超構造体vs超構造体
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母艦の装甲の一部が開き、中から巨人が一機、外に出た。
艦橋に下がったヤズデギルドやリガ、艦長が、その様子を窓から見守る。
巨人は凍結した海の間際で立ち止まると、手にしていた巨大な槍の石突で氷の表面を突いた。
激突音と共に、表層にヒビが入り、数十センチはあろうかという氷のカケラが四方に飛び散る。
巨人は、二度、三度と突きを繰り返した。
艦長が古びた望遠鏡で覗きながらいった。
「破砕痕から見て、氷の厚みは問題ありませんな」
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角のように突き出た氷の板を踏みしだきながら、母艦は海の上を爆走していた。
ヤズデギルドは艦橋で艦長の隣に座り、大きな粘土板に描かれた地図を睨みながら、何か話している。
船員たちはハンドルを握り、距離計のようなもので何かを観測し、伝声管を使って船の出力についてエンジンルームの技師たちとやりとりしていた。
みな、忙しそうに働いている。
暇なのはリガ一人だ。
彼女は艦橋の隅で、することもなく外を眺めていた。
いまや大氷原となった海が、ゆっくりと右から左へと流れていく。
氷原の向こうには、母艦が通り抜けてきた山岳地帯がそそり立っていた。
それにしても、奇妙な形状の山々だ。
海のそばから、凄まじい角度でそそりたち、呪われた悪夢のようにとんがり、曲がり、ねじれている。幼児が出鱈目にこねて、途中で放り出したらこんな感じだろうか。山岳地帯の入り口では、多少違和感はあったものの、ここまで酷くはなかった。
それに、この海の形状。
艦長がいっていたように、真円なのだ。
まんまるな海を高い山が取り囲んでいる。
ふつう、海や湖を〝作る〟なら、もう少し自然に寄せるものではないだろうか。
このダイソン球の設計者は何を考えていたのか。
答えが明らかになったのは、海を渡り始めて五日が過ぎたころだった。
前方に、巨大な山が現れたのだ。
海の対岸についたわけではない。独立峰が、氷原から天をつかんばかりにのびあがっている。
リガの目で見る限り、高さは四千メートル以上ーーぼくが肉眼で見たもっとも高い山は、東海道新幹線の車内から覗いた富士山、3776メートルだ。目の前の山は明らかに、富士山をはるかに上回っている。しかも目視できる部分だけで、だ。上の方は雲に隠れて見えない。
形状が、また不可思議だった。
塀に使うコンクリートブロックを斜めに切ったような形をしているのだ。二枚の巨大な板と、それをつなぐ複数の短い板。板といっても、その厚みは十数キロはあるだろう。
艦橋にあがっていた老将ヘブロンがいった。
「初代太陽皇帝の伝説どおりですな。海の中程には〝神の山〟がある。ここで聖剣を作るための〝神の鉄〟を手にしたという」
ヤズデギルドが頷く。
「惜しいな。時間さえあればわれわれも神の鉄を探せるものを。だが、いまは前進だ」
艦長が指示を出し、母艦は山を迂回し始めた。
近づくにつれて、〝神の山〟は異様さを増した。
ところどころ、山肌から岩棚のようなものが突き出ているのだが、明らかに物理法則に反しているのだ。長さ数百メートルはあろうかという棒状の岩が、幅たった数メートルの接地点でくっついている。アロンアルファで無理やり接着したようだ。
この山は、まちがいなく〝超構造体〟だ。
破壊不可能な物質だからこそ、こんな不自然な形状でも崩れないのだ。
そして、超構造体をここまで破壊できるのは、同じ超構造体しかない。
〝これだと思う〟ぼくは思念でつぶやいた。
窓に張り付いているリガが〝なにがですか?〟と返した。
〝この海を作ったのは、目の前の山だ。これが空から降ってきたんだ〟