希望
アリシャはぼくのコクピットの座面を外すと、なんらかの配線を切ったりつないだりした。
「わたしがあなたと精神感応ができないのは、わたしの適性の問題より、認証装置の問題だと思うのよね。ドストエフさんに固定されてるから、あなたが反応しないと思うのよ。だから、固定の度合いをちょっとだけ下げてみる。ドストエフさんにわからないくらいちょっとだけね」
彼女は座面を元に戻すと、緊張したおももちで操縦レバーを握った。
ぼくも緊張した。
ドストエフ以外の人間が動かすとどうなるのだろうか。
ハンガーのどこかで水滴がぽたぽたと落ちる音がしている。
外の吹雪がごうごうと唸るのが微かに耳に届く。
何も起きなかった。
アリシャは一心不乱に念じているが、ぼくは彼女を感じられないし、小指一つ動かない。
アリシャが操縦桿を放した。
「ダメかあ」といって天を仰ぐ。
そのときだった。
ぼくの指が動いた。
小指だ。
ほんのごくわずか、五センチほどだけだが、ぴくりと振るわせることができたのだ。
アリシャはなにも気づかず、がっくりしたままハンガーの電気を落として家路に着いた。
ぼくは生暖かいプールにつかりながら、かすかな希望に身を委ねていた。
いや〜
誰にも読まれないだろうとは思っていましたが、ここまでとは……!!