表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/172

脳を支配する卵

ヤズデギルドは頭を振ると、ぼくのコクピットから出て胸部装甲に座り込んだ。


老将と〝先生〟が傍にしゃかむ。


老将がいう。

「殿下!? いかがなされた?」


「少し頭痛がしただけだ。大事はない」

ヤズデギルドはこめかみを指でさすりながら、通路の手すりに縛られているリガを見た。


リガもヤズデギルドを見つめ返す。


二人の視線がぶつかりあう。


ヤズデギルドがぼくの装甲を叩いた。

「先生、この機体のハッチは封印するんだ。操縦士を試乗させる時以外は、決して開けるな」


老将が白髭をかいた。

「あの娘をそこまで警戒なさるなら、やはり処分したほうがよいのではありませんかな?」


「だからこその毒味役だ。さきほどの戦いで山の民を何人か生かしておけばよかったが、あいにく全滅した。次に捕虜を得るまで、毒見役なしというわけにもいかないし、かといって兵にそんな役割は回したくない」


「それでも、気が進みませんなあ」


「〝枷〟があるのだ。そう心配するな」


枷?あまりいい予感はしない言葉だ。


リガもぼくの聴覚を通して、二人の会話を聞いている。

ぼくは彼女の不安を感じ取った。


リガもぼくが彼女を心配するのを気取ったのだろう。


思念で〝わたしは大丈夫です。ヴァミシュラーさんの血をいただいて以降、とても調子がいいんです〟といった。


リガは嘘が下手だ。というか、ぼくたちが嘘をつくのはかなり難しい。なにしろ、互いの心象を感じ取れるのだから。


リガ自身もそれを悟ったのか、本音をいう。

〝すみません。ほんとうは怖いです〟


ぼくは同意の念を送った。

〝とにかく、いまは待とう。君しかぼくに乗れないと納得させられれば、風向きも変わるはずだ。このあとに乗ってくる操縦士は、全員嘔吐してもらうさ〟


リガが小さく笑い、それから複雑そうな顔になった。


〝ヴァミシュラーさん。なんで、ヤズデギルドを殺さなかったんですか?〟


ぼくは正直に答えた。


〝わからない〟


そう、ほんとうにわからないのだ。


リガが頷く。

〝ヴァミシュラーさんも本気だったことはわかってます。


でも、ヴァミシュラーさんにはできなかった。

きっと、わたしのせいです。


ずっと思っていました。敵討ちはわたし自身がやらないといけないって。ヴァミシュラーさんと一つになってないときに、ヴァミシュラーさんに代わりにやってもらってはいけないんです。


そんな気持ちが、ヴァミシュラーさんを邪魔したんだと思います〟


リガが唇を結んだ。


〝大丈夫。お姉ちゃんの仇はわたしが一人でとってみせます〟


いや、たしかにヤズデギルドはリガよりも一回り小さい。

が、リガと違って軍人だし、まわりはみんなヤズデギルドの部下だ。

そんな状況で、病弱なリガが、単独でヤズデギルドを討つ?


ぼくが何かいい手はないかと考えていると、兵士が一人、盆に乗った箱を手にヤズデギルドに近づいてきた。二十センチほどの立方体だ。表面には皇帝の身体にあったのと同じような紋様が彫られている。


ヤズデギルドが「ご苦労」といって受け取る。

彼女が箱の上面に手のひらを当てると、四隅にあったロックが外れた。

蓋が開く。


箱の中身は、二つの球体だった。

うずらの卵ほどの大きさで、一つは真っ黒、もう一つは真っ白だ。

それぞれの卵のてっぺんからは、何本もの鞭毛が生え出し、うにうにと動いていた。


生きているのだ。


ヤズデギルドが白い方をつまみ上げると、後頭部で結んでいる髪を持ち上げ、自分の頭皮に押し付けた。


卵は、鞭毛を彼女の頭蓋に突き刺し、ぬるりと髪の中に隠れた。


ヤズデギルドが黒い方をつまみあげると、箱を持ってきた兵士と老将がリガの身体を押さえつけた。


ヤズデギルドの手の中の黒い卵が、ぶるぶると震える。


彼女がいった。

「これは〝枷〟と呼ばれる生命体だ。巨人と同じように、失われた技術で作られている。機能は単純で、〝白い卵の宿主の身体状況が、黒い卵の宿主にも反映される〟それだけだ。たとえば、白い卵の宿主が街で転ぶ。すると、黒い卵が相手の脳にまで届いている尻尾から〝苦痛〟を放つ」


老将がいう。

「光栄に思うがいい。お前はある意味、姫さまと命を同じくできるのだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 両手持ちで思考が混ざってる所が大好きです(合掌) 巨人と繋がると狂うという現象も、戦闘の度に激痛を味合わせた結果だとすれば自分達のせいだと誰一人気付かない所がいかにも人間らしい。 話の細部…
[一言] 主人公は体を作ってくれたお姉ちゃんの仇を妹ちゃんととる権利はあるだろうな、体が無かったらあの爆発で死んでたんだし
[一言] リガちゃんより小さかったんかいヤズちゃん(ノ∀`) この世界作ったヤツら、バイオ技術発達させ過ぎやん でもモンスターは居ないんだねぇ 野生化したバイオ兵器とかよくあるパターン 謎な世界だ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ