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巨人解体新書

二度目の戦闘は悲惨の一言だった。


都市を襲撃したのは6機の巨人で、応戦に出たのもぼく含め6機だった。


吹雪は前回以上にすごく、視界はほぼゼロ、それぞれが出鱈目に歩き回って、遭遇した敵とがちゃがちゃやりあうという、戦術性のかけらも無い戦いだった。


ぼくはドストエフの意思の元、小太り体型の巨人と組み合い、雪原の上を転がり回った。


小太り巨人はぎくしゃくした動きで斧を振り回し、刃がぼくの右腕の付け根に食い込み、そのまま一気に切断した。


激痛が爆発した。

ぼくは文字通り声にならない叫びをあげた。


だが、ドストエフは多少顔を顰めただけで、何事もなかったかのようにぼくを操り続けた。


ドストエフの意思はぼくを縛り、彼の感情の一部はこちらに流れ込んでくるが、こちらからの流れは途中で堰き止められているようだ。


ぼくの肉体は残った左腕で腰からナイフをぬき払った。


相手に飛びかかり、胸元に刃先を突き立てる。


刃先がほんのわずか、装甲のなかに沈んだだけなのに、敵は動きを止めた。


どうやらコクピットのなかのパイロットを潰したらしい。


ドストエフは「よおし!」と叫ぶと、ぼくをふたたび吹雪のなかに突っ込ませた。


ぼくはさらに二機と遭遇し、側頭部を削られ、前回も負傷した右脇腹をまたしてもえぐられた。


ぼくは心の中で悲鳴を上げ続けた。


吹雪が止んだ時、敵六機のうち四機が骸と化し、二機は逃走していた。味方は二機が破壊され、四機負傷という結果だった。


戦闘後、また、城門からわらわらと人々が出てきて、転がっている敵の機体を切り刻んだ。装甲を取り外し、肉を部位別に切り分け、ソリに乗せて場内に運び込む。


最悪なことに、ドストエフはぼくに解体を手伝わせた。


ぼくは片腕に持ったナイフで遺体を切断するはめになった。吐き気が止まらない。骨をごりごりと削る音が脳内に染み込んでくる。ドストエフたちにとっては鯨をばらすようなものなのかもしれないが、ぼくにとっては人間をばらすような感覚だ。


カエルの解剖すらしたことがないというのに!


あまりの悍ましさに意識が飛びそうだった。

スプラッタホラー映画の世界に飛び込んだかのようだ。


だが、収穫もあった。


巨人の構造がわかったのだ。


巨人のベースとなっているのは、文字通り人間そっくりの巨大生物だ。その皮膚の上にゴム状の第二の皮膚とでもいうべきものが貼り付けられ、さらに柔軟性のあるプラスチックのようなものや、チェーンメイルなど、薄手の装甲が幾重にも重なっている。最後に武者や騎士のような装甲が取り付けられている。


凍結対策なのか、硬度の高いものでも金属製の部品は少なく、セラミック類が使われている。


中身の巨人はやはり人造生命なのだろうか、切り開かれた胸郭のなか、心臓表面にはこちらの言語でナンバリングがほどこされていた。内臓の構造は人間に似ているが、消化管の入口は食道ではなく臍の位置にあった。また、消化管の出口は見当たらなかった。摂取したものは100パーセント利用できるのか。


体内には神経と思しき青い紐、いや、コードのようなものが所狭しと這い回っている。人工物のようにも見えるし、生物由来のようにも見える。


ぼくは片腕で機能のよくわからない内臓を切り出し、どんどん体外に並べた。


待機している人々が、ノコギリや馬鹿でかい包丁でそれをさらにバラシ、橇に積み、都市のなかに運んでいく。


5、6人の若い男が、手動ポンプらしきものを胸郭内に突っ込んだ。赤い血液を汲み取っていく。血はドラム缶的な容器に溜め込まれた。


この都市の住民は獲物は無駄にせず、血の一滴すらも活用するらしい。

巨人は、元の世界の鯨に近い存在らしい。


右腕の苦痛はいつの間にか薄れていた。

ようやく眼前の惨状に慣れてきたのか、怖気もなくなってきた。


解体作業は順調に進み、肺らしきものを取り出した後、ぼくの手は、喉の少し下に位置するコクピットらしき出っ張りを掴んだ。


とたんに恐怖が戻ってきた。


頼む。やめてくれ。見せないでくれ。


そのなかには、ぼくが殺した人間が入っているんだ!


だが、ドストエフは容赦なくハッチを開かせた。




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