混浴母艦
リガは若い男の兵士に案内されて、格納庫のすぐ脇にある「共同浴場」に通された。
兵士が鉄の扉を引くと、すぐに脱衣所だった。
扉の脇にゴツいブーツが綺麗に並べられている。
足元は傾斜のついたタイル。
鉄の網棚が壁際に並び、十人ほどの半裸の男女が服を着ようとしていた。
彼らが一斉にリガを見た。
大柄で筋肉質な女ーー左胸に青い紋様付きーーがいう。
「おいおい、ウル。なんで蛮人の子供なんて連れているんだ?」
ここまで案内してくれたウルが肩をすくめる。こうして見ると本当に若い。リガやヤズデギルドとたいして変わらないだろう。十二歳前後か。
「さっき、ぼろぼろの機体が〝先生〟のところに来たでしょう? あれの操縦士ですよ」
「まじで? このガキが? で、団長はなんで始末しないんだ?」
「全部を聞いたわけじゃありませんが、この子しか操縦できない機体なんだとか。ギレアド様が操縦しようとしたものの、吐き気を催して動けなくなったようです。団長が乗っても無理でした」
脱衣所の面々がざわついた。
「まじかよ。団長に動かせない機体?」と、片方の耳がない男がうなった。この男は右の二の腕に紋様がある。
五分刈り頭の男が額を叩く。
「それじゃあ、このお嬢ちゃん、今日から俺たちの仲間なのか?」
「違います。団長はまず毒見係に据えられました。信用がおけるまでは巨人には乗せないそうです」
兵士ウルはそういうと、リガの肩を叩いた。
「さあ!さっさと入ってくれ。ぼくも暇じゃないんだ」
リガが身を縮こめた。
「その、男の人がいるんですが」
「そりゃあ、いるさ。ここは軍艦なんだ。帝都の公衆浴場みたいに男女に分けるはずがないだろう」
「で、でも」
「早くするんだ!」
さきほどの女兵士が笑った。
「お嬢ちゃん、そいつはあんたに嫉妬してるのさ。ずっと殿下の侍従に志願しているのに聞き入れてもらえない。なのに、あんたはあっさり殿下のそばにいることになった。それが気に食わないのさ」
「違いますよ。ぼくは団長の命令を全うしたいだけです」
兵士ウルが網棚の下にあった背の低いロッカーを漁った。奥の方から服とタオルの束をとってリガに投げる。
彼女はどうにかキャッチした。
ウルがいう。
「裸を見られるのが嫌なら、なおさら早く入るんだね。いまは十二番隊と十三番隊の間だ。もうじき十三番隊が来るよ」
リガは彼を睨んだ。
「ご忠告ありがとうございます」
彼女は意を決すると、手早くコートを脱ぎ、インナージャケットを脱ぎ、シャツを脱ぎ、下着を脱いだ。
「では」リガは唖然としているウルに一礼すると、兵士たちの間をすり抜けて風呂場に入った。