告白
ヤズデギルドが去ってしばらくすると、今度はパイロットたちがドヤドヤと入ってきた。
病室の大きさは学校の教室ほど、病床数は十以上もあるが、急に狭くなったように感じられた。
美女のバクークがギレアドのベッドに腰を下ろした。
身体に張り付いたパイロットスーツが、豊満な胸を強調している。
彼女が気の毒そうにいう。
「あらあら、強さがご自慢の隊長様が、ずいぶんしんなりしてること」
パイロットたちがどっと笑った。
ギレアドが足の先でシーツの中ほどを少しだけ持ち上げた。
「だれがだ。なんなら、今夜来て確かめるか?」
「あら、なら、お言葉に甘えようかしら。アドラー、あんた、今夜はやっぱり一人で寝なさいよ」
アドラーと呼ばれた痩身の男が「そりゃないぜえ。隊長、お体は大事にしないといけないっすよ」と、両手をあげた。
ギレアドが病室の入り口に立つ四名の歩兵を指した。
「とはいえ、あいつらがここをガッチリ守ってるからな。残念ながら、バクークが夜時間に侵入するのは不可能だ」
バクークが顔をしかめた。
「なんだって、あんな堅物どもがいるわけ?」
ギレアドが肩をすくめた。
「殿下の命令だ。リガちゃんは先日の暗殺犯に恨まれてる可能性があるからな」
バクークがリガを見てむくれた。
「新入りちゃんのために、あたしは隊長を我慢しないといけないわけ?」
「す、すみません」と、リガが頭を下げる。
バクークが苦笑いした。
「いや、冗談さ、冗談。あんたはできないなりに、この間抜けな隊長を守ったんだ。ゆっくり身体を休めなよ。おっと、間違っても、隊長といたすなんて考えない方がいいよ。あんたみたいなおチビちゃんじゃあ、体がもたないだろうからね」
また、パイロットたちが笑った。
しばらくすると、彼らも去り、病室のなかに静かさが戻ってきた。
リガもギレアドも眠った。
何時間かすると、夕食の時間になった。
さすがにこの日はヤズデギルドの毒見はなく。リガは看護士の少年が持ってきた病人食を食べた。
メニューは味気のない少量の肉と豆のスープだった。
ギレアドが「こんなんじゃ、治るものも治らないよ」と、抗議したが、少年は「先生のご指示です」と一蹴した。
やがて、夜時間になった。
歩兵たちが部屋を出て、扉の外での警備に切り替える。
しかし、昼間眠りすぎたのか、リガは目を閉じても一向に眠れなかった。
仕方なく、彼女は身を起こし、何となく窓の外を眺めた。
薄明かりに照らされた雪原には、不思議な模様が現れている。
熊の足跡ではない。リガの視力では限界があるが、どうやらキャタピラのあとらしい。サイズは、この母艦の十分の一ほどか。
いつのまにか近づいたのか、起き出していたギレアドが彼女のベッドに身を乗り出し、外を見つめた。
「辺境都市の見回り隊だろう。どうやら帝国圏に帰ってきたらしいな」
「それはおめでとうございます」リガは身を縮め、小さな声でいった。彼女に比べると、ギレアドはまさに熊のような大男だ。
ギレアドが苦笑いする。
「おーい、俺はリガちゃんみたいなお嬢ちゃんを襲う気はないぜ」
「いえ、別にそういうわけでは」そういいつつ、リガは心の中で、〝万一のときは、身体をお願いします〟と、ぼくに伝えた。
ギレアドが微笑みながら、彼女のベッドに腰掛けた。スプリングが沈む。
「しかし、そう構えられると、逆に興味が湧いてしまうな」
彼女がぴくりと震えると、あわてて手を振った。
「待て待て、リガちゃんの強さは知っている。殿下を狙った男を追い払ってみせたろう? 相手は短刀を持っていたのに、素手で。不埒なことは考えていないよ。女として興味があるんじゃなく、人として興味があるんだ」
リガがうさんくさげに目を細める。
「いや、本当だって。なにしろ、リガちゃんは、俺たち帝国市民とは全く異なる都市で生まれ、育った人間だ。聞きたいことは山のようにあるさ。たとえば詩だ。エスドラエロンでは、男は女にどんな詩を贈るんだい?」
「あいにく、わたしの生まれは放浪民で、エスドラエロンに流れ着いてからは奴隷でしたので、そういったものに触れる機会はありませんでした」
「うーん。なら、歌はどうだい? どんな歌が流行っていた?」
「う、歌ですか? すみません。歌もちょっと」
「そうか。それじゃあ、格闘術はどうかな。エスドラエロンの操縦士たちは、生身での戦闘訓練は行なっていたのかい?」
「それもあいにく。わたしが出入りできたのは、ゴミ捨て場だけだったので」
「なるほどなるほど。なら、リガちゃんはどこで格闘術を身につけたのかな?」
「格闘術だなんて。わたし、さっきは夢中で頑張っただけですので」
「リガちゃん。俺に隠す必要はないんだよ」
ギレアドが笑いながら、右手の〝小指〟をぴこぴこ動かした。
なんだ?小指がどうかしたのか?
そう考えたとき、ぼくの巨人脳が、リガの身体を操って、暗殺者と戦ったときの記憶を引っ張り出した。
リガはすでに思い当たっていたらしい。
〝ヴァミシュラーさん〟と、怯えた思念が来た。




