表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/172

遺体通貨

ぼくの脚部装甲にひっかかっていた遺体の一つが、地面に落ちた。


気のいい髭面が苦しみに歪んだまま固まっている。ナハシュさん。寝具屋のナハシュさんだ。リガが生身の歯を食いしばった。


ナハシュさんは市民だったけど、准市民のわたしやお姉ちゃんにも優しかった。わたしたちが城外の小屋に住み、都市から漏れ出るわずかな熱で暖を取っていると知ると、余り物の布地であたたかな布団を作ってくれた。わたしとお姉ちゃんはいつもあの布団にいっしょにくるまって寝ていた。


「なんで?」リガ、いや、リガとぼくが入り混じった精神は念波でいった。「あなたたちは、なぜこんな酷いことができるんですか?」


サリューがいう。


「うわお! 思念が安定してない。ほんとに子供じゃないか! しかし、なんだ? すごく変な思念だなあ。機体がボロボロなせいかい?」


「質問に答えてください」


「うーん。酷いってのは、ここの反応炉をもらったこと? そいつは上の命令だからオレにいわれてもなあ。それとも、人間の遺体のことかい? いっとくけど、オレは君たちみたいに食べたりしないよ。これはね、物々交換用。


君たちみたいな連中はあちこちにいるからね。遺体を一つくれてやれば、女はすぐにしなをつくるし、古代の遺物が手に入ることもある。蛮族の領域じゃ、カネが使えないから、カネの代わりってとこかな。


オレはね、カネが好きなんだ。責めないでくれよ。カネが嫌いなやつなんていないだろう? 


あと好きなものがあるとすれば、そう、戦い、かな」


曹長が怒鳴った。

「バカもの! 格好つけとる場合か! 空を見ろ! 一刻も早くこいつを片付けて船に戻らねばならんのだ」


「ちぇっ、不粋だねえ。でも、これも仕事だからあ、仕方がないか。きみ、一応、聞いてあげるけど、投降する気はないのかい? 生きたままなら遺体より価値がずっと高いから、ほかの蛮族に食べられるまでは生かしといてあげるよ?」


「それは、〝ぼくたち〟の台詞です。いますぐコクピットから出て、ナハシュさんに謝ってください。そうすれば、命だけは助けてあげます」


「ぼくたち? 君って不思議な言葉遣いをするね。〝コクピット〟ってなんだい? 操縦席のことかな?」


〝ぼくたち〟、たしかに少し変かもしれないが、この一人称はとてもしっくりくる。


サリューが鉄の網につながる鎖をふった。


「そもそも、状況がわかってるのかな? 君はすでに身動きできないんだよ? おまけに、鎖の端を握るのはこのオレが操るメラーブだ。こいつは、通常の帝国巨人の倍の腕力がある」


なるほど、たしかに目の前の巨人はでかい。ぼくや周りの巨人より頭一つは高いし、肩や腰、足回りもゴツい。


「オレは、軍団内で最強なわけ。いや、まあ、団長だけは別か。あの人はふつうじゃないからなあ」


「サリュー!」と、曹長。


空が不気味に唸り始めている。


サリューがもう片方の手に握る剣を構え直した。

彼の機体の関節周りの装甲が耳障りな金属音を奏でる。


「はいはい。それじゃあ、さよならお嬢さん」


そういって、鎖を引く。


彼の想定では、ぼくはすっころび、そこを突き刺して終わりだったはずだ。


だが、ぼくは平然と立っていた。


「お?」といって、彼の機体が鎖を引き直した。


ぼくはびくともしない。


「おいおいおい、どうなってるんだい? こっちのほうが筋肉の搭載量は上のはずだ」


その通りだ。


しかし、筋肉の〝出力〟は大きさだけで決まるものではない。重要なのは、力を入れるタイミングと、各筋肉の連動だ。


サリューの機体はたしかにデカいが、所詮は操り人形であり、それぞれの筋肉は微妙に誤ったタイミングで最高出力を出している。


一方のぼくは、ほぼ完璧に筋肉をコントロールしている。


つなひきと同じだ。


小学生十人でも完璧な動きを成すなら、プロレスラー十人に勝ちうる。


ぼくは鉄の網を両手で握りしめると、息を止め、全力で左右に開いた。


鉄線の目が伸び、ぶちぶちと千切れていく。


「うそだろう?」と、サリュー。


ぼくは鉄の網を破り捨てた。


鋼線を束ねた直径五センチほどもある糸が、ばらばらと落ちていく。


ぼくたちはサリューの機体に向かって足を踏み出した。


サリューの機体がじりじりとあとじさり、都市の城壁にへばりついた。


サリューの機体が両手をあげた。


「まいったあ!」


「は?」と、ぼくたち。


「なんだ?」と曹長。


「まいった! まいったよ。負けだ。降参する」


だが、その右手には剣が握られたままだ。


「なら、剣をはなしてください」


「わかったよ。ほら」


サリューの機体が剣を右手から放した。

剣が、手から落ちていく。

彼はそれを左手でキャッチすると、一息にぼくの喉を狙って突き出した。


ぼくは半身でかわすと、手刀で剣を叩き落とした。

重さ数トンはある鉄塊が雪煙と重低音を立てて地面にささる。



【読者のみなさまへのお願い】


「面白い」と思った方は、

広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価や、ブクマへの登録を、ぜひお願いいたします。


正直、この作品はSFアクションというマイナージャンルなうえに、非テンプレ展開ですため、書籍化はまず難しいかと思います。


毎日ちょっとだけ増える評価やブクマが執筆の励みですため、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観が面白いです。 [気になる点] ・巨人のメンテナンスはどうなるでしょう? ・帝国と他の国はどうなのでしょう? [一言] web小説は結構読んできました。 すごく面白いのも有りましたが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ