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豚人計画とリーク


いまとなっては、もう大昔のことのように思えるが、ぼくは、自社の創薬プロセスに深い懸念を覚えていた。


とはいえ、〝人豚計画〟を週刊誌にリークするのに葛藤がなかったわけではない。


会社からは良い待遇を得ていたし、友人である乃木沢を裏切ることにもなるからだ。


しかし、乃木沢に初めて人豚を見せられたときの体験は、あまりに強過ぎた。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


それは、社内倫理委員会の前日だった。


乃木沢が、「ぜひ、きみには先に説明しておきたい。頭の硬いじいさんたちを説得するには、俺一人じゃ足りないかもしれないからな」といって、深夜にぼくを招待したのだ。


研究棟内に作られた「肥育室」は、分厚いコンクリートで囲われた六畳ほどの部屋だった。壁の一面は強化ガラスになっており、研究員たちが豚の様子を観察しやすくなっている。


三頭の人豚たちは、光を落とされた部屋の中で、床に寝そべってまどろんでいた。


乃木沢が「こいつらは、じつに賢くて、大人しくて、かわいいやつらなのさ」と、いいながら電気のスイッチを入れる。


豚たちは、うっすらと目をひらき、ガラス面の向こうに立つぼくと乃木沢を見つめた。


途端に、豚たちは頭を振り回し、悲鳴のような声をあげ、蹄で強化ガラスを叩いた。


乃木沢が「なんだ? お前たち、突然どうした?」と、うろたえる。


豚たちは、助走をつけてはガラスに頭を打ちつけ始めた。強化ガラスが激しく震える。


乃木沢が、ぼくの肩を叩いた。

「なあ、誤解しないでくれ。知能は高いが、決して危険な生物ではないんだ」


「あ、ああ」


ぼくは、どうにか答えた。


人豚の外見は、たしかにふつうの豚なのだが、その顔には、人間としか思えない表情が浮かんでいた。


一際大きな衝突音とともに、ガラスにヒビが入った。ぶつかった一頭はその場に崩れ落ちた。脳震盪、いや、頭蓋骨が砕けたのか。血の泡を吹きながら四肢を激しく痙攣させている。


乃木沢が壁のボタンを操作すると、シャッターが降りて、豚とぼくとを隔てた。


乃木沢がいう。

「情緒不安定なのは夜に起こしたせいだ。それとも、薬の投与量が足りなかったかな」


「薬?」


「ダイニアリピブラゾールだ」

彼が白衣の懐から、パッキンされた錠剤を取り出した。


「我が社の鬱病治療薬じゃないか」


「実験動物に飲ませるのはどこの会社もやってることだ。マウスですら鬱になるんだからな。そうだ。もし、さっきので不安を感じたんだったら、一錠飲んでおけよ。きっと君にもよく効くさ」


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


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― 新着の感想 ―
[一言] そういうこと!?そういうことなの!?と思いながら読んで キイイイイイイもっと知りたい!!!ってところで本筋に戻っていくのでもうめちゃくちゃ楽しいです
[良い点] エグい [気になる点] 主人公の友人は本当に主人公を友人と認識してるのでしょうか…? [一言] なるほどいろいろわかってきたというか、これって豚だけじゃなくてってこと… 主人公も主人公だ…
[一言] 誰の細胞が元になったんでしょう…ね…? え?あ、そういう事⁈
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