情け深く切って捨て
リガが、老人と若い騎士を見た。
若い騎士が頭をかく。
「おいおい、なにか勘違いしてやいないか? 俺たちは君を慰み者にしようってんじゃない。そういうのは、ここじゃ御法度なんだよ」
ヤズデギルドが横目で若い騎士を睨む。
「ギレアド、女子供を無為にいたぶることは全軍で禁止されていることだ」
「は、失礼しました」若い騎士が背筋を正す。
ヤズデギルドがいう。
「とはいえ、我らも熱が惜しい。人は息をするだけでも熱を消費するのだからな。小娘、貴様が、我ら三人の熱を無駄にするなど許されないことだ。身の証を立てる気があるなら、さっさと脱げ。ないなら、それなりに処分するまでだ」
「は、はい」
リガが立ち上がった。
薄汚れたコートのボタンを外し、床に落とす。胸元の紐をほどいてインナージャケットとシャツを脱ぎ、つぎだらけのズボンを脱ぐ。
「もっとだ」とヤズデギルド。
リガは、怒りと恥ずかしさに身を震わせながら、もこもこした素材の下着を外した。
姉の仇が目の前にいるのに、手を出すこともできず、裸になるのを強要されているのだ。彼女の小さな身体の中は暴風が荒れ狂っている。が、表に出さず、どうにか隠し切っている。
リガが胸元と股を手で覆う。
ヤズデギルドが目を細めた。
「両手をあげて、その場で回れ」
リガがよたよたと回転する様子を、三人はじっと見つめていた。
ヤズデギルドがいう。
「ないな」
老人がうなずく。
「たしかに。肌に〝印章〟がありませんな。このものが身分外の者だというのは嘘ではなさそうですなあ」
〝印章〟、ぼくは、ぼくの乗り手だったドストエフのことを思い出した。彼や恋人だった市長の娘は、肌に青い刺青が入っていた。あれのことか?
「して、どうなされます?」と、老人。「もし、このものが本当のことをいっておったとしても、わざわざ帝国臣民でもないものを軍団に加える必要はありますまい。所詮は蛮族の娘。情け深く切って捨て、巨人だけ接収するのが無難なのでは?」
「ふむ」
若い騎士が手を挙げる。
「俺は反対です。われわれには操縦士が少ない。巨人の操縦は精神力を使う。理想的な運用は、巨人一機につき乗り手二名だ。たとえ蛮族でも、協力する気があるなら、使えばいいでしょう」
「栄光ある帝国軍に、蛮族をいれるなど許されん」
「何事も使いようですよ」
ここだ。ぼくは思った。こういう流れになるのは目に見えていた。リハーサル通りの言葉をぶつけるのはいましかない。
ぼくの合図でリガが胸と股を押さえたままいった。
「あの巨人は、わたししか動かせないと思います」
三人がリガに目線を戻した。
老人がリガをにらむ。
「いちいち口をはさむな。お主のような蛮人が巨人を理解できるものか。お主は巨人との一体化を特別なものに感じておるに過ぎん。未熟な乗り手によくあることよ」
「でも、本当なんです」
「まだいうか?」
ヤズデギルドが首を横に振る。
「万一、この娘のいうことが本当なら、この娘を処分することは、巨人一機を失うことにつながる。確認が必要だな。ほかの乗り手を操縦席に入れるんだ」