カロリー、ゼロ(お腹がすいて力が出ない)
帝国の巨人が、〝ぼくたち〟が助けようとした子供を踏んだ。
落下中のぼくたちのなかで、冷たい怒りが爆発した。
都市が破壊された時の記憶が甦る。
ばらばらになっていく集合住宅。
空から落ちてきた子供の人形。
雲の中に消えていったアリシャ。
ぼくたちはほぼ五十メートルおきに突き出した岩を掴み、ブレーキをかけながらも、すさまじい速度で降り続けた。
そのまま子供を殺した巨人の真横に着地する。
轟音と共に雪が激しく舞い上った。
巨人の乗り手が念波で「は?」と、つぶやく。
ぼくたちは瞬時にイメージを整えた。
まず、この巨人の首を手刀の一撃で刈る。
都市で手にした大刀をクライミング中に失ったのは痛いが、心技体ともに完璧な一撃なら、敵の頚椎を粉砕できるはずだ。
それから、打ち倒した巨人の腰の鞘から剣を、手から槍を奪う。槍を投げ、右斜め百メートル前方の巨人の胸を貫く。
敵全体が対応する前に、ヤズデギルドの紅い機体との距離を詰めて、十秒以内に切って捨てる。
ヤズデギルドはず抜けたパイロットなので、数合はぼくたちとも渡り合えるだろうが、絶対に斬り伏せてみせる。
そして乱戦だ。
何機かが自分の犠牲を顧みずに手足にしがみついてきたら厳しいが、大将の敗北に動揺してくれれば勝ち筋はある。
敵巨人の「は?」という念波が消えるまでのわずかな間に、ぼくたちは敵の最後の一機を打ち倒すまでのプランを完璧に作り終えた。
あとは実行するだけだ。
まずは、この目の前の巨人から。
ぼくは手刀で攻撃しようと右手を振りかぶりーー
雪の上に倒れた。
衝撃音が響く。
「え?」とリガの肉体がつぶやいた。
倒そうとした巨人の乗り手が「な、なんだ、こいつ? いきなり降ってきたかと思ったら、倒れちまった」という。
ぼくたちの身体はぴくりとも動かなかった。
筋肉に力が入らない。
なにがおこった?
着地直前に攻撃を受けたのか?
別の巨人の乗り手がいう。
「敵、なのか?」
ぼくたちは意識を集中したが、左手の小指がわずかに震えただけに終わった。
困惑したリガが片手を操縦桿から離した。
「なに? ヴァミシュラーさん、なんなんですか!?」と叫ぶ。
ぼくは全身の感覚を探った。
どこにも痛みはない。
なのに、動けない。
手足の主要な筋肉が活動を止めている。
奇妙な倦怠感が全身を包んでいた。
登山中にも感じた、不思議な感覚。
ずっと昔に感じたことのある感覚。
体の中の器官が〝なにか〟を求めている。
ぼくの巨人脳が、論理的思考で回答を提出した。
これは人間のとき、昼休みの直前に感じていた感覚に近い。
腹部を中心とした焦燥感。
つまりーー。
「熱がなくなったんだ」
ぼくは〝腹が減っていた〟のだ。
この何ヶ月か、腹が減るということがなかったうえ、巨人の内臓感覚が人間のものと異なるために、自分が空腹であることがわかっていなかった。
そして、いま、カロリーが切れた。
おそらく、脳を守るためにリミッターかなにかが発動しているのだろう。カロリーが補給されなければ、動けそうもない。
リガが絶望的な呻き声をあげた。
ヤズデギルドの念波が響く。
「そこの巨人の乗り手。殺されたいなら起き上がれ。わずかなりとも生きたいなら、ただちに機外に出ろ」
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正直、この作品はSFアクションというマイナージャンルなうえに、非テンプレ展開ですため、書籍化はまず難しいかと思います。
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