力の質の検定が始まる。全ての討士の魔力を把握する大卑弥の巫女は、人智を超えていると言えた。

 審査員が現れ、集まった兵士達に指示を出す。それに応じるように兵士達は次々に試験を開始していった。

「では、次の魔術を」

「はい……!」

 指示された討士の魔術が放たれる。精一杯の魔術が、標的物に放たれる。

「………。」

 検査員が、魔術を測定していく。この検定試験で、その討士の資質が問われる。

 そして、中には大卑弥の巫女に認めて貰う為に国としての威信を掛ける者も存在した。

 言わば、これはその討士の強さ、素質、次世代を担う討士としての素質を確かめるものとなっている。その州の行く末や名誉にも関わる物ともなっていた。

「あの魔術は……」

 周囲の討士達は目を見張る。世にも珍しい魔術が行使される。複雑な複合魔術、それを行う討士が現れると、一斉に周りの取巻きが息を呑んだ。すぐにどこの州に属する討士かを調べられる。

「………。」

 次々に討士達の検定が行われる。次なる時代を切り開く討士に相応しいかを調べる為に……。

「………。」

 魔力の質や状態から、技能を見定めるこの試験……。

「では、次の討士。前へ」

「はい……」

 シクナの順番が回ってくる。審査場の前に立つシクナ。目の先には標的物が設置されている。それに魔術を行使して、その素質を測る。

「………。」

 目を閉じるシクナ。そして魔力を練り上げる。

 ――………。

 血が熱くなる。魔力が変化し、自分の一部である別の血が表に出てくる。

 湧き上がる衝動のまま、シクナは魔力を開放した。

 ――鬼火。

 シクナが手を翳すと、目の先に設置されていた標的物は瞬時に燃え上がった。

 普通の炎ではない、青白い炎で――。

「何だあの魔術は……」

 周囲に居た討士達は違和感を覚えた。それは討士の誰もが使う魔術とは違ったからだ。

「………。」

 勢い良く燃え上がる標的物。青白い炎は消える事なく燃え続けた。

「……では、次の魔術を」

「………。」

 検査員に言われた通り、シクナは治癒の魔術を施そうとするのだが……。

「すまぬ。我は精霊の魔術がちっとも使えないのだ」

 そう答えるシクナ。検査員は呆気に取られ、周りの討士達も驚いた様子でシクナを見つめていた。

 治癒の魔術は精霊の力を借りた魔術だ。治癒の魔法は様々な種類が存在するが、最も一般的とされている精霊の魔術が、シクナには使う事が出来なかった。

 自身でも理由は不明だったが……戦いの際には、鬼の力を使えば自然と回復する――。

「………。」

 そして、次々に行われる魔術の査定をシクナは終えた。

「………査定終了。下がってください」

 シクナにそう告げる検査員。周囲に居る討士達からは、ザワザワと不穏な雰囲気が漂っていた。シクナに怪しむような目が向けられる。

「ちょっとシクナ、どうして普通の魔術を使わなかったの!」

 査定を終えたシクナに、サヤは勢い良く詰め寄る。あのような行動は予想外だ。シクナは普通の魔術も行使することが出来たはずなのだ。

「大卑弥様は全てを見通すのだ。ならば、我の力がどのような物なのかをきちんと確かめて貰った方が良いであろう」

「だからって、あんた……」

 流石にあれはやり過ぎだと感じるサヤ。

 普通の魔術では無いと、感の良い討士達には見抜かれている。どんな疑いを掛けられてもおかしくはない。もし、鬼の力が露見したら……。

「相変わらず気味の悪い………。」

 その様子を見ていた帳の兵士は呟いた――。

 普通とは違った奇妙な魔術は、印象に残っていた。

 そして、審査は次々に行われ、審査の内容も移り変わって行った。

 



「さて、頂きます」

 最後に忍びや討士の技能検定試験を終えると、食卓を囲むシクナ達。豪華に並べられた料理を口に運んでいく。どれも一級品で、その土地で取れた新鮮な野菜で作られた、とても味わい深い料理が出されていた。

 大勢で食卓を共にするのは、皆が大地の恵みに感謝を忘れない事と、他の者達と仲良くなれるようにと大卑弥の巫女の計らいだった。

「おお……。流石は白里の特産品、野菜の品質も天下一品……」シクナはそう呟きながら食を口に運ぶ。

 大卑弥の巫女が築き上げた土地は見事な物だった。

「流石ねえ。土地神様との心交も出来ているから、水の質もいいのかしらねえ……」

 サヤも同じように驚きを口にしながら食を進めていた。

 この土地で取れる野菜や特産品など、どれもが土地神や精霊の加護に満ちていると肌で感じられた。出された水や山菜一つでその品質の良さが分かる。

「……。」

 しかし、同じ場で食事を口に運んでいるクレナイの表情は固い。意気揚々としているシクナを睨み付ける。

「サヤ……あのような勝手な振る舞い……。他の者に要らぬ疑いを掛けられた。やはりあの男は笹澄の討士に相応しくない」

 静かに話し掛けてくるクレナイに、サヤが応じる。

「過ぎた事は仕方がないわよ、クレナイ。大事にならなかっただけでも良かったわ……。もっと酷いことになるかと思ったけど……。」

 静かにそう返すサヤ。思い返す度にヒヤヒヤする。帳の討士と喧嘩になりそうになった時はどうなるかと思ったが……。

「ヒユネ様の名誉にも関わる……。あの男の勝手が笹澄に泥を塗るなど……」

 キツイ目線で睨みつけるクレナイだが、シクナはまるで気にしないまま食を続けるのだった。

「うむうむ、こちらは何の食材か……」

 そんな心配を気にもせず、食事に夢中で思わず声を上げそうになるシクナだった。

 まさにほっぺが落ちるとはこの事か。物珍しい食材が並べられ、口に運ぶ度に今までに無い深い味わいが広がる。

「………。」

 それにしてもと、シクナは隣の席を見る。隣では帳の兵士達が黙々と食を進めていた。豪華な食事だが、それを意に返さない沈着さだ。

 皆が仲良くなるようにとの催しのようだが……そんな雰囲気は微塵も感じさせない。

 ――まあ、身内でも険悪だが……。

 ふう、と息を吐くシクナ。先程から味方のくノ一から飛んでくる殺気が酷い。

 やれやれ、このような食事時くらい、気を緩めてはどうなのか。

「………。」

 それと同時に、自分が他の者とは違うことを自覚する。自分の鬼の血は……。


 鬼と人は分かり合えない。

 鬼と人は相容れない。

 鬼に出来るのは、牙を向くことだけ。

 鬼に出来るのは死を齎す事だけ――。


「……。」

 そんな昔からの言い伝えが脳裏に浮かぶ。自分と人には大きな隔たりがあることを自覚する。その所為で、自分は――。

 シクナはそのまま食を終えると、それで白里参りをすべて終えるのだった。

 全国から集まった兵士達が大卑弥の巫女の挨拶と共に帰りの支度を整える。

「では、帰るか」

「うむ」

 シクナ達一行は、帰りの準備が整うと、そのまま馬を走らせて白里の地を後にする。

 年に一度の一大行事は、何事も無く終える事が出来たように思えていた。




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