14対1
衝撃波は本来目に見えない。
ぼくは人間のときの知識を思い出した。
爆発事故の映像などで、衝撃波として紹介される白いモヤのようなものは、衝撃波によって空気が圧縮され、その背後が急減圧されることで、水蒸気が結露したものだ。
醸造タンクから発生した球形のモヤは爆発的に広がり、モヤの直前を爆進したであろう衝撃波が、雪面にいた大勢の山の民を塵芥のように吹き飛ばした。
立ったままだった山の民の巨人も、岩壁に叩きつけられた。
帝国軍の母艦もはげしく揺れる。
衝撃波はそのまま断崖絶壁をかけあがった。
張り付いていた雪や氷が剥ぎ取られていく。
母艦の上の岩棚にいた数十人の山の民は、宙に舞い上げられた。
ぼくはあわてて腕で顔を覆った。
直後に空気の塊のようなものが激しくぶつかってきた。
見上げると、空の雲が激しくかき乱されていた。
が、都市が破壊されたときのように、雲が散ることはなかった。
ヤズデギルドが威力を抑えたのか。
おそるおそる下を覗くと、谷間の底の雪が、クレーターのように抉れていた。その中心には、醸造タンクがキラキラと何事もなかったかのように輝いている。
あれはいったいなんなんだ?
いまの爆発で無傷とは。
どんな物質でできているのか。
雪原に散らばった山の民たちが動き始めた。
衝撃波でぶん殴られたとはいえ、三分の一ほどは、まだ身体が動かせるらしい。
だが、彼らは帝国の巨人を攻撃するのではなく、天を振り仰いでいた。
雪だ。
あらゆる峰々が雪崩れている。
雪は地響きを立てながら、山肌を駆け下ると、谷底を埋め尽くした。
巨人のぼくから見れば、雪の量は少なく、谷底全体をほんの数メートル覆ったに過ぎなかったが、山の民は一人残らず飲み込まれた。
帝国の巨人たちがゆっくりと身を起こし、数機がかりで生き残った黒い巨人たちを狩っていく。
黒い巨人たちは奮戦したが、多勢に無勢、たちまちバラバラに引き裂かれた。
ヤズデギルドの念波が響く。
「もう少し丁寧に倒せ。今回の遠征では随分と巨人を失った。使えるパーツは回収するんだ」
ヤズデギルドの指示で、帝国の巨人たちは三つのグループに分かれた。
母艦を掘り出すグループ、母艦前方の雪の壁を取り除くグループ、それと山の民の生き残りを始末するグループだ。
山の民のうち数人が、必死で雪の中から這い出していた。
いま、一人の少年の目の前に帝国の巨人が迫っていた。
少年はまだ八つか九つくらいか、ボロボロの衣服から突き出た痩せた腕で、小さなナイフを握っている。
腹部には大きな赤きシミ。出血している。とても助かりそうもない。
ぼくの超視力は彼の目ににじむ涙を捉えていた。
ぼくのコクピットで、リガが何か叫んだ。
気づけば、ぼくの身体は動いていた。
身を潜めていた崖から飛び降りたのだ。
バカなことをしているのは自分でもわかっていた。
いまざっと見ただけでも、敵は十四機。しかも、うち一機は運動能力のずば抜けたヤズデギルドの紅い機体だ。
巨人の超頭脳で考えなくても、ここは少年を見捨てるのが賢いとわかる。
それでも、ぼくは飛び出していた。
リガがもう片方の手で操縦桿を掴む。
ぼくたちは一体となり、あらゆる知覚が研ぎ澄まされた。
〝ぼくたち〟は傾斜のキツイ岩肌を、ましらのような動きで〝駆け落ちた〟。