ゴリマッチョメガネ
ぼくは帝国の巨人の手で、〝母艦〟の格納庫に運び込まれると、空の再生槽にゴロリと転がされた。
都市のものに比べると、湯船はずいぶん深い。
底にはパイプの類が縦横無尽に走り回っている。
天井付近にある鉄の梁には、巨大な鎖と鉤爪がぶらさがっており、梁の隅では、ネズミに似た生物がちょこまか走り回っていた。
再生槽の横に立つ小柄な男が、中指で眼鏡を持ち上げた。
「このゴミは?」
男は背は低いが、捲り上げた袖から突き出した腕は丸太のように太い。アームレスラーでもこうはいかないだろう。おまけに顔も含めて生傷だらけだ。
冷たい目でぼくを見下ろしている。
ぼくを運んできたパイロットがスピーカーでいう。
「団長はこいつを運用する気らしい」
「冗談はやめてくれ。よく見ろ。こいつがどんな機体かわかっているのか?」
「あー、バラバラの部品をつなぎあわせて作られてるよな」
「そのとおり、七つ、いや、八つの文明圏の部品が混在している。その意味がわかるか?
巨人の肉は別の巨人につけても拒否反応は出ないが、文明圏が違えば神経や血管の配置が違う。だから、原則、土台となる中枢系統と同じ型の巨人の部品しかつなげられないんだ。
それを、つないでみせただけでも、この巨人の整備士はたいした腕だよ。山の蛮人どものなかにも、優秀な人間はいるらしい。
しかし、運用は不可能だ。考えてもみたまえ。自分の両手足が切り落とされ、他人のものと交換したところを。まあ、腕の一本二本ならともかく、こいつはあまりに寄せ集めすぎる。
動かせない。よって、ゴミだ」
「いや、しかしよ、先生。こいつはたしかに動いてたぜ? 山の上から落ちてきて両足で着地したんだ。まあ、そのあとぶったおれたけどよ。動かないってこたあないだろ。あんたなら、なんとかできると団長は踏んだんだと思うぜ?」
先生と呼ばれたメガネマッチョが眼鏡を掛け直した。
「着地、だと? ありえない」
「まあ、そいつの修理は先生にまかせるよ。俺はまだ雪かきが残ってるんでね」
ぼくを運んできた巨人は、足音を響かせ、格納庫を出て行こうとする。
メガネマッチョが「待て!操縦士はどこだ?生かしてあるのか?話を聞く必要があるぞ!」と手を伸ばしたが、巨人はそのまま外に消えた。
開いたままの扉から風が吹き込んでくる。
メガネマッチョはあらためてぼくを見下ろした。
「こいつが、動く、だと?」