陸上戦艦で海を渡る冴えた方法
リガがいった。
「それで、教えてくださらないのですか?」
「ああ、そうね」ギレアドがブーツの先で、雪原に楕円を描いた。「今回の遠征は、帝都を発って、こんな風に進軍している」
彼は楕円の四カ所を、つま先でちょんちょんちょんとつついた。
「山上都市リコメディア、移動都市ザッカドにカーロン、そして君が囚われていた城塞都市エスドラエロンだ。ザッカドとカーロンが難題でね。なにせ、この船のように動き回ってる連中だ。計画では、捕捉しきれなければ、この二つは諦めるということだったんだが、殿下はひたらすら追い続けた。
行程の遅れを取り戻す策はあったんだよ。それが、この〝海〟だ。伝承によれば、〝山〟を起点に帝都から六時の方向、10000以上の距離にある水の塊だ。初代太陽皇帝は、凍った〝海〟の上を進撃したらしい。
いまは太陽皇帝の時代より、ずっと寒い。
俺たちが行軍できる可能性は十分にあった。
結果はご覧の通りだが、誰も殿下を責められやしないさ」
老将ヘブロンがいった。
「ギレアド、お主、さきほどから蛮族相手に何をつぶやいておる! 場をわきまえよ! 仮にも騎士たちの長であろうが」
「は!」ギレアドは敬礼したが、片方の目でリガにウインクしてみせた。
痩せぎすの艦長が、深く息を吐いた。あまり白く煙らない。
「いずれにせよ。進路を変更するしかないでしょう。問題は右と左、どちらから回り込むかです。伝承によれば、〝海〟は真円。ちょうど真ん中にいるのでない限り、誤った方向を選べば、時間を大きく無駄にします」
艦長の言葉をきっかけに、ヤズデギルドと、操縦士・歩兵・船員のそれぞれの長は額を突き合わせて意見を交わし始めた。
艦長がいう。
「右も左も人跡未踏、おまけに、こうも山が迫っていては岸沿いに進めるとも限りません。〝皇帝の道〟を辿れないなら、いっそ引き返すことも検討すべきでしょう」
「そのようなこと、できるものか。帰還がどれほど遅れることか」と、老将ヘブロン。
「食糧や巨人の再生素材が尽きかけているのをお忘れなく。ここは艦長のいうように、〝果てのない平野〟まで戻って、どこかしらの都市を狩るべきでしょ」と、ギレアド。
ヤズデギルドが腕を組む。
「苦しくなってきたな」
リガは距離をとりじっと海を見つめた。
海面は魚一匹跳ねない。
ただ、静かにそこにあるだけだ。
リガは支給された手袋をはめた手で、顔をぱしぱし叩いた。血液を通わせ、凍傷を防いでいるのだ。
〝あの人たち、寒くないんでしょうか?〟と、彼女。
〝じきに艦内に戻るさ〟ぼくはいった。〝ただ、右も左も、後退も間違ってるけどね〟
〝どういうことです?〟
〝たぶん、彼らは海の上を行軍できるよ〟