無垢な巨人が見る夢は
ぼくとリガの心臓が止まった。
いや、少なくともぼくの肉体はほんとうに不整脈を起こしたらしい。ぼくの肉体につながれている機械がバオバオとしまらない警告音を奏でると、格納庫の隅で毛布をかぶって寝ていた〝助手〟がすっとんできた。
二十歳ほどの気弱そうな青年だ。つなぎの服は、巨人の血や装甲の継ぎ目にさす油で汚れまくっている。彼は通路に据え付けられた計器類をチェックして首をかしげた。
それから、格納庫と居住ブロックをわける扉から〝先生〟が駆けてきた。風呂に入っていたのか、上半身裸で、タオルを首からかけている。
「どうした? いまのはなんだ?」と尋ねる。
助手が頭をかいた。
「蛮族の機体の脈が乱れたようです。ただ、原因がわからなくて」
「なんだ、夢でも見たんだろう」
「まさか。わたしは起きていました」
「そういう意味じゃあない。そこの巨人が夢を見たっていってるんだ」
「まさか。巨人は無垢な存在です。話さず、感じず、考えず。心がないのに夢だなんて」
「帝都の学校じゃ、そう教わるんだろうがな。こいつらと触れ合っていればよくわかる。巨人の頭の中には〝なにか〟があるんだ。この蛮人の機体からは、とくにそれを感じる」
「それでは、どう対処すればよいのでしょうか?」
〝先生〟が、ぶるりと震えてくしゃみをした。たくましい二の腕で鼻をこする。
「ほっとけ。お前もさっさと寝るんだな。俺は風呂に入りなおしだ」
格納庫で二人が話している間、ヤズデギルドの執務室では耐え難い沈黙が続いていた。
リガもヤズデギルドも石のように固まっている。
ぼくはリガの心に呼びかけた。
〝いいか? こういうんだーー〟
リガが椅子から立ち上がった。
「失礼いたしました殿下。こちらの石板が崩れそうでしたので、さしでがましいとは思いつつも、整えておりました」
ヤズデギルドの表情が緩んだ。
「そうか。ならよい」
彼女は執務机に近づくと、粘土板の一つを手に取った。手のひらでグイグイと文字をならすと、指で文字を描く。
書かれた言葉は次のようなものだった。
『お前がわたしを殺そうとしていることは、知っている』
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