不老生命体
〝山が、降ってくる?〟
リガから困惑の感情が伝わってきた。
〝意味がわからないのですが〟
〝隕石っていうんだ。ぼくの住んでいた地球じゃ、たまに空から石が降ってくるのさ。この山は、規模は違えど隕石と同じだよ。これが地面に大穴をあけて、海を作ったんだ〟
〝その、降ってきたって、どこからですか?〟
それが問題だ。
なにしろ、この世界はダイソン球なのだ。
外宇宙から隕石がやってきたとしても、ダイソン球にぶつかったなら、地殻は内側に凹んで、巨大な山を作るはずだ。
しかし、目の前のこいつはどう見ても上から降ってきたとしか思えない。
ダイソン球の内部空間に、建材の残りが漂っていたとでもいうのか。
ぼくはリガにうまく答えることができなかった。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
艦内にベルが鳴り響いた。
昼時間が終わったのだ。
夜チームがぞろぞろと艦橋に上がってくる。
ヤズデギルドが艦長にいった。
「今日も順調だったな」
「はい。この調子なら、予定より早く帝都に到着できそうです」艦長が、ごくわずかだが笑顔らしきものを作った。「おめでとうございます。殿下が皇位につかれるのは、間違いございません」
「帝都に戻るまでに殺されなければ、な」
「殿下ほどの英雄が殺されるなどありえません」
「わたしは英雄などではないさ」
ヤズデギルドがリガに向かって手を振った。
リガはヤズデギルドについて、艦橋から降りた。
護衛兵二人が合流し、あとに続く。
狭く、入り組んだ通路を進む。
ヤズデギルドがいった。
「そういえば、さきほど伝声管から報告があった。お前の巨人だが、今日も操縦実験は失敗したらしい」
その通り、ぼくは二人のパイロットに〝胃痛〟のイメージを送りこんで、ぼくのなかから御退出願った。
もちろん、リガにそのことは伝えてあったが、彼女は「そうなのですか?」と、素知らぬ声で答えた。
「じつに不思議な巨人だ。たしか、お前は、巨人の声が聞こえるといっていたな」
「そんな風な気がするというだけです」
すれ違った歩兵二人がヤズデギルドに敬礼し、ヤズデギルドが返す。
「それで、どんなものなのだ? 巨人の声というのは。巨人はどんな性格をしているのだ? 男なのか? それとも女なのか?」
「男性です。年齢は二十代半ばだといっています」
ヤズデギルドが笑った。
「それはまた、ずいぶんと若いのだな。使い古された機体に見えたが」
ここで、ぼくはリガに台詞を送り、リガはそのまま口にした。
「ふつうの巨人は何歳くらいなのですか?」
「なんだ? エスドラエロンはカレイキャクは教えるのに巨人については教えてくれなかったのか? 巨人に年齢などない」
「年齢が、ない、ですか?」
「巨人は不老不死だ。少なくとも、帝国の歴史が始まって以来、事故や戦闘行為以外で死んだ記録はない。わたしの知る限りで最古の機体は〝皇帝機〟だ。これは、古王国の王たちに受け継がれてきた機体であり、その前、共和国時代の最高指導者たちの専用機でもある。それより前は、歴史の闇の中だが、軽く三千年は生きている」