世界建造伝承
3000年!?
この世界の一年が何日なのかは知らないが、ヤズデギルドやリガたちの〝1日〟がほぼ24時間に設定されていることからして、おそらく、ぼくの世界の一年と大差ないだろう。
ぼくはそんなに長く生きるのか?
いや、いまのヤズデギルドの話だと、〝最低〟でも3000年だ。
一万年、二万年生きてもおかしくない。
戦闘で殺されない限りは、だが。
ぼくが考え込んでしまったために、リガは自分で話の穂をつぐしかなくなった。
彼女が尋ねた。
「巨人は誰が作ったのですか?」
ヤズデギルドが驚いたようにリガを見た。
「エスドラエロンには〝聖なる書〟がなかったのか?」
ちょうど、ヤズデギルドの執務室に着いた。
護衛二人が扉の前に立っていた歩哨と任を交代し、ヤズデギルドとリガだけが部屋に入る。
ヤズデギルドは「ちょっと待て」とリガにいうと、執務机の引き出しをガサゴソあさり、奥の方から薄く、白っぽい板を取り出した。
焼結させた粘土板らしい。四十センチ四方ほどで、厚みは一センチくらいか。表面には着色された細かな絵がびっしりと描かれている。
彼女は板をダイニングテーブルに置くと、左上の絵を指した。
歪んだ丸が描かれている。
ヤズデギルドがいった。
「伝承によれば、神がこの世を作ったとき、この世の表面は、まっ平らで、空は闇に覆われていた」
ヤズデギルドは次の絵を指した。
丸のなかに、小さな丸がある。
「そこで、神は太陽を作った」
さらに次の絵を指す。
大きな丸の中に人型の影が描かれている。
「神は巨人を作った。巨人たちは神とともに山を作り、丘を作り、海を作り、土を作り、世界をいまの形にした」
次の絵では、巨人の影の下に、さらに小さな人が描かれていた。
「そして、最後に人を作った」
もちろん逆だろう。
この世界を作ったのは人間だし、巨人を作ったのも人間だ。
船がガタンと揺れ、窓がカタカタ鳴った。
ガラスの向こうでは、現代アートのような形をした、超構造体の大山が少しずつ遠のいている。
神話に一分の事実が含まれているなら、巨人は重機として製造されたのかもしれない。
しかし、重機ならば、やはり足回りはキャタピラの方が効率がよくはないだろうか。
半生体式にする意味もわからない。完全な機械の方が、出力がずっと上のはずだ。
リガがいった。
「神様は、いまどこにいるのですか?」
「わからない。世界を作り終えて消えたという話もあれば、太陽の中に住んでいるという話もある」
「では、神様に会うことはできないのですか?」
ヤズデギルドがテーブルを軽く叩いた。
「それだ。神に会うのは無理だ。だが、神の声を聞くことはできる。巨人だよ。我が帝国では、神は皇帝機を通して、最高神祇官たる皇帝に語りかけるとされている」
〝ヴァミシュラーさんは神様なのですか?〟
〝ぼくはただのサラリーマン、雇われ人だ〟
ヤズデギルドがいう。
「聖なる書は、あくまでお伽話だが、わたしは巨人には〝何か〟があると考えている。そうでなくては——いや、ともかく、わたしは〝何か〟を突き止めたいのだ。
リガ、わたしはお前の話を信じる。ここしばらく共に暮らして、よくわかった。お前は心優しく、嘘のつけない娘だ」
彼女がリガの手を取った。
「わたしにお前の力を貸してくれ」
リガが小さく震えた。
「それは、やぶさかではないのですが。どうすればよいのでしょうか? わたしは巨人に乗せてもらえないわけですから」
「心配は無用だ。明日、ギレアドのもとで操縦士見習いとする。毒見は続けてもらわざるを得んが、食事以外のときは、操縦士として働いてもらう」